Ⅰ
- 「戦後歴史学」の再検討が提唱され具体的な著作物が刊行 →歴史学の「いま」を、史学史的な視点と方法で測り、「戦後歴史学」の自己点検を行なう様相を見る
- いずれの著作物も現時における歴史学の大きな変化に直面し、あらためて「戦後歴史学」の特徴を論ずるとともに、「戦後歴史学」の1970年前後の再編成、1990年前後における変容を見ている点で共通している。 →その点に着目し、その様相と史学史的な意味を探る。
- 論ずる著作群(対象とした年代を基調とし取り上げた領域と合わせて大別)
- 1930-40年代を扱う。ともに史学史上の潮流である唯物史観や皇国史観を扱う
- 1950-70年代を対象。「戦後歴史学」が主要な領域とした運動史研究、あるいは『昭和史』を発端とした「昭和史論争」という史学史上の一齣から「戦後歴史学」を問おうとしたもの
- C:須田務『イコンの崩壊まで』、大門正克編『昭和史論争を問う』
- 1970年頃を起点とし、その時期の歴史学を参照系としながら歴史学の「いま」を診断し考察したもの
- F:『鹿野政直思想史論集』(全7巻)
- 宮沢誠一の著作:「戦後歴史学」に限定されていないが、明治維新史研究がその歴史像を提示することにより、歴史意識に形を与えたことを指摘。その推移-変遷を論じ、史学史の新たな解釈を有す
Ⅱ
1
- (D)と区分した大日方と大門の著作について
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- 注目すべき点
- 衛生の考察など、一見、社会史研究が提起したように見える問題群にも、「戦後歴史学」の延長にあり「国家との対抗関係」をおさえる研究と「「近代」に規律・馴致される身体・ないし感覚」を強調する研究があることをいう点
- 注目すべき点
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- 大日方の作法
- あらたな動向と戦後歴史学の差異を指摘、そのことにより前者の暗黙の批判となす
- 歴史学の作品が「認識」に基づき「方法」と「対象」が選択され「叙述」されるという内容構成を持つとき、大日方は「認識」に重要性を認めるとともに、「方法」「対象」「叙述」の構成要素は分節化されず一体のものとされる →「新しい歴史学」がなぜ新たな「対象」を選択するか、新たな「方法」がなぜ選びとられたかということは考察の対象外
- 歴史学の「いま」を論ずるときに、歴史学研究会や日本史研究会の「大会」、『歴史評論』の「特集」になどにその動向を探ろうとしている →「戦後歴史学」に親近している「対象」を選択し、発表媒体もそれに近時したものに
- 大日方の作法
- 大門の特徴
- 著作は一般向けの発表媒体を含む論文の集成、「叙述」も思考過程そのまま
- 歴史と現在との「接点」を探り、体験を記述することの意味を探る
- 「小さなもの」「小さな場所」へのこだわりと「「経験」という視座」を見出し、それらを地域と重ね合わせながら思考をめぐらす
- 「生の営みの側から規範をとらえ返す視点を持つこと」―「拠点」を持つことの必要性が繰り返し主張され、事柄が負の様相をもつなかでも「なおかつ」、それを「引き受ける」態度が要請される
- 大日方と大門の共通の指摘
-
- 共に言及を避けている点
- 近年の歴史学における言語論的展開にかかわっての議論
- 表象の議論に対し、実態と表象の二分法に大日方も大門もとらわれている。
- 共に言及を避けている点
Ⅲ
歴史教育の場が「戦後歴史学」の検討に必要であることはつねに指摘され、歴史教育の史的考察、「戦後歴史学」との関係の究明がなされる。
今野日出春の研究
- 研究方法
- 問題提起
斉藤一晴の研究
Ⅳ
「戦後歴史学」を対象とした史学史
- 「戦後歴史学」の自己点検が歴史学界のなかで集中的におこなわれるようになっている
- 第一世代(遠山) 第二世代(鹿野) 第三世代(大日方、大門) 中間の世代(今野、磯前、須田) 第四世代(昆野、長谷川、斉藤)によって提供
- 先行の世代では「認識」がもっぱらであった議論が、そのもとにこだわりながら(大日方)、「方法」を検討し(磯前)、「叙述」に焦点を当てながら(大門、今野)、「戦後歴史学」が検討された。
- 第一世代(遠山) 第二世代(鹿野) 第三世代(大日方、大門) 中間の世代(今野、磯前、須田) 第四世代(昆野、長谷川、斉藤)によって提供
- 歴史学の現状への診断と処方が史学史として検証されていることについて整理の途上にある概念
- 共通点
- 歴史学の「いま」の歴史的位相に関し、1990年前後に大きな切れ目を見て取り、1980年代移行期とすること
- 共通点
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- 1980年代の理解のずれ
- 社会史の席巻に力点を置く見解(大門や大日方、須田)
- 「戦後歴史学」の影響が大きかったとみる把握
- 1980年代の理解のずれ
史学史にかかわるいくつかの論点
- 1.1960年代に登場した潮流である民衆史研究の史学史的な位置づけ
- 70年代に社会経済史の立場から距離をとっていた大日方・大門の民衆史研究に対する近年の接近と、当の民衆史論者である鹿野政直らの国民国家論への批判と大門の仕事への共感 →史学史的な論点での射程での議論を複雑にしている。
- 「叙述」に力点を置く大門と今野は、それぞれの検討と思索のなかから「経験」という場所‐視点‐領域を重視するに至る
- 大門は牧原憲夫の著作などを取り上げ、「歴史過程における矛盾や葛藤」を関心事とする研究を評価しつつ、拠点を持つこと、複数性の視点を持つことの重要性言う
- このあいだの矛盾を自覚し「経験」という場所を導き出し、過程をとらえ叙することに歴史研究の存在意義を求める
- ここから大門は民衆史研究との接点を語りだすので、民衆史研究の史学史的な検討が課題となっていることが見て取れる
- 2.新自由主義との対峙の仕方