遠藤周作『ユリアとよぶ少女』(新潮社『遠藤周作文学全集第五巻』収録)

時代設定は、秀吉の朝鮮出兵から家康の大阪の陣にかけて。
支配者に服従することに対して諦めを抱いた男たちに対し、決して屈しない少女ユリアの対比。


朝鮮出兵の戦乱で親兄弟を亡くし孤児となった鮮人の少女。少女は全てを諦め運命に従うしかないというかのように無表情で感情の起伏もなかった。百姓上がりの足軽から小西行長までと男たちは皆自分たちは支配者に服従することしか出来ないと思いつつ、自分たちの投影でもありながら超越したかのような少女に惹かれるところがある。めぐりめぐって、彼女はキリスト教の洗礼を受け、ユリアという名を受ける。憂いを帯びたユリアは家康の性的対象となり夜伽を命じられるがこれを拒否。キリスト教を信じる無垢な少女が、権力の比喩としての家康に背いたことになったと。彼女に惹かれていた男たちは、自分たちが無しえなかった権力への反逆を少女がやってみせたことに対し一種の感情を抱く。結局、ユリアは命に背いたことにより、島に流され死ぬ。