火坂雅志『天地人(下)』(NHK出版) の感想・レビュー

図書館でなんとなく下巻を手にして、そのまま読了に至る。
来年の大河ドラマ原作。上杉謙信・景勝の二代に仕えた直江兼続のはなし。
下巻は景勝が秀吉に促されて上洛する所から、大阪の陣で豊臣を滅ぼすまで。


このおはなしのテーマとなっているのが「義」という言葉。上杉謙信以来、上杉家は「義」を何よりも尊重してきた。しかし、義とは何ぞや?直江兼続は「義」を追い求めて生きていく。それゆえ兼続が捉える「義」の意味は変化していく。兼続が上杉家の家政全てを担っているため、どのように「義」を成そうとするかで、上杉家の方針が全て決まってくるというところがポイント。時代の転換期、つまりは秀吉の栄華とその没落、家康の台頭という3つの時期ごとに、どのように上杉家が動いたか、その動きの根拠をどのように「義」のイデオロギーに求めたかについての解釈が読んでいて面白い。


結局、兼続は「義」を仁愛と捉え、自らが汚れても天下泰平・民百姓の安定に見出していく。そのため謙信があれほど「利」のための戦を嫌ったのに対して、兼続=上杉家は豊臣方を見捨て徳川の下で戦に望む。だが兼続の行為は「義」に対する裏切りではないのだ。愛という思想で民のために天下泰平を望む姿として描かれる。創作としてであろうが、この作品では夏の陣の合戦の前に兼続と真田幸村が酒を飲み交わす描写がある。幸村は、豊臣家への忠義のため、はたまた徳川の権力の横暴に対抗するために「義」を貫く。一方、兼続は上杉家を存続させるため、戦乱をなくすために「義」を貫く。その対比が全てを物語っているといえるだろう。