花咲ワークスプリング!「上月柑南シナリオ」の感想・レビュー

メイド的実存についてのはなし。進路選択に悩む柑南を支えてあげましょう。
メイドという役職に依存していた少女がメイドを辞めるとき何を思うか?
メイド以外の選択肢を与えられて苦悩した結果、メイドであり続けることを主体的に選択。
†柑南「私は、メイドの仕事が好きなのです」
若葉と柑南の主従関係のエピソードや髪をロングとショートで選べるなど優遇されてます!

上月柑南シナリオの概要


  • 役割としてのメイド
    • 上月柑南は黒髪ロングの武闘派メイド。お嬢様に仕えることに幸せを見出し、従順で礼儀正しいのですが、主人公くんにだけは本当の自分をさらけだします。主人公くんとのやりとりを楽しみ、主君に仕えながら日常を送るという幸福な毎日。しかしそんな日常も永遠に続くことはありません。なんと「進路選択」という人生の岐路が待ち受けていたのです。当初柑南はお嬢様のお付きになることを自明としていました。しかし柑南のことを「親友・家族」と認識する主君の若葉は、柑南を解放したいと思っていたのです。ここで柑南の「メイド」としてのアイデンティティが崩壊してしまうのですね。柑南は「自分が自分であること」を「メイド」としての「役割」に見出していたのです。すなわちメイド依存。ここで自分の役割である「メイド」を取り上げられてしまうと、自分は何者かが分からなくなってしまうのです。思い悩む柑南に対して、主人公くんは手取り足取り支えていくことになります。
    • なぜこんなにも柑南はメイドに拘るのでしょうか?その理由を探るために柑南がメイドとなった起源を見ていきましょう。柑南はもともと児童虐待が行われている下層市民の子弟であり、日々の食事にも事欠くほどでした。ある時柑南は飢えを凌ぐためにお屋敷に忍び込むのですが、あえなく捕まってしまいます。家主に動機を尋ねられた際、貧困による空腹のためだと開き直ると、不憫に思った家主によりそのまま屋敷に引き取られることになったのです。ここで柑南は清潔な衣服と腹を満たす食事を与えられました。衣食足りて礼節を知る。改心した柑南が自分の役割を見出せず困っていると、家主様は柑南にメイドとしての仕事を与え自尊感情・他者受容願望を満たしてあげたのでした。



  • メイド的実存
    • 様々な進路選択に悩む柑南ですが、ここで主人公くんは可能性は一つではないことを示してあげます。主人公くんの嫁になることで苦悩から安易に逃げようとする柑南に対し、主体的意志を示すことを要求します。嫁でもメイドでも服飾関係でも選択肢を狭める必要なないんだ!と。主人公くんに嫁ぎながらもメイドとして若葉に仕え、服飾の知識を身につけて活かす道を考え始めます。今までは与えられた役割としてのメイドにしかすぎなかった柑南が、ここでは自らを掘り下げた結果、メイドとしての自分を選び取ったのです。まさにメイド的実存といっても過言ではないでしょう。そして最大の見せ場は主君である若葉とメイドである柑南が和解をするシーンです。自らメイドとしての自分を確立した柑南が若葉に対して「私は、メイドの仕事がすきなのです」と告白する描写はまさにハラショー、グッときます。こうして若葉はメイドという「役割」に個人を依存してしまう逃避ではなく、力への意志としてメイドである自分を見出したのでした。主人公くんは一生懸命生きる柑南を支えていきたいとココロから願うようになり、最終的には結婚エンドを迎えます。