カルマルカサークル「夏目暦シナリオ」の感想・レビュー

カルマルカサークルの暦シナリオは「存在理由の希薄性」。
自分で選ぶことを諦め、他人に人生を委ねてきた少女の主体性を回復させよ。
自分の存在に合理的な必要性を求めるヒロインに対して、無差別無償の愛を説け。
主人公くんが全力で少女の存在理由を肯定してあげるシーンはグッときたね。
「暦、お前はただ、したいと思ったことをすればいいんだ!!」

夏目暦のキャラクター表現とフラグ生成過程

夏目暦は孤児院出身のクーデレ数学ガール。日常生活を数学で捉える描写は「理学部数学科あるある」なのでしょうが私は文系です。8桁素数で喜びラーメンを数学で解説する暦ちんの描写は、かつて『ゆきうた』のメインヒロインが正二十面体?のサイコロを蹴ることを想定しながら数的処理をして下校しているというテキストを読んだ時以来のセンセーショナルでした。そんな超絶理系の暦ちんでしたが、常に合理性を追い求め、論理演算で導き出せない人間感情のコントロールを不得手としてきました。それには夏目暦という人格形成に影響を与えた孤児院暮らしがその根底にあったのです。暦ちんは孤児出身であるが故に、自分が無意味に存在していることを受け入れられませんでした。常に他者からの評価、社会的な価値観に応えることで自分の存在理由を証明してきたのです。そこに自分の感情は一切なく、合理的なデジタル処理のみがありました。そんな暦ちんは主人公くんと接していく過程で、自分の中にある「非自明的な感情」と向き合っていくことになるのです。暦シナリオのテーマとなるのが「主体的な自我の確立」でした。


ある日、暦ちんが数学の懸賞論文を証明したことから、アメリカの研究施設からオファーが来ました。これに食いついたのが学園の理事長で、学校の知名度の向上と宣伝集客効果を狙って、暦ちんがオファーを受けるように誘導します。いやー、私は私学にも受験教科を教えに出講してるんで分かるんですが、教育とは名ばかりで私学の第一目的はやっぱり「利潤追求」なんですよねー。生徒を維持支配管理コントロールし広告塔として利用することに一枚かんで糊口を凌いでいるかと思うと自分に反吐が出るぜ。主人公くんはこの件に関して暦ちんの主体的意志を尊重し、どんな選択をしても暦を受け入れるつもりでいました。暦ちんが自分の心で選んだことならば、どんなものでも受け入れると。しかし、暦ちんは自分の感情と向き合うことをしてこなかったため、自分で選択をすることができなかったのです。主人公くんが「行け」or「行くな」というのは簡単でしたが、それをすることは隷属させると言うことです。そんなのは人格を否定することに繋がります。では主人公くんはどんな方策をとったのでしょうか。

ここからが暦イベントの最大の見せ場になります。暦ちんが自分で選択をできないのは、これまで世界に無条件で必要とされてこなかったからでした。孤児であった暦ちんは何らかの能力を示さなければ生きられなかったのです。そんな暦ちんに無条件の肯定を与え、無差別無償の愛を降り注ぎこむのが我らが主人公くん。「この世界には、お前がどんな決断をしても、決して見捨てない人間がいる。どんな選択でも受け入れて、お前を必要とし続ける人間がいる。俺がお前を守る。お前の合理性も必要性も定義も全部俺が支えてやる。だからもう何も心配しなくて良い。お前はただ、したいと思ったことをすればいいんだ」と暦ちんに語りかける所が見せ場となっております。主人公くんや同好会の仲間に支えられた暦ちんは研究施設に行かないことを自分の意志で決め、理事長と対決することになります。最後は全校集会の場面において、全生徒からの支持を取り付け理事長に翻意させることに成功したのでした。後日、暦ちんに揺さぶりをかける理事長に対し、自分の意志を主体的に語ります。「自分で選択すること。その選択に満足すること」が重要なのであると。こうして主人公くんを介して世界と繋がった暦ちんはハッピーエンドを迎えるのでした。