日本文学

文学者の自伝的小説から歴史を描き出すことは可能か

今回の授業では、札幌農学校で学んだ農業理念を自ら実践するべく国の農業指導者として僻地に入った人物を取り上げた。その僻地の開拓農家から出た文学者が、北海道文学館の初代理事長である。彼は晩年に自己の若き人生を自伝的小説として残しているのだが、…

橋本倫史『ドライブイン探訪』(筑摩書房、2019年)

ドライブインの実地調査・聞き取りインタビューを通して戦後史を描くルポルタージュ。 単にドライブインを紹介するだけではなく日本の道路交通史を知ることができ面白い。 日本におけるインフラ整備や高度経済成長期からバブル経済期までの実像を体感できる…

半藤一利『日本のいちばん長い日<決定版>』(文芸春秋、1995年)

内容は主に2つで①ポツダム宣言受諾から玉音放送録音までの鈴木内閣における攻防と②8月15日払暁に発生した近衛師団による宮城占拠クーデターが描かれる。ポツダム宣言受諾編はいつまでも閣議不一致で結論が出ないまま膠着状態に陥ったところで聖断を仰ぐ展開…

寺田寅彦『柿の種』(岩波文庫 1996年)の感想

大正9年〜昭和10年に寺田寅彦が俳句雑誌「渋柿」の巻頭第一ページに書いた即興的漫筆の寄せ集め。 以下「自序」におけるこの本の趣旨の説明。 …言わば書信集か、あるいは日記の断片のようなものに過ぎないのである。しかし、これだけ集めてみて、そうしてそ…

遠藤周作『土埃』(新潮社『遠藤周作文学全集第五巻』)

東京の郊外(おそらく多摩?)に家を買ったはなし。都心に比べて空気も良くそれなりに気に入っているのだが、開発の為巻き起こる塵芥が家の中に入ってきてほこりが溜まってしまう点が不快だった。だが、その土地の歴史や地理を調べていくにしたがって、縄文時…

遠藤周作『雑種の犬』(新潮社『遠藤周作文学全集第五巻』)

遠藤周作の犬に対する価値観が見られる。『深い河』における犬の位置づけとよく似ていることから、この作品が受け継がれたのか?幼少期に大連に居た時にココロの支えだったのが犬という存在だったというわけだ。両親の仲が悪く、一緒に夕飯を迎えてもその雰…

遠藤周作『道草』(新潮社『遠藤周作文学全集第五巻』)

海外旅行でエルサレムに寄った夫婦のはなし。遠藤周作の夫婦観というものは結構現実的に辛いものがあって、他人が一緒に時間を過ごせば衝突ぐらいするわな。で、エルサレムに寄ったのは娘がミッション系の私立中学に通っているので尼僧の覚えを良くする為と…

遠藤周作『ユリアとよぶ少女』(新潮社『遠藤周作文学全集第五巻』収録)

時代設定は、秀吉の朝鮮出兵から家康の大阪の陣にかけて。 支配者に服従することに対して諦めを抱いた男たちに対し、決して屈しない少女ユリアの対比。 朝鮮出兵の戦乱で親兄弟を亡くし孤児となった鮮人の少女。少女は全てを諦め運命に従うしかないというか…

遠藤周作文学全集第三巻(新潮社)を読んでる

『火山』(「文学界」昭和34年1月号-10月号) 『最後の殉教者』(「別冊文芸春秋」昭和34年2月号) 『従軍司祭』(「世界」昭和34年9月号) 『異境の友』(「中央公論」昭和34年10月臨時増刊号) 『あまりに碧い空』(「新潮」昭和34年11月号) 『再発』(「…

遠藤周作「イヤな奴」(『遠藤周作文学全集第三巻』新潮社)

