3章 第一次世界大戦 日本が抱いた主観的な挫折
植民地を持てた時代、持てなくなった時代
- 世界が総力戦に直面して
- 日本が一貫して追求したもの
- 日米のウォー・スケア
- 西太平洋の島々
なぜ国家改造論が生じるのか
- 変わらなければ国が亡びる
- 将来の戦争
開戦にいたる過程での英米とのやりとり
- 日本の参戦とイギリスの反対
パリ講和会議で批判された日本
- 民族自決と三・一独立運動
- ロシア革命で秘密条約が暴露され、日英仏露が大戦後それぞれ植民地再分割などでえげつない取引をしていたことが公開されてしまう。アメリカのウィルソンは連合国の戦争目的を理想化しなければ世界の人びとを幻滅させボリシェビキに負けてしまうと考える。そこで14か条で民族自決を訴えることになるが、ウィルソンの念頭にあった地域は限定されおり、ブレストリトフスク条約でロシアがドイツに割譲した領土のみだった。だが、民族自決は決して実現されない希望を世界各地の植民地の人びとに呼び起こすことになる。そこへ日本領朝鮮で三・一独立運動が起こる。パリ講和会中に起こったため、日本の植民地政策が残酷であると批判され、新たに委任統治領を持つことについても議論されるようになってしまう。
参加者の横顔と日本が負った傷
- ドイツの賠償問題
- 山東半島をめぐる問題
- ウィルソンは山東半島問題でも中国に味方する態度を態度に示してしまう。日本は旧独山東半島の権益をドイツから日本に割譲してから中国に返すと主張し、中国はドイツに宣戦布告し勝利したからすぐ返せと要求していた。日本全権の反発を招き、ロイド=ジョージとクレマンソーが仲介に入る。クレマンソーは密約を根拠に日本を支持。中国は、21か条中の山東半島に関する条約は最後通牒で脅されたものであり、ドイツに宣戦布告して勝利したのだから対独不平等条約は解消されるので山東半島の権益は自らにあるのだと主張。これに対しロイド=ジョージは戦時中における貢献を唱え、アメリカ・中国の参戦の遅さを根拠に日本を支持、結果、山東の権益は日本のものとなった。だが日本は大戦後、意識上に大きな問題を抱える。それはアメリカ議会においてウィルソン批判に日本の朝鮮統治批判が利用されたこと。ウィルソン批判のためだけにアメリカ議会が日本批判を持ち出したことに不当感を抱く。
4章 満州事変と日中戦争 日本切腹、中国介錯論
当時の人びとの意識
- 満州事変と日中戦争の概要
- 満州事変は1931年9月18日関東軍参謀の謀略により起こされたもの。日中戦争は1937年7月7日に小さな武力衝突をきっかけに起こったもの。
- 満州事変については、関東軍石原莞爾により事前に準備された計画。理由は兵力で、東三省(黒竜江・吉林・遼寧)を支配する張学良は20万の軍隊と優れた装備を持ち、国民政府蒋介石とも良好な関係を築く。対して関東軍は兵力1万。日本側は張学良に対する反乱を華北で起こさせ北平に精鋭を釣り出し、南満州鉄道を自ら爆破させ、張学良の軍事的根拠地(遼寧省の奉天)などを奪う。
- 日中戦争の方は偶発的な盧溝橋事件をきっかけにするものであったが、構造的な要因は蓄積されていた。北清事件の北京議定書により天津周辺に軍隊駐屯を認めさせ、支那駐屯軍が置かれていたが、盧溝橋事件の前年1936年6月に1771人から5774人に増やしてしまい、豊台に兵営を置いた。隣には中国軍の兵営もあるなか、夜間に軍事演習を繰り返していた。
- 満州事変は1931年9月18日関東軍参謀の謀略により起こされたもの。日中戦争は1937年7月7日に小さな武力衝突をきっかけに起こったもの。
満州事変はなぜ起こされたのか
- ルソーの戦争論「戦争および戦争状態論」の満蒙における場合
- ある国の国民が、ある相手国に対して「あの国は我々の国に対して、我々の生存を脅かすことをしている」あるいは「あの国は我々の国に対して、我々の過去の歴史を否定するようなことをしている」という認識を抱く場合に戦争が起こる傾向がある。満蒙問題というのは、日本人が自らの主権を脅かされた、あるいは自らの社会を成り立たせてきた基本原理に対する挑戦だと考える雰囲気が広がっていたことを意味する。1930年には松岡洋右の演説で「満蒙は我が国の生命線である」とのフレーズが叫ばれ、以降、流布し、満蒙は国家の生存権、主権に関わるとの認識が広まる。日清・日露戦争があった明治期には朝鮮半島、第一次世界大戦が起きた大正期には山東半島、1930年には満州が日本と切れない関係になる。日露戦争後、日本とロシアは資本力・技術力で欧州諸国に劣っていたため協力するようになり、中国問題に関しては勢力範囲を認め合うようになった。
- 満蒙における二つ問題点
- 満蒙特殊権益
