「世界史A」教科書分析 学習指導要領編

1.学習指導要領における「世界史A」の特徴

  • 平成11年版以前の「世界史A」
    • 昭和35(1960)年版「世界史A」
      • 学習指導要領において「世界史A」が一番最初に登場したのは、昭和35(1960)年版学習指導要領においてであった。この「世界史A」は内容構成において「世界史B」と全く同じであり、異なる点は「世界史B」でのみ「主題学習」を行うというものであった。つまり「世界史A」は「主題学習」を行わない科目であったのである。そして、昭和45年版の学習指導要領からは「世界史A」は消滅し、社会科解体を迎えることになる。
    • 平成元(1989)年版「世界史A」
      • 「世界史A」は社会科解体とともに地歴科の科目として復活する。平成元年版「世界史B」では内容構成の視点として「文化圏」が未だ残存する状況に比して、「世界史A」では「文明史的な視点」並びに「文化の交流及び比較の視点」から内容構成が成されるようになった(平成元年版解説14頁)。すなわち「世界史A」は、今まで行われていた「文化圏」学習とは全く異なる視点から科目が設置されたのであった。
    • 平成元年版と「主題学習」
      • では「主題学習」との関わりは如何であろうか。学習指導要領の本文には「主題学習」は見受けられないが、解説の中では「テーマ」を設定する学習が取りあげられている。具体的には、内容の(2)の指導における「内容の取扱い」(2)のイの解説である。「…なお、それぞれの中項目に適切なテーマを設定して、生徒の興味と関心を高めることをも試みたい。例えば、「ア 2世紀の世界」ではシルクロードの交易、「イ 8世紀の世界」では各文化圏の主要都市、「ウ 13世紀の世界」ではマルコ=ポーロやイブン=バトゥータの世界旅行、「エ 16世紀の世界」ではコロンブスの航海、「オ 17・18世紀の世界」では諸文明の建造物や芸術作品などの様々なテーマが考えられよう」(平成元年版解説27頁)とある。ここでは興味と関心を高めることをねらいとしており、これを目的とする主題学習は平成11年版「せかいしA」の「ユーラシアの交流圏」での主題学習、平成21年版「世界史A」の内容(1)「世界史へのいざない」に受け継がれていくことになる。
      • また平成元年版「世界史A」では解説の「科目の基本的性格」という項目で「…「(4) 現代世界と日本」では…中項目に示された主題的な事項の指導内容を、変化する現代の世界に対応して、重点化し、柔軟な取扱いができるようにした」(14頁)とあり、指導内容が「主題的」であることを示している。本文でも内容の(4)は課題考察的な学習であることが示され「地球規模で一体化した現代世界の歴史を理解させ、そこに現れた歴史的課題について考察させる」と述べられている。これらにより、「主題的」な内容を「歴史的課題について考察させる」ことは、、平成11年版・平成21年版における課題追究学習・課題探究学習につながると分析することができよう。

   

