主題学習研究史

主題学習の登場と実践研究の模索

1960年、昭和35年版学習指導要領において平田嘉三により初めて公的に主題学習が導入された。主題学習は戦後の初期社会科の問題解決学習や単元学習を起源にしている。1960年当時は世界各国でも歴史教育の在り方が問われており、西独の範例学習やアメリカのブルーナー理論、ソ連の教材精選などの改革の一流のひとつが、日本においては主題学習の導入であった(註1)。「歴史的思考力」を培うことをスローガンに導入されて以来、様々な主題学習の実践研究が行われたが、昭和35年版学習指導要領は主題の例示が一方的になされただけであり困難があったとされる。そのような中で主題学習の理論化・類型化を打ち出したのが、内野智司「高校世界史Bにおける主題学習について」『歴史教育』1968年であった。以後69年・70年が研究の最盛期である(註2)。

主題学習研究のピークと形骸化

1970年、昭和45年版学習指導要領においては主題選定の観点が示される。しかし主題学習の研究は行き詰まり、主題学習とは授業形態なのか内容構成なのか、系統主義的通史学習と対立するのかそれともその一部なのか、という論題に始終することになる。また主題学習の根拠を学習指導要領にのみ求めることも批判された(註3)。この状況に対し、「通史学習は無数の主題学習の集合体」と唱えたのが、九里幾久雄「「主題」を中心とした世界史学習-主題学習のいくつかの実践例から-」『世界史の研究』75号 1973年であった。また一方で、主題学習の問題点とその批判を「系統的通史学習の理論的根拠を曖昧にし続けてきた」ことに求めたのが、河合武「高校世界史「主題学習」の研究」『社会科研究』25号 1976年である。以後、内容構成についての若干の実践が行われたが、この頃から主題学習の研究は下火になっていった(註4)。

研究の停滞

研究が下火になる中、1978年、昭和53年版学習指導要領において現代社会が導入された。現代社会は高校一年で必修になったため、世界史主題学習も現代社会と絡め、全ての社会科系科目を統合するものとして着目された。主題=現代社会の諸問題とされ、問題解決学習としての主題学習が田淵五十生により提唱された。1989年、平成元年版学習指導要領により社会科が解体され、小学校低学年では生活科、高校では地歴科と公民科が新たに登場する。これ以後に注目すべきは、宮崎正勝「中等社会科における主題学習とエクセムプラリッシュ方式」教育実践研究指導センター紀要(北海道教育大学)14 1995年 である。ここで、改めて系統的通史学習と主題学習の差異化が図られた。しかし、主題学習の研究は活性化したとは言い難い(註5)。

平成11年版主題学習と「主題学習の充実」

1999年、平成11年版学習指導要領では、所謂狭義のゆとり教育が導入された。世界史教育における主題学習の位置づけは、以下のとおりである。まず世界史Aにおいては、現代史における課題追究学習として「地域紛争と国際社会」、「科学技術と現代文明」の項目で主題学習を行なうようになった(註6)。次に世界史Bにおいては、「世界史への扉」が設置され、生徒の興味関心意欲を高めるために主題学習を行うようになった。また世界史Bでも世界史Aと同様に、現代史で課題追究学習として、「国際対立と国際協調」、「科学技術の発達と現代文明」、「これからの世界と日本」において主題学習を行なうようになった。こうして歴史的思考力を培うものとして導入された主題学習は、世界史学習の導入とまとめとして最初と最後に行うという位置づけになった(註7)。
 このような平成11年版の世界史主題学習について、指導要領の解説編では「主題学習の充実」(註8)と述べている。そして、原田(2000)は平成11年版の学習指導要領に基づきより良い主題学習を実践するための授業構成論を述べており、豊島(2003)は昭和35年からの主題学習の先行研究の分類と教科書分析を行った後、平成11年版の主題学習は期待できるものであると評価を下している。だが、主題学習の研究については5本であり、実践は2つのみである。

[註]

(1)平田嘉三「嵐の中で」において、氏が主題学習を導入した意図や背景について述べている
(2)実践研究の本数から見て一番盛んなのが70年前後である。原田智仁(2000)でも70年前後がピークであったとしている。
(3)河合(1976)に主題学習の問題点が整理されている。
(4)原田(2000)は主題学習の研究は70年がピークで、以後は形骸化したとしており、要因を分析している。
(5)主題学習の停滞については藤井(1999)において述べられている
(6)平成11年版解説35-38頁に課題追究学習としての主題学習が述べられている。
(7)生徒の興味関心意欲を高める主題学習は、平成11年版解説46-50頁。課題追究については73-74,78,79頁。
(8)「主題学習の充実」という言葉は平成11年版解説44頁。