コードギアス 反逆のルルーシュR2の総評・まとめ 「ルルーシュの目的の変遷」について

コードギアスは結局のところ、一人の少年が葛藤・苦悩・煩悶しながらマザコンファザコン・シスコンを乗り越えて世界平和を成し遂げた壮大な物語であった。ここでは、ルルーシュというキャラクター表現に注目しながら物語を振り返り、どのようにルルーシュの目的が変遷し終結を迎えたかを書き連ねていこうと思う。ここでは、ルルーシュの目的を「個人的怨恨・日本解放戦争・反帝国主義戦争・集合的無意識の否定・恐怖政治の否定・憎悪の象徴」の6つに分けて考えることにしている。

承前)作品の世界背景とギアスを手に入れるまで

物語の主人公は、一介の学生ルルーシュ。彼は将来に夢も希望も見出せずただ唯々諾々と日常を過ごしていた。自分の努力ではどうにもできず、既存の権力の前に屈服するしかないという社会状況。ある者は極左に走りテロリズムにより政府の転覆を狙う(カレン・黒の騎士団・ニッポン)。またある者は社会民主主義に走り議会制を認めながら漸進的に改良しようと試みる(スザク)。だが学生にはそもそもそんな力は無い。普通ならここでどうしようもない無力感から、社会に参加して市民としての権利を行使する気力も喪失し、政治的無関心に陥ってしまうところ。だが、これはアニメなんだぜ?求めよ、さらば与えられん。ルルーシュが与えられたのは誰にでも言うことを聞かせることが出来る超能力。この力によってルルーシュは社会変革を試みる。

ルルーシュの目的の変遷

ルルーシュの目的の変容を羅列すると以下の通り。

  • 個人的怨恨(1期の目的:マザコン・シスコン)
  • 日本解放戦争(個人的怨恨を晴らすための手段としての日本独立)
  • 反帝国主義戦争(2期の目的;お父さんと対等となる手段)
  • 集合無意識による人類の結合の否定(お父さんは人類融和を願っていた)
  • 箱庭の幸福の否定(お兄ちゃんは愚かな人類を作られた中での幸福を望んだ)
  • 世界統合の憎悪の象徴(ルルに憎悪が集まることで世界平和なの)
個人的怨恨

ルルーシュの行動原理は当初、個人的怨恨から始まる。彼は母親暗殺、父親からの勘当、片田舎への放逐、最終的には駒として見捨てられるなどの苦い経験を味わっていた。その後、身内の学園に通っていたものの、学生のうちはモラトリアムが享受できるかも知れないが、そこの後ろ盾も長くは続くものでもなく、世間に出ればどうなるか分からない。それ故、初期における究極の目的は、身体障害者(盲目・足が不自由)である妹ナナリーが幸せに暮らせるような保障を得ることと、勘当と放逐の根本的原因となった母親の暗殺の真相を探ることの二つであった。

日本解放戦争(個人的怨恨を晴らすための手段)

ナナリーの幸福と母親の死の真相のために動き出したルルーシュ。そのためには、父親の支配と対等に向きあわなければならない。ここまで書くと一般家庭にならありそうな展開で泣きゲーのテーマにも良くあるそうですね。家父長制や封建制をテーマにしたエロゲとか。しかしこの作品は設定がスケール大きいよ?なんと父親は南北アメリカを支配する帝国の皇帝で、世界を植民地化しようとするほどの人物。とんでも設定にポカーンとしそうだが、これはアニメ的・漫画的表現による一種の比喩表現だから。一期において監督は反米主義というイデオロギー操作が行われたのも良い思い出。このルルーシュのパパである皇帝シャルルは、日本を植民地にしていたので解放戦争という大義名分を背負っての親子喧嘩が始まる。つまり、父親と対等に話をするためにはある程度の社会的地位が必要であったというわけである。この日本解放戦争は、ルルーシュの個人的怨恨を晴らすための手段であったので、結局は敗北しルルーシュはパパに屈服する。

反帝国主義戦争(2期の初期の目的)

