徳田秋声『新世帯』(岩波文庫)

文学史的な位置付けは自然主義で、高浜虚子の推で国民新聞で連載を始めた。
これまでの硯友社の趣から一変し、秋声の自然主義としての作品の土台となった。

舞台設定は明治末年の商人の家庭。
主な登場人物は3人で、小さい店の主人;新吉とその新妻;お作、そして友人の女であるお国である。
新世帯の気苦労と結婚生活の幻滅を描いた。

 少しでも店を大きくしたい新吉はかなりの堅物で仕事一筋。妻に迎えたお作にも店を手伝って欲しいのだが、お作は従順で素直なものの凡庸で立ち回りの才は無かった。そのため、二人の仲は次第に冷えていく。お作が出産のために田舎に帰ると、新吉のもとへ友人の女;お国が現れる。お国はお作と対照的な人物で自発的に行動するがどこか怪しい性質をもった玄人である。
 お作と対照的なお国にどこか惹かれる所があるものの、やはりお作の方が誠実であると思う一方で、お作と対していると短所ばかりが目に付いてしまい叱ってしまうのである。このような心理のアンビバレントが物語の中核をなしていく。
 結局はお国は店を出て行き、お作が再び懐妊するところで幕が閉じる。
最後の懐妊は何を象徴するのか。貶しながらも夜ではちゃんとやってるという行為は何を表現しようとしているのか。