野村美月『"文学少女"と月花を孕く水妖』(ファミ通文庫) の感想

本作品は文学少女シリーズの番外編。テーマは泉鏡花
てっきり最終巻だと勘違いして購入し、文学少女も終わりかぁとしみじみしたのも束の間ページをめくったら番外編。
内容としては作家となった心葉の過去回想形式となっている。
ここから最終巻の後でどうなるかと予測することもできるかと思う。

キャラクター表現「遠子先輩について」

この物語では、文学少女の妖怪として遠子先輩というキャラクターが出てくる。彼女はホントウの人間ではなく、食事の代わりに文学関係の書物で栄養を摂取する、という非リアリズム的な特性を帯びている。だが彼女が妖怪であることは一部の人間を除いて知られていない。彼女が存在している唯一つの理由は、主人公:心葉を導くこと。


ここで主人公:心葉についておさらいしておこう。彼は幼馴染の少女を自殺未遂に追い込んでしまう。それは、盗作して作家もどきを気取っていたその少女に物語をせがみ続ける一方で、心葉自身がとある文学賞を受賞してしまったことによる。好意を抱いていた少女を自殺未遂に追いやってしまったことを悔い精神崩壊した心葉は、中学後半においてヒキコモリ生活を余儀なくされた。遠子先輩はそのような心葉を無理やり文芸部に入部させ、再び物語を創作すること・人と関係を築けることと向き合えるように仕向けたのである。


では、どのような過程で遠子先輩の存在が現れたのであろう。そのなぞを解くのが今回の作者の泉鏡花に対する母性観である。作者は、泉鏡花がその作品の中で「彼を癒していくれる母親像」を見出していたと説いている。その考えを文学少女シリーズにも適用すると、遠子先輩の存在は心葉の妄想によって生み出されたのではないかと推測できる。


つまりは、遠子先輩は心葉の創造が生み出した女神像であったのである。そのため今回の作品において執拗に心葉と遠子先輩は通じ合って入るが交わり得ない関係として描かれたのであろう。そして作家となった心葉の過去回想シーンでは、遠子先輩の存在は消滅し、琴吹さんとよろしくやっているようであろう様子が暗喩されている。以上により、最終巻では遠子先輩の卒業とともにその存在が心葉の妄想が具現化したものだとネタばらしされ、感動のお別れタイムとなることが予想できる。