初出:「新潮」昭和34年4月号 舞台は戦中。戦時動員のためカトリックでなくともキリスト教の寮に入寮させられるようになった時代。主人公の江木は、肉体的な恐怖や権威を感じるとすぐに自分の信条を曲げてしまい相手に媚び諂う癖がついていた。彼はそんな自…

遠藤周作『黄色い人』(新潮文庫) の感想

キリスト教を裏切った二人の人物が主人公。 カトリックの感覚に対する日本人の無感動な光が漂う目を代表する千葉。 憐憫に駆られて情欲し司祭の立場でありながら女を犯した背教者デュラン。千葉がブロウ神父に送った手紙という方式で描かれ、その中途中途に…

遠藤周作『深い河』(講談社文庫)の感想メモ

5人の登場人物のオムニバス方式で、インドのガンジス川に向けてそれぞれ集まっていく。 客観的に見れば単なる老若男女だけれども個人個人うちなる悩みや事情を内包している。 妻を亡くし輪廻転生に苛まされる磯辺。 キリスト教及び既成の倫理観に反発を抱く…

中島敦『狼疾記』(ちくま文庫『中島敦全集2』内収録)の再々読をしてみる

再再再読くらい。初めて読んだのは浪人の時。確か世界史の講師が中国史で『李陵』を紹介し、そのまま三省堂に逝って購入した岩波文庫版のに入っていた。浪人時代のことを思い出すと、あれほど勉強したのに地元駅弁大学だと思うと涙が出てくる。当初は、この…

武田泰淳『富士』(筑摩書房『武田泰淳全集第十巻』内収録)の感想

精神科医でありながら精神を病んだ大島が、その元凶を手記で回想する。 第二次大戦下、富士山麓における精神科病院が舞台。 実習生である大島が、様々な精神病患者や治療スタッフとの関わりを通して人間集団に横たわる狂気に狂って逝く様が読みどころ。 個々…

武田泰淳『富士』(筑摩書房『武田泰淳全集第十巻』内収録)の感想

精神科医でありながら精神を病んだ大島が、その元凶を手記で回想する。 第二次大戦下、富士山麓における精神科病院が舞台。 実習生である大島が、様々な精神病患者や治療スタッフとの関わりを通して人間集団に横たわる狂気に狂って逝く様が読みどころ。 個々…

武田泰淳『富士』(筑摩書房『武田泰淳全集第十巻』内収録)の感想

精神科医でありながら精神を病んだ大島が、その元凶を手記で回想する。 第二次大戦下、富士山麓における精神科病院が舞台。 実習生である大島が、様々な精神病患者や治療スタッフとの関わりを通して人間集団に横たわる狂気に狂って逝く様が読みどころ。 個々…

武田泰淳『快楽』(筑摩書房『武田泰淳全集第十七巻』収録) の感想メモ

時代背景は、大戦前の気配が色濃くなっていく日本。 仏教と社会主義がテーマ。一切衆生を掲げる仏教と全て等しい労働者階級がの関係性について云々。 主人公の柳は大きな寺の坊ちゃんで仏教と社会主義について思索していく。 柳は、僧であるにもかかわらずエ…

武田泰淳『快楽』(筑摩書房『武田泰淳全集第十七巻』収録) の感想メモ

時代背景は、大戦前の気配が色濃くなっていく日本。 仏教と社会主義がテーマ。一切衆生を掲げる仏教と全て等しい労働者階級がの関係性について云々。 主人公の柳は大きな寺の坊ちゃんで仏教と社会主義について思索していく。 柳は、僧であるにもかかわらずエ…

武田泰淳全集 第2巻(筑摩書房)の感想

サイロのほとりにて 北海道における、都会人の気質と自然人の気質の狭とか 都会人は到底北海道の自然に馴染めないとか、もともとの北海道人は明治の近代化に敗れ去った江戸人(都会人)であるというアイロニー 非革命者 敗戦後中国の代書業シリーズ。 この代…

