雑録

松田至弘「現行「世界史」主題学習の背景」『世界史学習の研究』教育出版センター新社、1987年2月、168-195頁

ここにおける「現行」とは1978(昭和53年)版学習指導要領なので注意が必要

はじめに

  • この文章の趣旨:「主題学習の研究と実践の歴史」

1主題学習の登場と実践研究のはじまり

(1)「世界史B」への登場とその背景
  • 主題学習が公的に初めて登場したのは世界史がAとBに複線化した1960年改定学習指導要領「世界史B」の「内容」
    • 「世界史Bは、世界史Aの場合よりも深めて取り扱うものとするが、その際たとえばシルクロードと東西交渉、イギリスの議会政治の発達、西部開拓と南北戦争露土戦争と列強の世界政策、ワイマール体制とその崩壊などのような適当な主題を選び、政治的、経済的、社会的な観点から総合的に学習させる。それによって、歴史的思考力をいっそうつちかうことをあわせて考慮するものとする。」
  • 主題学習を採用した契機(平田嘉三による)
    • ア:系統学習の登場との関係で、主題学習の必要性を考慮した
    • イ:安保闘争のさなかにおける歴史教育の再検討(「ワイマール体制の崩壊」に関する教育研究の必要性)
    • ウ:大学受験用の歴史教育に対する真の歴史教育のあり方
  • 主題学習のモデル
    • ア:日本史研究会の栞学習(自己展開学習)
    • イ:西ドイツの範例方式
    • ウ:イギリスやアメリカの学習方法
(2)主題学習への取り組みの始まり
  • 全国歴史教育研究協議会(1964年東京大会、1965年兵庫大会)
    • 山本宏「世界史における主題学習について―東西文化の交流を事例として―」
  • 長野・兵庫など7県・1964年教育課程研究集会都道府県問題「主題学習に関するもの」/1964年11月教育課程研究発表大会
    • 近藤光也(長野県)「世界史における差別の問題」
      • 細切れな主題の取り扱いは、主題学習の意図に必ずしもそぐわない。
      • 平田教科調査官の助言:学習指導要領作成の過程において主題の数は5〜10個、1主題の配当時間は3〜6時、主題は学習指導要領の「内容」の例示に示されたものが良く、長野県の差別に関する主題は大きすぎて適当ではない、「世界史B」の主題は世界史の流れに沿った主題。
(3)主題学習に対する批判
  • 歴史教育者協議会・久坂三郎「世界史A・Bの差異について」現代中等教育研究会編『世界史の基本的事項と計画』所収、明治図書 における批判
  • 主題学習の批判点
    • ア:突然に、文部省告示という形で、「世界史」の単位数削減と同時に提起されたこと。
    • イ:年間指導計画に設定して行う主題学習は、「世界史B」の場合に限定されたこと。
    • ウ:主題学習の概念や世界史学習全体の中での位置づけが明確でなかったこと。
    • エ:主題設定の観点でなく、主題の例示がおこなわれたこと。

2主題学習の理論化と実践への努力

(1)主題学習の教育実践的研究
  • 永井滋郎・藤井千之助「世界史Bにおける主題学習と歴史的思考力」日本社会科教育研究会編『歴史意識の研究』所収、第一学習社(1964-1965頃か?)
    • 高校世界史Bにおける主題学習を通して、成長あるいは変容すると考えられる高校生の歴史意識ないし歴史的思考力を分析・把握するとともに、主題学習の効果的な方法について考察する
  • 永井・藤井による主題類型
    • a)比較史論的主題
      • 日本と西ヨーロッパの封建社会(1965年10月〜11月実施)
    • b)発展史的主題
      • イギリスにおける議会政治の発達(1966年5月実施)
      • 西力東漸の経緯(1966年9月実施)
  • 永井滋郎「主題学習の性格と意義」
    • 主題学習は、教材精選の原理というべきではなく、学習内容の再構成に関する方法論とみられる面が優越している。
    • 諸調査や教育実験からも、指導法の適切さを得るならば、現在の高校生が、主題学習を十分にこなしていく能力と興味・関心をもつことが、立証される。
(2)主題学習の理論的研究
  • 1967(昭和42)年、埼玉県高等学校社会科教育研究会歴史部会、主題学習のための小委員会の発足。
    • 文部省が何を求め何を考えているかに捉われず、主題学習という新しい概念によって提起された問題を追及する。
    • しかし主題学習の概念・世界史教育での位置づけ、学習方法などについての意見の一致は見られず。
      • 内野智司:生徒が積極的・主体的に参加する方法
      • 荒井桂:教師の講義による学習展開でもかまわない。
  • 内野智司「高校世界史Bにおける主題学習について」『歴史教育』1968年11月号
    • 通史学習と主題学習の関連のしかたの3類型
      • ア)通史学習の終了後、いくつかの主題を実施する型。
      • イ)通史学習が独立して行われるのと並行して、時折主題学習が付加される二元的な型。
      • ウ)通史学習の流れの中に、有機的に組み込まれる型。
(3)「世界史B」における実践
  • 相原康二「自然環境が人間社会・歴史に及ぼす影響について」
  • 大木政一「16世紀のヨーロッパ―ある女王の伝記的視角から―」
  • 三股弥栄「イギリス議会政治の発達」
  • 溝上泰「ギリシア・ローマの奴隷制
  • 月照和「近代以前の東西交渉」
  • 豊島宏「イギリス議会政治の発達」
  • 木村茂夫ナチスの時代」
  • 石田・磯部・西川「先史時代についての主題学習」

