昭和35(1960)年告示高等学校学習指導要領の解説:『高等学校学習指導要領解説 社会編』(好学社 1961年初版 1963年4版)

学習指導要領解説における主題学習

  • 高等学校学習指導要領解説における主題学習の取扱いについて、その変遷を分析する。それにより主題学習が、どのようなねらいのもとで設置されたのかを明らかにする。
  • 対象とする学習指導要領解説は、主題学習が公的に導入されたと位置づけられる昭和35(1960)年版学習指導要領の解説以降
  • 今回対象とする解説
    • 文部省『高等学校学習指導要領解説 社会編』好学社  1961年初版 1963年4版

主題学習は昭和35年版学習指導要領から導入されたと認識されている(註1)が、実際に主題学習という名称はどこにも記述されていない。どのように記述がなされているかというと、「世界史Bは、世界史Aの場合より深めて取り扱うものとするが、その際たとえばシルクロードと東西交渉、イギリスの議会政治の発達、西部開拓と南北戦争露土戦争と列強の世界政策、ワイマール体制とその崩壊などのような適当な主題を選び、政治的、経済的、社会的な観点から総合的に学習させる。それによって、歴史的思考力をいっそうつちかうことをあわせ考慮するものとする」(註2)という表現である。これを後の時代から見て、主題学習と呼称するようになったのであろう。(「主題学習」という用語が初めて登場するのは、1972年5月発行の『高等学校学習指導要領解説 社会編』である。)では、このような学習は一体どのようなものであり、如何なるねらいがあったのであろうか。ここでは『高等学校学習指導要領解説 社会編』(好学社 1963年4月4版)から主題を設定する学習に関わる記述を中心に分析していく。

「1 科目の性格」について

解説第2章第5節世界史Bの「1 科目の性格」において、主題と関係のある記述は以下のようになされている。

「世界史B」を「世界史A」とくらべてみると、「世界史A」が世界史の流れの大筋をわかりやすく理解させるのに対して、「世界史Bは世界史Aの場合より深めて取り扱う」こととなっている。このこととも関連するが、「その際たとえばシルクロードと東西交渉、イギリスの議会政治の発達、西部開拓と南北戦争露土戦争と列強の世界政策、ワイマール体制とその崩壊などのような適当な主題を選び、政治的、経済的、社会的な観点から総合的に学習させる。それによって、歴史的思考力をいっそうつちかうことをあわせ考慮するものとする」ことになるわけである。すなわち、「世界史B」においては、主題をいくつか設けて、いろいろな観点から総合的に学習させ、歴史的思考力を深めることを目的としているのである。

上記から分析すると、①世界史Bは世界史Aと差異化するため深めて取り扱うので(要因)、②主題をいくつか設けていろいろな観点から総合的に学習し(手段)、③歴史的思考力を深める(目的)ことをねらいとしていることが分かる。「適当な主題(中略)を選び、政治的、経済的、社会的な観点から総合的に学習させる」(註3)という指導方法は、A、Bの2科目設置を経緯として導入されたと考えられるが、その理由は何故だったのか。解説第1章第3節社会科の組織「1 科目の編成」においては「地理および世界史にそれぞれA、B2科目を設けたのは、生徒の能力、適性、進路に応じて教育を行なうためである」と記されている。しかしながら、内容を深めて取り扱うことはいいとしても、歴史的思考力育成のための手段としてどうして「適当な主題(中略)を選び、政治的、経済的、社会的な観点から総合的に学習させる」という指導方法が導入されたかについては述べられていない。

「2 目標」について

ここでは、「世界史A」と「世界史B」の目標の相違点が述べらており、異なるのは目標の(1)だけであるとされる。すなわち、

  • 「世界史A」目標(1)「世界史の発展に関する基本的事項を系統的に理解させ、現代社会の歴史的背景をはあくさせ歴史的思考力をつちかい、民主的な社会の発展に寄与する態度とそれに必要な能力を養う」
  • 「世界史B」目標(1)「世界史の発展に関する基本的事項を系統的に理解させるとともに、現代社会の歴史的背景をはあくさせ、特に政治、経済、社会、文化などの関連について総合的に考察させることによって、歴史的思考力を深め、民主的な社会の発展に寄与する態度とそれに必要な能力を養う」

とあり、相違点は「特に政治、経済、社会、文化などの関連について総合的に考察させることによって、歴史的思考力を深め」という記述のみである。「その趣旨については、「1 科目の性格」で述べたとおり」であるとして、世界史Bは「深めて取り扱う」がゆえに、「特に政治、経済、社会、文化などの関連について総合的に考察させることによって、歴史的思考力を深め」ることが述べられている

