天児慧『中華人民共和国史』(岩波新書 2013)まとめ

  • 著者の問題意識
    • 「変わって変わらぬ中国」
      • 中国には、激しく揺れ動く政策・権力的変動とその底辺にある容易に変わりにくい社会構造という強い重層性が存在する。それが改革開放の30年間で徐々に溶けるように変わっているところに、中国の歴史的変動の特徴を解く鍵がある。

新中国の誕生

  • 戦時体制下の建国(49年)
  • 三反五反運動(52年)
    • 汚職反対、浪費反対、官僚主義反対の三反運動のために、資本家たちの贈賄・脱税・国家資材の横領・手抜きと材料のごまかし、経済情報の窃盗といった害毒を取り除く五反運動を展開したこと。
    • 歴史的意義…社会主義への転化の基盤が徐々に造られていったこと。
      • 「五反運動」を通してこれまで政権の一翼を担っていた民族資本家階級が、国家の政策と法への忠誠度を試されることになり、商工業経営者は深刻な打撃を受けた。

大躍進

  • 明確に在るべき理想の社会像を提示し、それに向かっての段取りを示したものというより、建設に向けての独自の方法(大衆路線と二本足路線)と意気込み(主観能動性)を強調したもの
  • 毛は資源・資金・人材など客観的な条件を十分に考慮することなく、もっぱら「一窮二白論」(窮していることと何もないことは中国の特徴だが、かえってやる気を起こすという意味で素晴らしいとの主張)を展開し、人間の主観能動性を強調し、この大生産運動に挑ませた。

プロレタリア文化大革命

  • プロレタリア文化大革命とは
    • 広義には1965年、ないしは1966年から1976年の毛沢東の死に至る時期にみられた、毛の理念の追求、ライバルとの権力抗争といった政治闘争。
    • それらの影響を強く受けながら、大嵐のごとき暴力、破壊、混乱が全社会を震撼させ、従来の国家や社会が機能麻痺を起こし、多くの人々に政治的、経済的、心理的苦痛と犠牲を強いた悲劇的な現象の総体を称する。
      • 世界共産主義運動においてソ連に代わって先頭に立つという毛の野心的な挑戦、米国に加えて急速に増大したソ連の脅威に対する強烈な「危機感」を外円的な枠組みとする。
      • 国内に向けて極度の緊張を時には事実として、時には意図的に煽りながら、その中で毛の飽くなき「夢」の追求、政治的ライバルへの仮借なき打撃、建国後形成された社会的差別構造への反逆を利用することにより推し進められた。
      • 文革の「到達点」は、搾取階級・反動階級を打倒し新たな思想・文化・風俗・習慣を創造した「人々の魂に触れる革命」などでは到底なく、恐怖と猜疑心の中での極端なまでの個人崇拝と肥大化した軍事独裁、さらには社会の軍事化によって特徴づけられた。

改革開放

  • 先富論…「豊かになれる条件を持った地域、人々から進んで豊かになろう」
  • 社会主義初級段階論
    • 従来資本主義的と見なされていた不動産(使用権)の売買、私営企業や株式制度の導入などを積極的に実施することのできる正当化の根拠となる
    • 中国は社会主義ではあるが、経済が立ち遅れ、農業が主で自給自足経済が大きな比重を占め、貧困と停滞が続いている現実を踏まえ、そこから脱皮を図ることが最優先課題となっている段階を「初級段階」と規定した。その脱皮のためには、近代的工業の発達、商品経済への移行などが許容される。

ポスト訒小平 ⇒ 江沢民体制

  • ナショナリズムによる国民統合原理
    • 経済的な近代化は比較的速いピッチで継続的に進行しており、それに伴ってとりわけ都市では市民化現象と呼ばれるような、人々の価値観、ニーズ、ビヘイビアの多様化が進み、農村でも市場経済による消費生活の大幅な転換など社会の近代化が広がった。これに対し、政治の多様化への要求も必然的に出たが、中央当局はこれを完全に封じ込めた。それどころか共産党は「中華民族」の繁栄を訴えた中華ナショナリズムと「政治安定」の保証人であることを全面に出し、指導の正統性を補強した。経済発展が金科玉条である限りはこのイデオロギー的論理は一定の説得性を持つ。

中華民族の偉大な復興

  • 国家資本主義
    • 経済的躍進の一方で、国有株主が強くなりすぎ、中小株主等の地益を浸潤し、民営化を余儀なくされた中小企業の企業統治が、正常に機能しなくなっているという新たな問題も生まれてきている。
    • 公平な富の分配よりも経済成長を優先する政策、安価な労働力を比較優位として乗り出した国際競争力の強化は「弱肉強食」の社会傾向を強め、その結果、貧富の二極化、格差拡大を推し進めることになった。
  • 海洋発展戦略(2011年・第12次五か年計画)の背景
  • 「中所得の罠」
    • 「中国2030」(2012年に世界銀行と中国国務院発展研究センターの共同研究成果として発表された報告書)
      • 中国は今後、高所得国への以降は可能だが、労働コスト上昇などに伴い国際競争力が低下し成長力が失われるという、「中所得の罠」も問題が浮上すると指摘される。
  • 中国特殊論
    • 開発独裁モデルに加え、伝統的、儒教的な権威主義的関係、上下関係を意識した階層的な秩序意識。中国を中心として周辺諸国をそのような関係に位置づけ、中華的秩序の世界(大中華圏)を構築させようとする。