『いろとりどりのヒカリ』は主人公くんと娘さんが家族パワーで真紅さんを幸福にするゲーム。
好いた女の為に「諦めないこと」がセカイを変える。大好きな母親への想いがセカイを変える。
マルチエンディングというゲーム形式において「選ばれなかったヒロインの悲劇」をも丁寧に扱います。
そして最後は主人公くんが精神的成長を果たしてハッピーエンド。
ファンディスクとは言えない重厚な作品でした。
『いろとりどりのヒカリ』の全体の流れ
- 主人公くんはメインヒロイン(真紅)と結ばれたが、捨て駒ヒロインたちに罪悪感を抱いていた。
- 故に、選ばれなかったヒロインたちに贖罪をするため、悲劇的なセカイの巡礼をし続けることになる。
- その際主人公くんは植物人間状態になり、メインヒロイン(真紅)はシングルマザーライフを強いられる。
- だが数年後、メインヒロイン(真紅)は灯台から落ちて死亡。
- そのため、主人公くんとメインヒロイン(真紅)が残した娘(青空さん)が二人を復活させることになる。
- その方法が並行世界の統合
- 娘(青空さん)の活躍により物語収集完了 →死亡する前の母(メインヒロイン・真紅)に託す。
- メインヒロイン(真紅)はそれを主人公くんに届けにいき、主人公くんを「大好きだ」と述べ肯定してあげる。
- 主人公くんは、捨て駒ヒロインたちへの罪悪感を払拭し、「諦めない心」を獲得。
- 主人公くんはメインヒロインの灯台落下死亡事故直前の時間軸に出現して、救助成功 →ハッピーエンド!!
『いろとりどりのヒカリ』雑感
この作品において扱われているテーマは「諦めない」という心です。テーマ的には珍しくもないですが、それを表現する手法としてエロゲにおけるマルチエンディングというシステムを上手く利用しているところに構成上の巧みさがうかがわれます。すなわち「ヒロインが選ばれなかった世界」のことです。主人公くんの心情変化として「諦めない心」を獲得する必要があるのですが、その手段として「選ばれなかったヒロインたちの許しを請う」という表現方法を使用しているのです。主人公くんは「救えなかったヒロインの世界」で足掻き続けるのですが、結局独りでは問題を解決することができません。「大団円」が物語の性質上求められているからです。そのため、ここでその主人公くんに贖罪のきっかけを与えるのが「家族の絆」ということになります。文学的文章において「家族」を描くことはお決まりのパターンであり、エロゲ業界でも泣きゲーでいくつもの物語が紡ぎ出されています(運命を変えるために娘が過去からやってくるというプロットは『with ribon』だったか?)。このため使い古された手法とも感じられますが、娘視点での心情描写にはついつい見入ってしまいます。「みなしご」でいじめられながらも不器用ながら一生懸命生きるその姿にはいじらしさを感じざるを得ません。
そして伏線を回収して全体像に位置づけるのも上手いと感じられました。主人公くんは前世において精神崩壊した母親から「大嫌い」と言われ心が狂ってしまいます。そんな母親が転生して「主人公くんとメインヒロイン(真紅)の娘」として生まれ変わり、主人公くんたちを救いに行くことで贖罪を果たすという展開です。そして、様々な人たちに助けられながら、主人公くんが「精神的成長を果たす」という構成にも胸が高まりますし、現代文の読解的にもわくわくします。現代文における文学的文章(小説・物語)の読解では「物語の生成パターン」をおさえることが重要です。どういうことかというと「問題を抱える登場人物」が、「物語上のイベント・出来事を経て心情変化変化をさせる」ことで、「人間における普遍的な問題を明らかにする」というものです。現代文ですから現代の諸問題を扱い、登場人物たちが抱える問題を把握することで、個別具体的な登場人物の事例から、一般的普遍的な問題を抉り出すことができるわけですね。と…いうわけで、やっぱりここまで読んできた読者としては、主人公くんには精神的に成長して欲しいものです。ここでは「罪悪感の払拭」という人間性が抱える煩悶がきゅんきゅんきますね。「誰かに酷いことをしてしまった大嫌いな自分を許すことができなければ…人は何度でも同じことを繰り返す」と「自己否定」から「女による自己救済」へと至る過程など良いものだ。それでは最後に主人公くんが成長した証をとくとご覧下さい。
- 「罪を償う行為の中で、自分で自分を許していかないといけない」
- 「世界を一つにする魔法。俺たちの1回きりの最後の魔法。それは諦めないこと、そのものなのだ。生きることを諦めない。微笑むことを諦めない。負けないことを諦めない。…諦めないで、走り続けて、自らの手で望む未来を掴み取る」
- 「人生は……どんな道を歩もうと、どんな選択をしようとも、諦めなければ、必ず幸せになれるようにできているんだ」
『いろとりどりのヒカリ』の伏線についてまとめ
- 主人公くんは前世において母親(=ハク)から「大嫌い」と言われ、心が狂ってセカイの果ての管理者となった。
- 母親(=ハク)は転生して二階堂藍になったが、息子に「大嫌い」といってしまったことが罪悪感となっていた。
- そのため二階堂藍は他人を幸福にすることで贖罪をしようと思っていた。
- その二階堂藍の贖罪の対象となったのが、リアル「カノウエユウマ」だった。
- 「カノウエユウマ」は「願いがなんでも叶う国」で親から捨てられた上に、性的虐待を受けようとしていた。
- 「カノウエユウマ」は二階堂藍に救済されるが、主人公くん(管理者モード)に拉致されて死亡する。
- その後二階堂藍も拉致されるが、藍は主人公くんの代替としてセカイの管理者になる。
- 「カノウエユウマ」は「主人公くんの贖罪」を利用して、藍の罪悪感を解放しようとした。
- 「カノウエユウマ」は藍の代行としてセカイの管理者となる。
- 「カノウエユウマ」は真紅と結ばれた主人公くんの罪悪感を利用し、「選ばれなかったヒロインズ」に贖罪させる
- その贖罪を二階堂藍が手助けすれば、藍は息子である主人公くんを救うことが出来るので心も晴れるだろう?
- 実は「カノウエユウマ」は前世においてハク(=藍の前世)と夫婦でした。つまりは主人公くんの前世(=レン)の父親
- 父親心として息子に「諦めない心」を身につけさせようとしていた。