松田至弘「これからの「世界史」主題学習」『世界史学習の研究』教育出版センター新社、1987年2月、131-165頁

「世界史」主題学習についての基礎的な文献。
昭和53年版学習指導要領なので少し古く、主題選定の観点とかも異なる。

はじめに

  • 趣旨:これからの(昭和53年当時の)主題学習の進め方
  • 昭和53年版学習指導要領の変更点
    • 文化圏学習の拡充
      • 東アジア・西アジア・ヨーロッパの下限が18C、社会史的取り扱い
    • 内容「19Cの世界」の設置
      • 「世界の一体化を総合的に把握」、「現代世界成立の歴史的意義」

1)魅力ある主題学習の構想―主題学習の「観点」の考察

  • 主題学習のねらいは、生徒の歴史的思考力を一層深めること。
  • 主題学習の実践にあたっては、主題の選定が重要
  • 昭和53年版学習指導要領における「主題選定の観点」は5つ
    • (a)「地域ごとの比較考察的または地域相互の関連的な学習のできるもの」
      • 文化圏学習では、各地域・各文化圏の相互の比較や関連の考察が行われにくいので主題学習で補完する
    • (b)「時代別、地域別または国別に、ある程度大きくまとめて学習できるもの」
      • 世界の歴史上の事象は、系統的な学習や文化圏学習でそれぞれの時代に関連して取り扱われるが、それを時代別・地域別・国別に再構成し、ある程度大きくまとめて、その変遷の様子を総合的・発展的に学習させようとする。
    • (c)「現代の諸地域と文化について、文化人類学などの成果を活用しながら学習できるもの」
      • 系統的な学習でも文化圏学習でも取り扱うことの出来ない諸地域の社会と文化を、主題として積極的に取り上げてくもの。
      • 歴史学と隣接する文化人類学などの諸学問は、その研究の成果を生かすことと、「文化の等価値的把握」とを意図して導入された。
    • (d)「世界の歴史上の事象と日本の歴史上の事象とを、比較させたり、関連させたりするなどして、世界の歴史における我が国の位置について学習できるもの」
      • 昭和53年版の学習指導要領「世界史」の目標において「国際社会に生きる日本人としての資質を養う」と記されており、日本の歴史上の事象の世界史的背景や世界の歴史における日本の位置などを考慮する主題の選定が望まれている。
    • (e)「世界の歴史上の人物について、時代的背景や地域の特質との関連などにおいて学習できるもの」
      • 「人物の主題学習」の場合は、地域・時代における社会と個人の関係や人物の努力の側面を典型的に理解させ、併せて、人物についての学習のしかたをも学ばせたいというねらいがある。

2)主題学習の年間指導計画の作成―「世界史」の年間指導計画の位置づけ

指導計画作成の要素と手順

  • (〓)主題学習の主旨と構想を十分理解し、基本的な考え方を明確にする。
  • (〓)履修単位数に応じて、年間に取り上げる主題の数を決定する。
    • 主題学習は、4単位の世界史学習の場合、3主題程度が適切であり、そのうちの1主題を人物史学習あてることが望ましい。
  • (〓)担当教師は、生徒の実態を考慮した上で、基本的な考えかたに基づき、価値と魅力ある主題を選び出す。
    • ア)使用している教科書で取り上げられている主題は、価値と魅力があるか。
    • イ)他の教科書では、どのような価値と魅力ある主題が取り上げられているか。
    • ウ)これまで、どのような主題学習の研究がなされてきたか。その中に、価値と魅力ある主題学習があるか。
    • エ)他に、どのような価値と魅力ある主題が考えられるか。
  • (〓)選び出したそれぞれの主題について、生徒の実態を理解した上で、教材・資料、学習方法などを検討する。
    • ア)教材を具体的に構成できるか。また、資料があるか。
    • イ)教材・資料は、高度で専門的でなく、適切であるか。
    • ウ)どのような学習方法が考えられるか。
  • (〓)主題を各観点別に複数提示し、生徒の興味・関心などにもとづいて、各クラスごとに選定させる。
    • 主題学習の意義とその具体例を示した中からクラスごとに選定させる
    • 担当教師が是非取り上げたい主題があれば一主題だけは教師が取り上げても良い。
  • (〓)主題学習を、「世界史」の年間指導計画の中へ位置づける。
    • 通史学習の全体的な流れの中に、複数の主題学習をそれぞれ有機的に位置づけるとよい。