日本解放戦争は失敗に終わる。だが今度はブリタニア帝国の支配を受ける全植民地を束ねることで対抗しようとする。そのための足がかりとなったのが、中華連邦であった。宦官に支配され腐った政治を行い皇帝は幼女で傀儡同然。果ては為政者たちは帝国での身分の保証と引き換えに国を売る売国奴。その様子を中国全土に放映することで農民一揆を煽動し、勢力を統合、革命政権を樹立し対抗勢力の基盤とする。東アジアの巨頭が台頭することで各地の帝国支配に屈する不満分子が一斉に蜂起し、反帝国主義勢力が成立することで世界は二極化の時代を迎える。反帝国主義戦争の舞台となるのは日本で、ここでの戦争に勝てば世界の人民が一斉に蜂起するだろう、負ければ逆に全世界が帝国の支配下に入る。だが帝国を率いる父親は人類の融和を願っていた。


集合的無意識による人類の結合の否定(お父さんは人類融和を願っていた)

ルルーシュのお父さんである皇帝シャルルの目的は「嘘のない世界を作る」こと。実際にママンも精神的に生きておりルル山涙目。シャルルは王位継承争いの内紛で血縁関係者が殺しあう姿を目の当たりにしてきた。それゆえ、世界平和のためには人類補完計画よろしく集合的無意識の中で繋がり合うことが妥当であると考え、人類の精神を同調させる装置を整備するために世界侵略をしてきた。ルル山はお父さんお母さんから大切に想われており、捨てられたと思い込んでいたのは、危険から隔離しておくためだったと気づく。しかし、ルル山にとっては捨てられたも同然だったのだ。集合的無意識での人類融和などもってのほか。魂の安息は得られてもヒトとしての尊厳はどうなる!?マザコンファザコン乗り越えて、今ルルーシュは、個人的怨恨から世界の運命を背負って立つ決意をしたのであった。


箱庭の幸福の否定(お兄ちゃんは愚かな人類を作られた中での幸福を望んだ)

ザコン、エディプスコンプレックスを乗り越えたルルーシュにとって最後の砦となるのはシスコンを克服すること。核ミサイル発射で妹ナナリーが死んだと思い込み発狂。部下たちはそんな姿を見て、かねてからの独裁・秘密主義の不満が募り謀反。妹も部下も失くしたルルーシュは、試練⇒克服という王道パターンを歩み、シスコンをも撃破し世界の混沌に終止符を打つことを決意する。そこへ立ちはだかったのが、お兄ちゃんのシュナイゼル。実は妹ナナリーも生きておりシュナイゼル側についたのでまたもやシスコンの危機。核武装した絶対的な軍事力で世界の平和を確立しようとしていた。恐怖政治による相対的な世界の平和。それで世界は平和になるかもしれないが、作られた中での平和に何の意味があろうか。過ちを犯しながらも這いまわって世界を漸進的に変えて成長させていくことが人間なんじゃないか?とお兄ちゃんの野望をも阻止する。

世界統合のための憎悪の象徴(ルルに憎悪が集まることで世界平和なの)

ラスボスは女帝ナナリー。この物語はシスコンから始まりシスコンを乗り越えて終わる。身体障害者の妹の幸せを願っただけだったのに、世界平和にまで発展する壮大なスケールだわね。もはやルル山に迷いは無い。ナナリーも傀儡ではなく自分の意志を持って行動していることを確認し、最後の計画へと移る。その計画とは世界の独裁者として「悪の記号」とルルーシュを結びつけること。諸悪の根源はルルーシュだと民草に認識させることで、その「憎悪の象徴」が葬り去られれば世界は平和になると。スザク扮するゼロにルルーシュを殺させることで「憎悪の象徴」が抹殺された。黒の騎士団主要メンバー以外にゼロ=ルルーシュと認識はなかったため、ゼロ=正義の味方という認識が全世界に広まったよ。すなわちゼロは世界ヒーローで彼の統治なら全世界が納得すると。でシュナイゼルはゼロに従属することになっているので統治システムもばっちりだと。それで本当に平和になるの?という疑問もあるが、悪役として自己犠牲により死んでいったことは細かいところはさておき、一応全体としてはつじつまが合った・・・かな?