EC統合のもとで進む「国境なきヨーロッパ」とそれに反発するナショナリズム。東欧・ソ連における「民族の噴出」と「国民国家」化。外国人労働者や移民をめぐる文化摩擦や排斥運動……。統合と分裂が交錯し、複雑な様相を呈する「民族と国家」の構図を国際社会学の視角から分析し、冷戦以後のヨーロッパを展望する。
- 国民統合は普遍的理念か民族的エスニシティか
- ヨーロッパにおける民族問題は少数民族か移民か
- ヨーロッパにおける民族問題のうち少数民族問題、つまりはカタルーニャやスコットランドなどは近年独立の傾向を見せているが、これは危機的な状況ではない。EUという超国家的な理念の下での自治拡大の運動の為だからであり、ヨーロッパ内部の民族問題として分裂が顕著なのはアイルランドくらいなものである。ヨーロッパでは、超国家・国家・民族という多元的アイデンティティが確立される。一方で問題となるのが非ヨーロッパ系の移民である。戦後の経済復興から成長期にかけて、労働力不足の担い手となったアジア系の移民、特にムスリムは分裂の傾向を見せる。それは、経済不況の時に真っ先に影響が出るのが移民であり、社会不安の中で最後の拠り所になるのが結局のところイスラム教である。それゆえ、原理主義が台頭してくるのである。