雑録

水島司『グローバル・ヒストリー入門』山川出版 世界史リブレット127 2010年

  • この本の趣旨
    • グローバル・ヒストリーと分類される研究の分類と、どのような研究が生まれ、どのような議論がなされているかの概略
  • グローバル・ヒストリーの特徴
    • あつかう時間の長さ
    • 対象となるテーマの幅広さ、空間の広さ
    • ヨーロッパ世界の相対化、ヨーロッパが主導的役割を果たした近代以降の歴史の相対化
    • たんなる地域比較で終わるのではなく、異なる諸地域間の相互関連、相互の影響が重視される点
    • あつかわれている対象、テーマが、従来の歴史学ではほとんど取り扱われてこなかったものが多く、歴史学に新たな視角をもたらすものであること
  • グローバルヒストリーの意義
  • ヨーロッパ中心主義の見直し、アジア発展の再評価
    • ここではヨーロッパの相対化が図られるが何に基づいて発展を図るかががまず問題となっている。そこで、賃金の国際比較がとられ、パリタサラティやバッティーノの議論が紹介されている。そして、程度の計測以外に、発展の型そのものが異なるという議論がなされ、速水融の勤勉革命川勝平太の物産複合、杉原薫のアジア間交易が取り上げられる。
  • 環境
    • グローバル・ヒストリーとして人類と環境の関係を取り上げている。「人類と環境との関係を逆転させ、人類を地球環境の一要素にすぎないとすることで、より広範な事象が歴史研究の対象になってくる」として、自然科学分野の歴史学への貢献を説いている。ここではマクニールなどが取り上げられている。
  • 移動と交易
    • 移民、交易などにおける人やモノの動きとその歴史的変化は、今日の地域間構造を形成してきた一つの要因であり、グローバル・ヒストリーの重要な研究領域であるとしている。作物では中尾佐助、商品連鎖ではトピック、世界市場の形成について松井透を紹介している。トピックの商品連鎖については、「特定のモノを取り上げ、その生産から消費にいたる過程を長期にわたって追い、技術、労働、経営、販売のあり方や、それへの生産者、経営者、商人、企業、国家、国際機関などのかかわり方を解明していくという方法は、そこで取り上げられるモノが局地的な市場で始終せず、世界市場にはいっていくことが多いだけ、グローバル・ヒストリーの多様な局面を具体的に解明していくことにつながる」と述べられている。ファッション分野のルミエの議論では、インドの綿製品が逆にヨーロッパへ与えた影響の重視が取り上げられている。
  • 地域と世界システム
    • ここでは近世以前の世界システム論の議論がされている。ウォーラーステイン世界システム論は世界史の一体化は16世紀であり、それ以前はなんらかのより小さな地域空間のまとまりがあるという考え方であった。それに対し、旧世界の多くが一つのシステムに組み込まれていたという主張を紹介する。13世紀の意義を論じたのがアブー・ルゴドでヨーロッパ勃興以前の世界史システムの成立が重要視されている。また海域世界のブローデル、ネットワーク論の家島彦一が紹介されている。
  • グローバル・ヒストリーと歴史教育
    • 「世界史というものが、世界のすべての地域のすべての時代をあつかうものかといえば、そのとおりであるという者もそうではないという者もいるはずである。同じく、ある者にとっての重要な歴史が、すべての者にとって重要であるとはいえない。歴史は、それだけの襞と深みを有するのであり、それだからこそ、さまざまな教材と教え方が存在すべきなのだというべきだろう。教える側の世界観と教えられる側の世界観が、世界史のなかに埋め込まれた題材をあいだにしてぶつかり合い、議論し合い、そのなかでなにか新たな認識が生まれることこそが、教育の醍醐味である。そして、グローバル・ヒストリーは、そうした題材を、これから生きていこうとする若い世代に提供するに事欠かないのである。」(85-86頁)