「3 内容」について

ここでは、主題の設定基準が述べられている。「前述のとおり、「1 科目の性格」の趣旨からして、「世界史B」では適当な主題を設けていろいろな観点から総合的に学習させることにした。その主題を選ぶ基準としては、さらに研究を要するが、一応次のようなものが考えられるだろう」(註4)と記され、基準が示される。

  • 「倫理・社会」や「政治・経済」の学習と関連の深いもの。たとえば「(2) 人生観・世界観」の学習に関係のあるものや、現代の諸問題を考える際に参考となるもの。 
  • 政治的、経済的、社会的な観点から総合的に学習しできるもの
  • できるだけ世界の地域相互のことがらに関連のあるもの

そして主題の配当について、特定の地域や時代に片寄らないよう留意を促し、学習指導要領の内容のまえがきに記した5主題について解説している。「内容のまえがきに示した「たとえばシルクロードと東西交渉、イギリスの議会政治の発達、西部開拓と南北戦争露土戦争と列強の世界政策、ワイマール体制とその崩壊など」というのは上記の基準を参考にしてじゅうぶん考えられたものである。もちろんこれらはあくまで一つの例であるが、じゅうぶん検討された結果、「適当な主題」の例として示されたものである。したがってここに示した諸例は、ぜひ学習しなければならないものではないが、じゅうぶんに参考にして、適当な主題をくふうして、いろいろなものを考える必要があろう」と述べ、諸例以外の主題設定を認めながらも、諸例を重視するよう強調されている。また、設定基準を考慮した主題が適当であるか否かを判断する指針も示されており、「前節の「適切な指導計画の作成について」で述べた教育上の諸配慮を参考として決めることが望ましい」とされている。そこで、前節(第4節世界史A)の「適切な指導計画の作成について」を分析すると、以下のことが抽出される。

  • 生徒の興味や能力に応ずるようにする
  • その内容が学問的に裏づけられておく必要
  • 近現代史に重点を置くことが望ましい (註5)
  • 「それぞれの時代における日本やアジア諸国などの動向について、正しく位置づけられて考察させることがたいせつである。」という語句がこのたびに新たに書き加えられたことに留意する必要
「4 指導計画作成および指導上の留意事項」について

ここでは、主題学習の指導方法について述べられている。指導計画の内容構成においてどのように主題を取り入ればよいか2つの観点が例示されている

  • 世界史の流れに即して適宜、適当な主題を取り入れながら、総合的な学習によって歴史的思考力を深めていく
  • 古代や中世の学習のまとまりののちや、一応世界史の学習を終えたのちに、まとめて主題別に学習させることによって、歴史的思考力を深めていく

このように、内容構成の例示がなされた。また「主題名、主題の数、1主題に配当する時間数、主題の時代別・地域別の配当のしかた、主題と世界史の流れとの関係などもじゅうぶん研究して創意くふうされた指導計画を作成することがたいせつ」(註6)と記され、授業においてどれだけの主題を扱うかは、教師の力量に任された。

小括

昭和35年版用の『高等学校学習指導要領解説 社会編』(好学社 1963年4月4版)において、後に主題学習と見なされる「適当な主題(中略)を選び、政治的、経済的、社会的な観点から総合的に学習させる」指導方法が導入された。その契機は、世界史がA科目とB科目に分かれ、B科目では深めて取り扱うことになったからであり、A科目とB科目に分かれた理由は、生徒の能力、適性、進路に応じて教育を行なうことが要請されたためである。この指導方法の目的は歴史的思考力を深めることであり、その手段として主題をいくつか設けていろいろな観点から総合的に学習することになったのである。この指導方法は内容において位置づけられ、主題の例示と設定基準がなされ、具体的な5つの諸例と3つの基準が述べられた。指導計画では、どのように学習を行なうかについて2種の例が提案され、具体的な方針については教師の自主性に任されたのである。

〔註〕

(1)文部科学省『高等学校学習指導要領解説 地理歴史編』実況出版 2007年10月一部補訂5版 44頁
(2)文部省『高等学校学習指導要領解説 社会編』好学社 1963年4月4版 215-216頁
(3)同書 4頁
(4)同書 122頁
(5)1960年版学習指導要領では「世界史A」と「世界史B」の内容の項目自体については全く同じであり、現在のようにA科目だから近現代重視というわけではない
(6)文部省『高等学校学習指導要領解説 社会編』好学社 1963年4月4版 124頁