雑録

朱門優『ある夏のお見合いと、あるいは空を泳ぐアネモイと。』(一迅社文庫)の感想・レビュー

義父と上手くいかず、斜に構えて人生をどうでもいいと感じる少年が、想い出を取り戻し生き甲斐を見つけるというおはなし。どうでもいいですけど、ライター買いですよ、ライター買い。朱門さんですよ。『蜜柑』『めぐりひとひら』『いつか届く、あの空に』をプレイしたこの身なればこそ、読まずにはいられまいて。


主人公のオトコノコは煩雑な人間関係に疲れ、学校でも友達を作らず孤独な日々を過ごしていた。そんな彼に付き纏うのは一人の幼馴染巫女巫女少女。は〜い、何時だって孤独な男の癒しと成るのは、救いの象徴としての少女の存在ってわけですよ?彼女は、少年を親しみを込めて「ワンちゃん」と呼び、下僕としてペット扱いするの。そんな彼女の献身もむなしく、適当にあしらう少年。しかし内心では邪険に思ってはおらず、何だかんだいいながらも彼女に命令されるのがたまらないってわけさ。だってそれは、自分の感情を放棄して他者に意思決定してもらっているから。「責任逃れ」で「言い訳」もでき、その上「楽ちん」と三拍子揃ってるぜ!いぇい!


もちろん視点変更有りで少女の内面描写を深めることも忘れないさ。巫女巫女少女は、少年のことが好きで好きでたまらないの。昔はこうじゃなかったわ。苛められていてオドオドしていたわたくしを導き、支え、構ってくれたの。独りで泣いているといつも頭をなでなでしてくれたのに、今では泣いているのにも気づいてもらえない。それはどうしてなの?いつから彼は変わってしまったの?けど変わってしまったのは彼だけでなく、わたくしもだわ。わたくしが最強無敵才色兼備巫女巫女幼馴染に変われたのは「ワンちゃん」のおかげ。でもそれは何がきっかけだったのかしら?人は起源を知りたいの。


え〜と突然ですが、ここで朱門ワールドに突入です。朱門ワールドといえば、フォークロアや神話や伝奇がウリですが、この作品も御他聞にもれず発動します。この地域では「お見合い」という伝統行事があって、それは2人以上で、喪ってしまった想い出探しをすること。伝統行事を司る神様はかつては能率主義でしたが、幼き日の少年によって聞かされた寓話『北風と太陽』に影響を受け、能率主義を一変。「焦って答えを求めるな。自分で知ってこそ、身につくこともある」という態度に変わります。少年は巫女巫女幼馴染に引っ張りまわされながら、時々に神様から助言を授かるの。そして自分を見つめなおしていく。義父と上手に人間関係を築けなかったのは逆恨みであったこと、自分の非を他人に擦り付けることでしか自我を保てなかったこと、巫女巫女幼馴染はずっと少年を叱咤激励し続けてくれたこと、いっぱいいっぱい思い出す。そうだ、昔は、ワンちゃんと呼ばれたいたのは少年ではなくて巫女巫女幼馴染。少年に励まされて完璧超人才色兼備幼馴染巫女巫女になれたのは少年のおかげ。その後、母を亡くし、義父と上手くいかなくなり、人間関係が希薄となっていた少年と絆を保つには、ご主人さまになるしかなかったの。


こうして二人は思い出を取り戻すことに成功。そして、神様に感謝です。そう神様は平常時にはここにはいないの。神様は、つまりは御神体は「空」だったのです。問題があったときにだけ、神様は舞い降りるのこの街に。神様が現れるということは、人々が大切な想い出をなくしてしまっているということ。もう逢わないほうが良いということは、人々が幸せであること。そんな二律背反を抱えながらも、少年は思うのだ。神様を忘れないと。そんで、デレ化した幼馴染巫女巫女と一緒に暮らすの、ということで、ハッピーエンド。