梶田孝道『統合と分裂のヨーロッパ』岩波新書 1993年

EC統合のもとで進む「国境なきヨーロッパ」とそれに反発するナショナリズム。東欧・ソ連における「民族の噴出」と「国民国家」化。外国人労働者や移民をめぐる文化摩擦や排斥運動……。統合と分裂が交錯し、複雑な様相を呈する「民族と国家」の構図を国際社会学の視角から分析し、冷戦以後のヨーロッパを展望する。

  • 国民統合は普遍的理念か民族的エスニシティ
    • 「国民」の定義は出生地主義血統主義かにその根拠を見出すことが出来る。その前者の典型例はフランスで、「自由・平等・博愛」という普遍的理念により国民統合を果たした。これにより「単一不可分」のフランスは創出され、バスク地方などがフランスに組み込まれた。一方で、血統主義を取るのがドイツであり、これは日本などの後発資本主義国に良く見られる。人種や言語に国民としての拠り所を求める。
  • ヨーロッパにおける民族問題は少数民族か移民か
    • ヨーロッパにおける民族問題のうち少数民族問題、つまりはカタルーニャスコットランドなどは近年独立の傾向を見せているが、これは危機的な状況ではない。EUという超国家的な理念の下での自治拡大の運動の為だからであり、ヨーロッパ内部の民族問題として分裂が顕著なのはアイルランドくらいなものである。ヨーロッパでは、超国家・国家・民族という多元的アイデンティティが確立される。一方で問題となるのが非ヨーロッパ系の移民である。戦後の経済復興から成長期にかけて、労働力不足の担い手となったアジア系の移民、特にムスリムは分裂の傾向を見せる。それは、経済不況の時に真っ先に影響が出るのが移民であり、社会不安の中で最後の拠り所になるのが結局のところイスラム教である。それゆえ、原理主義が台頭してくるのである。
  • 多元的なアイデンティティは可能か
    • ヨーロッパでは超国家(EU)・国家・エスニシティとフレキシブルなアイデンティティが可能である。欧州市民であり、各国の国民であり、各民族共同体の一員である。それゆえ、超国家の統合が成される時、逆説的にナショナリズムの昂揚が起こる。超国家統合とナショナリズムは一体の関係である。超国家に統合されるからこそ、主権が制限される国家において、国民たちは様々な問題に直面し、危機に晒される場合も少なくない。そのような大衆の不安の受け皿になっているのが極右系の政党であり、台頭して以来保守派から一定の支持を受けている。