ソルジェニーツィン/木村浩編訳『公共のためには』(岩波文庫『ソルジェニーツィン短篇集』内収録)

初出は1963年『新世界』誌7号。舞台はソビエトロシアの技術学校。
おおまかな話の筋はこんな感じ。
手狭になった技術学校で新校舎の建設がなかなか進まない。そこで生徒たちも工事に参加し、努力した結果、ようやく竣工となった。だがしかし校舎引渡しは遅延され、結局のところ新しい専門的な研究所に明け渡されることになった。これに憤慨した校長はなんとかして取り戻そうと思案に暮れ、戦友で市委員会の書記であるグラチコフに助けを求める。このグラチコフがこの物語の主題となる人物といっても過言ではなく、階級が上である権力者の党員との駆け引きがこの作品のみどころとも言えよう。作中では「正義と不正がぶつかりあう」と表現される。また、教師サイドの描写において、国家の為といって生徒に何の説明もないまま、新校舎を手放さなければならない葛藤も描かれている。結局、グラチコフの尽力のおかげで彼のポストと引き換えに新校舎の隣に建設予定の寄宿舎を技術学校の校舎としてあてがうようにとの約束を取り付けた。共産主義の中に潜む資本主義的な不正を照らし出そうと校長が思いをめぐらせる眼前には、新校舎と寄宿舎の間の土地の境界をわずかでも新校舎側に取ろうとしている指導者が映り、「公共のためかね、あん畜生!!」と不満がもれるのであった。

「だって、われわれは石の中ではなく、人間の中にコミュニズムを建設しなければならないんです!!そのためには――時間もかかるでしょうし、困難も大きいでしょう!しかし、われわれはが石の中に、たとえあすにでもすっかりコミュニズムを建設し終わったとしても、それではいかなるコミュニズムわが国には生まれないでしょうよ!!」