ソルジェニーツィン/木村浩編訳『クレチェトフカ駅の出来事』(岩波文庫『ソルジェニーツィン』短篇集内収録)

そして、きのうの女たちがそうだったように、きょうも、夫を戦場へ送り出したばかりの若い人妻たちは、いや、娘たちも、みながみな操を守り通すことができずに、明りの届かない片隅で、若者たちと抱き合って寝ることになるのだろう。

舞台は第二次大戦中のソビエトロシア。後方勤務で列車の指令をゾートフ中尉が主人公。
前線に出ることを望みながらも、後方支援に廻されたはがゆく思うゾートフ中尉。そんなゾートフ中尉に対して前線兵士が抱く感情が推し量られる。国家の為に尽くそうとする男と戦時中でも日々の生活のことしか頭にない女との対比も伺われる。勤務後、映画にも行かずディナーにも顔を出さないゾートフ中尉がやってるいることは学生時代に読めなかった『資本論』を読むこと。下宿先で夜な夜な読書に励むが、オンナにモーションをかけられ、戦時中の男女関係について思考をめぐらせもする。ある時、列車に乗り遅れた兵卒が遅延証明書を持ってやってきた。最初は好意を持って接していた中尉だが、その兵卒がスターリングラードの名を知らずと分かると態度が一変。よもやスパイかと拘留してしまう。その後、ゾートフは兵卒のことを生涯忘れることはできなかったのだが、その謎は解説の通り。スターリングラードという呼び名が知れ渡ったのはスターリングラードの戦いのあとのことで、当時はツァリーツィンの呼び名の方が一般的だったということ。つまり中尉はスパイでもなく本当にソビエトの為に戦ている男を拘留してしまったからだと。