  • 平成11年版「世界史A」
    • 特徴
      • 平成11年版「世界史A」の解説において「主題学習」に関する記述は二箇所見受けられる。一つ目が、内容(1)「諸地域世界と交流」の「オ ユーラシアの交流圏」における解説の記述であり、二つ目が課題追究学習を促す「内容の取扱い(2)エ(イ)」である。
    • 内容(1)「諸地域世界と交流」の「オ ユーラシアの交流圏」における解説の記述
      • まず一つ目の内容(1)のオに関してだが、これは学習指導要領の本文に記述は無い。内容(1)のオの解説において「…適切な主題を設定して、生徒の興味と関心を高めることも試みたい。例えば「(ア) 海域世界の成長とユーラシア」では、『アラビアン=ナイト』の船乗りシンドバッドの航海やマルコ=ポーロの航海、「(イ) 遊牧社会の膨張とユーラシア」ではフビライを助けたムスリム商人、「(ウ) 地中海海域とユーラシア」ではイスラーム文明の流入とヨーロッパ世界の文化変容、「(エ) 東アジア海域とユーラシア」では新安沖沈没船などの様々な主題が考えられよう」(平成11年版解説23-24頁)と述べられている。これは、興味・関心を高めるための主題学習を説いたものであると分析することができよう。興味関心を高めることをねらったものとして、平成元年版の「テーマ」を設定する学習を継承し、平成21年版の「世界史へのいざない」に受け継がれるものと位置づけることができる。
    • 課題追究学習を促す「内容の取扱い(2)エ(イ)」
      • 二つ目の課題追究学習に関する「主題学習」についてであるが、学習指導要領の「内容」には記述は無い。しかし「内容の取扱い(2)エ(イ)」において主題を設定して追究する学習が述べられている。引用すると、「内容のオ及びカについては、例示された課題などを参考に適切な主題を設定し、生徒の主体的な追究を通して認識を深めさせるようにすること」(解説35頁)とあり、具体的な主題設定の方針とねらいが述べられている。
      • 主題設定の方針は「オ 地域紛争と国際社会」に関しては、「交際社会の変化や国民国家の課題などについて考察させる」ことのできる主題を、「冷戦終結後の世界で起こった地域紛争」の中から選択し設定するとして、湾岸戦争、旧ユーゴスラヴィア旧ソ連での民族紛争、アフリカにおけるソマリア内戦やルワンダ内戦が例示されている。
      • 「カ 科学技術と現代文明」に関しては「人類の生存と環境、世界の平和と安全などについて考察させる」ことのできる主題を、「現代の科学技術」の中から選択し設定するとして、原子力情報科学(コンピュータを中心とした先端技術)、宇宙科学(人類の宇宙観、ロケット、宇宙開発)が例示されている。
      • これらの「主題を設定し追究する学習」は主題的な現代の諸問題を考察する平成元年版を継承したものといえる。また、ここでは、生徒主体の学習活動が重視されている。具体的には、情報の取捨選択、調査・見学、まとめ・報告・討論などが取り上げられれている。これらは、平成21年版の言語活動やキーコンピテンシーを取り入れた課題「探究」学習としての主題学習に受け継がれるものであると分析できる。
  • 平成21年版「世界史A」
    • 特徴
      • 平成21年版学習指導要領から「世界史A」においても主題学習は「内容」において位置づけられた。具体的には、関心を高め、世界史学習の意義に気づかせることをねらいとする内容(1)の「世界史へのいざない」と、課題探究学習である内容(3)「地球社会と日本」の「オ 持続可能な社会への展望」である。ここでいう「探究」とは解説において「生徒の発想や見方、疑問をもとに生徒自らが主題を設定し、これまでに習得した世界史の知識、技能を用いながら、歴史的観点から諸資料を活用して主体的に考察する活動」とあり、その意図は「歴史的思考力を培い、言語活動の充実を図る」ものだと記されている。
    • 内容(1)「世界史へのいざない」:「自然環境と歴史、日本の歴史と世界の歴史のつながりにかかわる適切な主題を設定し、考察する活動を通して、世界史学習の基本的技能に触れさせるとともに、地理と歴史への関心を高め、世界史学習の意義に気付かせる」
      • 「ア 自然環境と歴史」:「歴史の舞台としての自然環境について、河川、海洋、草原、オアシス、森林などから適切な事例を取り上げ、地図や写真などを読み取る活動を通して、自然環境と人類の活動が相互に作用し合っていることに気付かせる」
      • 「イ 日本列島の中の世界の歴史」:「日本列島の中に見られる世界との関係や交流について、人、もの、芸術、文化、宗教、生活などから適切な事例を取り上げ、年表や地図などに表す活動を通して、日本の歴史が世界の歴史とつながっていることに気付かせる」
    • 内容(3)「地球社会と日本」「オ 持続可能な社会への展望」
      • 「現代世界の特質や課題に関する適切な主題を設定させ、歴史的観点から資料を活用して探究し、その成果を論述したり討論したりするなどの活動を通して世界の人々が協調し共存できる持続可能な社会の実現について展望させる」
      • ここでの学習のねらいは、生徒の主体的な探究を通して、歴史的視野からそれらの問題に関する認識を深めさせ、世界の人々が協調し共存できる持続可能な社会の実現について展望させることである。主題は内容の(3)のア〜エに示された事項を参考に設定する。
      • 「ア 急変する人類社会」の例 :生徒が人々の移動や移民に着目して「移民と移住先社会での生活」という主題を設定し、移住先社会での文化摩擦の問題や、移民が移住先社会の経済や社会に果たした様々な貢献について取り上げ、探究する
      • 「イ 世界戦争と平和」の例 :生徒が世界戦争の原因や人々の平和への思いに着目、「世界戦争と国際社会」という主題を設定。世界戦争の原因やその歴史的背景を整理し諸国家や諸国民が協調し共存できる国際社会の実現について探究する
      • 「ウ 三つの世界と日本の動向」の例 :生徒が、核兵器の破壊力や核兵器開発競争の問題に着目して、「核兵器と人類の共存」という主題を設定し、核兵器廃絶の取組みや原子力の平和利用について探究する
      • 「エ 地球社会への歩みと課題」の例 :生徒が、地球規模で深刻化する環境問題に着目、「環境と人類の歴史」という主題を設定する。産業革命以後の歴史を概観する。調和のとれた開発と環境の在り方について探究する

2.各教科書の分析

分析の視点
  • 興味・関心
    • 平成11年版との対応
      • 学習指導要領内容(1)オ「ユーラシアの交流圏」との対応
    • 平成21年版との対応 
      • key word:自然、日本史、人物、もの、芸術、文化、宗教、生活など
  • 構成上の特徴
    • 構成や学習課題の設置など