3主題学習の再登場と研究実践のあらまし

(1)主題学習の再登場と解説書の刊行
  • 1970年改定学習指導要領変更点
    • ア)世界史A・Bの区別が廃止され「世界史」として統合
    • イ)標準単位数3単位に削減
    • ウ)文化圏学習の提示
    • エ)主題学習は「世界史B」を継承しつつ改善
  • 1970年改定学習指導要領「世界史」における主題学習
    • ア)「内容の取り扱い」に位置づけ
    • イ)主題選定のための3つの観点
      • a:多角的・総合的に学習できるもの
      • b:地域ごとの比較考察的な学習、地域相互の関連的な学習のできるもの
      • c:時代別・地域別に大きくまとめて学習できるもの
    • ウ)取り上げるべき主題の数が提示された。(3単位の場合は最低1主題、4単位以上の場合は適切な数)
    • エ)人物を主題学習で取り上げ、「人物とその時代的背景」との関連を考察させる。
  • 『学習指導要領解説・社会編』における主題学習のねらい・系統学習と主題学習との関連
    • 主題学習の主要なねらいは、<世界史>の目標を達成し、生徒の歴史的思考力をいっそう深めることにある。すなわち、主題学習においては、いわゆる系統的な学習で培われた歴史的理解を基礎に、指導事項を広げたり、掘り下げたりすることによって、歴史的思考力を深め、生徒の歴史の歴史意識をさらに高い認識まで育てることに、そのねらいがおかれている。そして、それによって深められた歴史的思考力により、以後の系統的な学習を、より発展的に展開できるように配慮することが期待される。なお主題学習と系統的な学習とは、ともすれば対比的な学習の方法のようにとられやすいが、<世界史>の学習は、系統的な学習を中心にし、両者が有機的な関連を保ちながらすすめられるものでなければならない。
(2)主題学習の研究実践(その一)
  • 1976年『中等教育資料』→主題学習の研究鼓舞→各都道府県別研究集会
  • 宮崎:「ユダヤ人とナチズム」、「革命の12世紀」、「フランス革命とパリ」、バス方式
  • 山梨:「2世紀の世界を考える」
  • 岡山:「奴隷とプランテーション
  • 神奈川:「追われるバッファロとインディアン」
(3)主題学習の研究実践(その二)
  • 人物を核とした主題学習
    • 松田至弘「ルターの生涯とその時代」、「メッテルニヒとその時代」
  • 主題学習の内容構成面からの研究
    • 山本一成「高等学校<世界史>における主題学習の一考察―系統学習との関連を中心として―」
      • 近代以前の東西交渉
      • 16-18世紀ヨーロッパ商業資本の世界進出と各地域の対応
      • 19世紀ヨーロッパ産業資本の世界進出と各地域の対応
      • 主題学習としての地域学習(現代世界における各文化圏を多角的・総合的に考察する地域学習)

おわりに

  • 1970年改定学習指導要領が主題学習を困難にした(山本氏の分析)。
  • 1978年改定学習指導要領では改善が見られた。
  • 主題学習の共通理解
    • 歴史的思考力育成の上での意義を重視し、生徒の主体的活動と思考の場というように捉えること
    • 生徒の個性をいかしつつ、総合的な歴史思考力深めるとともに、「歴史」の学習の仕方を学ばせていく