- 日本が主張する満蒙特殊権益は、日本が確信しているほどには外国勢力から承認されていないという自覚が生まれる。軍部は中国の条約侵害によって。日本の生存権が脅かされると煽り、原理的な対立になる。命とお金をかけて戦った戦争、その戦争にやっとのことで勝って締結した条約、その条約に書かれていたはずの権益、これを死守しようとする発想が日本側に強かった。
- 勢力範囲にする=特殊権益を有する。特殊権益とは「主として条約によって認められ、他国には実際には等しく適用されない日本の専有・優先が認められた権利につき、日本が施設・経営を実行したことによって、経済的・政治的に発展を見た現象や状態」。南満州と東部蒙古は満蒙で日本の勢力範囲といっても、「施設・経営」の実態がなければ認められないものであった。そのため、列強の目を意識して既成事実をでっちあげることを行なった。それに活躍したのが、陸軍・外務省・商社であった。対満蒙投資は85%が国がらみであり、結果国民からの批判が起きにくい構造ができる。
事件を計画した主体
- 石原莞爾によるドイツの敗戦の分析
- 当時はドイツが敵の全主力を短期決戦によって方位殲滅する方式を徹底してとらなかったことに起因すると考えられていた。
- 石原は、短期決戦の殲滅型ではなく、長期持久型の消耗戦争であったことをドイツが認識しなかった点に理由を求めた。
- そして大切なのは、敵の消耗戦略に負けないようにすることであるとして、経済封鎖を生き延びる姿勢で戦争を続けることの重要性に目覚める
- 満蒙について軍が考えていることと国民に説明していることについてのズレ
- 国民への説明:中国は条約違反である、日本は被害者である、よって満蒙の特殊権益を無法者の中国の手から守らなければならないとの、原理主義的な怒りの感情。国際法や条約に守られているはずの権益を、中国がないがしろにしている。参謀本部の情報部長・建川美次は「これは条約書に厳存しておるのであります。しかるに、今日は一つも行なわれておりませぬ」と国民煽動。
- 軍部:将来のために満蒙が必要。軍人たちの主眼は、来るべき対ソ戦争に備える基地として満蒙を中国国民政府の支配下から分離させること、そして、対ソ戦を遂行中に予想されるアメリカの干渉に対抗するため、対米戦争にも持久できるような資源獲得基地として満蒙を獲得する。国民の不満に最後に火をつけたのが29年の世界恐慌。生活苦の国民に軍部は良く受けいれられる。
- 若槻礼次郎内閣
- 満州事変に対する蒋介石の対応
- 蒋介石、満州事変の解決を国際連盟による仲裁に求める。
- (1)事件の解決そのものを連盟がなしうるとは思わないが、少なくとも、日本の侵略を国際世論によって牽制できる。中国に有利な国際環境をつくっておけば、のちに予想される日中交渉のときにも有利である。
- (2)連盟に訴えることで、国民の関心を連盟に向けさせることができる。国家防衛の責任を連盟に一部負担させることは、自らの政権維持にとって重要。
- (3)蒋介石率いる国民政府は、張学良の支配する東三省に対して、国家として主権を対外的に主張できる立場、つまり外交権という一点のみでつながっていただけ →日本の出先である関東軍と東三省の実質的支配者である張学良が停戦をめぐって話し合いを始めてしまえば、国民政府は手出しができなくなる恐れがあった。
- 蒋介石、満州事変の解決を国際連盟による仲裁に求める。
連盟脱退まで
- 国連脱退への選択肢
- 熱河作戦(1933年2月)
- 31年満州事変→第11条で連盟に提訴、32年1月上海事件 →第15条で提訴。
- 第11条:戦争または戦争の脅威となるような事変が発生したときは、連盟理事会を開く
- 第15条:「国交断絶の虞のある紛争が発生したときは」という一段上の深刻な事態に対応するための条項
- 第16条:「第15条による約束を無視して戦争に訴えたる連盟国は、当然、他のすべての連盟国に対し、戦争行為をなしたるものと見なす」
- 33年2月は連盟が和協案をだして日本側に最後の妥協を迫っていたとき →その連盟の努力中に、れっきとした中国の土地である熱河地域に日本軍が侵攻することは「第15条による約束を無視して戦争に訴えたる」行為、つまり、連盟が努力している最中に新しい戦争を始めた行為そのものに該当してしまう →日本はすべての連盟国の敵となってしまい、連盟規約の第16条が定める通商上・金融上の経済制裁を受けることになり、また除名という不名誉な事態も避けられなくなる →33年2月20日の閣議で、このままでは連盟から経済制裁を受ける怖れが出てくること、また除名という日本の名誉にとって最も避けがたい事態も考えられるとして、連盟の準備していた日本への勧告案が総会で選択された場合には自ら連盟を脱退してしまう、という方策を選択することになる。
- 31年満州事変→第11条で連盟に提訴、32年1月上海事件 →第15条で提訴。
戦争の時代へ
- 満州事変が1931年に起き