坂口安吾『牛』(ちくま文庫『坂口安吾全集』収録) の感想

大方の話の筋はこんな感じ。 牛のような体格で頭の働きも悪い主人公。牛とあだ名を付けられ馬鹿にされている。あるとき彼は、高校生が集団レイプをしていると ころを目撃する。牛は高校生を追い払うのだが、女性からメンバーの一人だと勘違いされて騒ぎ立て…

田山花袋『帰国』(花袋全集刊行会『花袋全集第7巻』収録) の感想

山窩を題材にした小説。 ここに出てくる山窩は諸国を流浪しているが一年に一度故郷へ集うという設定。 この作品では、その故郷へ帰るまでの道のりが描かれている。 山窩の日常風景や生活、サーベルが象徴の官憲との関係について色々イメージできて面白い。 …

中島敦『マリヤン』(ちくま文庫『中島敦全集2』収録)の感想

パラオ地方島民の女性マリヤンの話。 インテリで知識人なマリヤンだが、温帯的気質の良いところも熱帯的気質の良いところも双方が打ち消されてしまって、そこに哀愁を漂わせている。文学を読んでも仕方がないのに本を読んだり、無理に洋装をしていたりする姿…

中島敦『風物抄』(ちくま文庫『中島敦全集2』収録)の感想メモ

日本の植民地下?委任統治領?のクサイ、ヤルート、ポナペ、トラック、ロタ、サイパンでの出来事を書いている。 向こうの気候や自然、島民の文化と日本人の関係などが面白い。 特に、ヘルメットを権威の象徴としパナマ帽では従わぬのにヘルメットを被った途…

武田泰淳『ひかりごけ』(新潮文庫)

◆流人島にて 舞台設定は日本の太平洋側の諸島。罪人が奉仕のために流されるある島があった。そこは本州から遠く離れ、一種の島独特の共同体を形成していた。主人公はかつてその罪人であり、島の労働力として酷使されてきた。だが、あるとき偶然雇い主から殺…

遠藤周作『留学』(新潮文庫)

『ルーアンの夏』『留学生』『爾も、また』の三部構成。いずれも留学時における文明の衝突がテーマ。 『ルーアンの夏』は戦後直後が舞台で功名心のためにキリスト教留学というカタチをとった若者:工藤が、実際にフランスに留学してみて感じる違和感に惹きつ…

坂口安吾『母の上京』『外套と青空』『私は海をだきしめていたい』『戦争と一人の女』『青鬼の褌を洗う女』(新潮文庫『白痴』内収録)

◆『母の上京』 舞台は戦後。終戦後のどさくさに紛れ商品を横流し、闇で一財産きづいた男が主人公。だが、取り締まりが厳しくなり、闇での商売が立ち行かなくなる。大衆的屋台で働く母娘と女形崩れのオカマと一緒に暮らしていたが、男が隆盛だったときは娘と…

徳田秋声『新世帯』(岩波文庫)

文学史的な位置付けは自然主義で、高浜虚子の推で国民新聞で連載を始めた。 これまでの硯友社の趣から一変し、秋声の自然主義としての作品の土台となった。舞台設定は明治末年の商人の家庭。 主な登場人物は3人で、小さい店の主人;新吉とその新妻;お作、そ…

徳田秋声『黴』(岩波文庫)

◆徳田秋声とは? 〜文学史的上の位置付け〜 ・およそ形を成した思想を持たず、逆にそれが人生に対して提出する「解決」に絶えず意識的に反発して独自の表現を築き上げた。 ・硯友社時代に『雲のゆくへ』で作家として認められる。 ・自然主義の時代が来ると『…

徳田秋声『あらくれ』(岩波文庫)

この作品は、お島という、全てを自分の力で解決しようとする勝気だが結局は周りの状況に引きずられてしまうという女性を描いたものである。お島は「人に対する反抗と敵愾心のために絶えず弾力付けられていなければならないような」女性で自分の人生を主体的…