堤未果『ルポ貧困大国アメリカ』岩波新書、2008 の感想

9.11以後新自由主義政策が推し進められ格差社会を生み出したアメリカにおける貧困層を描く。
新自由主義政策下の貧困層の様子を食料・行政・医療・教育・軍事の面からアプローチする。
アメリカの貧困層の現状を具体例をたくさん用いて暴き出す。
日本も例外ではなく新自由主義政策がもたらしたアメリカと同じ弊害が起こっているとのこと。


今はやりの金融危機新自由主義政策のツケがまわってきたようなもの。これまでアメリカは、グローバル化により安価な労働力との競争に晒された製造業に見切りをつけ、ゼロサムゲームのマネー取引金融業を重視するようになった。過熱する金融投機の弊害は、サブプライムローンからリーマンへと波及し一気に噴出した。資本蓄積のみを追及し、小さな政府を標榜する新自由主義政策により、アメリカ国民の中流階級は居なくなり、一部のエリートと低賃金大衆労働者へ二極化した。この格差社会の要因となったのが、民営化の論理である。高すぎる医療費が払えなくて破産、営利しか考えない保険会社は役に立たない、大卒ワーキングプア化などなどの具体例が盛りだくさん。最終的に貧困層は兵隊になることしか選択肢がなくなり、入隊しても契約内容とは全く違い、イラク派兵に利用され、帰国後にはポイ捨てされる。国だけでなく民間もビジネスとしてイラン戦争の労働者の担い手を貧困層に求める。結局、このような一連の新自由主義政策の流れは、イラク戦争という巨大なビジネスを成り立たせるための装置でしたという展開で、アメリカ国内だけでなく、全世界の貧困層が労働力として送り込まれていると。新自由主義政策は日本も例外ではなく所謂「柔軟な雇用政策」による終身雇用制と年功序列賃金制の崩壊により、一部のエリートと低賃金大衆労働者に二極化され、貧困層は再生産され続け固定化しつつある。このような現状に対し、著者はまず「何が起こっているかを知ること」の重要性を説いている。