雑録

遠藤周作『留学』(新潮文庫)

 『ルーアンの夏』『留学生』『爾も、また』の三部構成。いずれも留学時における文明の衝突がテーマ。
 『ルーアンの夏』は戦後直後が舞台で功名心のためにキリスト教留学というカタチをとった若者:工藤が、実際にフランスに留学してみて感じる違和感に惹きつけられる。特に欧州人によく思われようと本心を隠して媚を売るところが象徴的。おなじ留学生だけれども、東洋人の立場から、黒人が欧州人に取り入ろうと道化芝居をするのを見て、工藤は一種の嫌悪を抱く。黒人は歓心を買うためソウルソングを叫ぶのだが、もう一人の黒人は自分を曲げてまで媚を売るのにうんざりして出て行ってしまう。出て行った男はアイデンティティを守ったがそれ故に孤立し、媚びた男はアイデンティティを失ったが見事欧州人からチヤホヤされる。
 『留学生』は17cが舞台。留学生として派遣される荒木トマスだが、世相は変わり秀吉・徳川とキリスト教が弾圧さえるようになる。様々な悩みを抱えるが、結局転んで棄教する生き様が描かれる。
 『爾も、また』では、日本がある程度経済発展した後が舞台。主人公はとある大学の講師で外国文学者。だが、異質の文明であるヨーロッパ文化に触れて苦悩する。功利的に学問を利用しようとしていた自分の姿が浮き彫りになり、語るものがない自分を直視する。違う血液型に違う血液型は輸血できない、という表現があらわすように巨大なヨーロッパ文明に押しつぶされる。それに学閥の問題も交わり振り回される。文学部から教養学部に回されることになり、自分に惚れていた女を下っ端に取られ精神的なダメージを受ける。なおかつ、その自尊心がゆえにパリの日本人とうまく馴染めず日々孤独になっていく。自尊心が故に孤立化していく所は読んでいて『山月記』を思い出した。結局、最後は結核になり帰国するところで幕を閉じる。自分が住んでいたホテルの一室に新たに日本人の留学生が来ることになり、最後にこうつぶやく。「爾も、また」と。