徳田秋声『あらくれ』(岩波文庫)

この作品は、お島という、全てを自分の力で解決しようとする勝気だが結局は周りの状況に引きずられてしまうという女性を描いたものである。お島は「人に対する反抗と敵愾心のために絶えず弾力付けられていなければならないような」女性で自分の人生を主体的に歩もうとする。その性格には生まれた背景が原因となっており、人に媚びるためには働かずにはいられないような気質を持ってしまっているのである。だが、『痴人の愛』のナオミや『或る女』の早月葉子よりはアクが少ないと思われる。自然主義だからアクを強く出来ないかもしれないが。


時代背景は大正時代で舞台設定は庶民の行き行く日々。文学史的位置づけは、『新世帯』『足迹』『黴』『爛』に続く自然主義的系譜の中で、秋声氏の傑作だけではなく、明治の末年から大正の初年にかけての日本の自然主義的文学の代表的傑作である。


常に自主的に生きようとして日々を焦って暮らすお島の生活は見ていて、出世主義だのなんだのと思うかもしれないが、日常に埋没しては生きられない一種の生命力が溢れでてきている様子が良かった。『虚栄の市』のレベッカも言っていたけど、何が幸せかはその人々によって違う。だから、お島の生き様も彼女からしてみれば満更でもないのかと思われるよ。