3)主題学習の事前研究と指導の展開―主題「オセアニアの歴史と文化」を例として

主題「オセアニアの歴史と文化」(配当時間4時間)における主題設定の理由、単元目標、主題学習の領域と通史学習への組み込み方、教材構成、学習方法などについての考察。

  • (1)主題設定の理由:「オセアニアの歴史と文化」を主題として設定する理由
    • 〓:昭和53年版学習指導要領ではオセアニア地域は世界史の内容から欠落している。
    • 〓:昭和53年版学習指導要領主題選定観点(C)は「生徒にとって新鮮で魅力のある主題」を要求する
    • 〓:オセアニア地域は文化人類学や考古学などを含め研究が盛んであり、参考文献が豊富。
  • (2)主題学習の領域と通史学習への組み込み方

通史学習と主題学習の関連のさせ方は「通史学習の流れの適当な箇所に主題学習を組み込み、両者を有機的に関連させて実施する型が良い」とされている。その理由は以下の通り。

    • ア)通史学習と主題学習の内容上の無駄な重複を避けることができる。
    • イ)既習内容を精選・再構成し、拡大・深化させ、通史学習と違った角度から学習できる
    • ウ)通史学習の内容の一部を拡大・深化させ、色々な角度から学習することができる。
    • エ)以後の通史学習に対して問題意識を持たせるとともに、内容的に結びつけることができる
    • オ)主題学習が時間切れで省略されるのを防ぐことができる。
  • (3)目標の明確化:昭和53年当時、抽象的な目標が問題となり目標の明確化がさけばれた。
    • ア)オセアニア地域の歴史と文化を、一括して多角的に考察させ、その実像をとらえさせるとともに、歴史的思考力を深めさせる。
    • イ)オセアニア地域の歴史と文化の学習を通して、正しい文化意識を育て、現代における国際理解に役立てる。
    • ウ)オセアニア地域の歴史と文化について、多様な資料を活用し問題解決的に考察させて、学習の仕方を学ばせる。
    • エ)オセアニア地域の風土・歴史・文化について、興味と関心を持たせ、意欲的に学習する態度を養う。
  • (4)教材構成の工夫
    • 「教材」の定義:「特定のクラスの授業実践の観点から、生徒が直接学ぶものとして解釈した学習内容」
    • 担当教師は、無数にある歴史的事象の中から教材となるものを選択し、それらを組み立てて、単元の学習指導計画や各時間の学習展開案をつくることが必要である。そして、教材構成に当っては、視点を明確にして価値のある教材を精選することと、生徒の思考の流れを予想して教材の組み立てを工夫することが大切である。
  • (5)主体的・能動的学習活動を促す工夫
    • 生徒にとって新鮮で魅力のある主題の選定
    • 教材構成における工夫
    • 学習形態・学習活動
      • ア)学習内容を解説したレジュメの精読
      • イ)地図、年表、各種統計、年間、新聞記事、読み物などの資料活用
      • ウ)写真、OHP、スライド、レコード、ビデオテープなどの視聴覚教材
      • エ)グループ研究小主題や研究課題を調べる。
      • オ)調べた内容を発表する
      • カ)発表内容に対して質疑を行う
      • キ)テーマを設定して討議を行う
      • ク)地図、年表の作成や報告書(レポート)のまとめなどの作業的学習

おわりに

主題学習は教師も生徒も非常に手間がかかる。しかし、主題学習の意義と役割が重要性を増してきている現在、その自薦の定着を図らなければならない。