渡辺僚一『はるまで、くるる』(すみっこソフト、2012-04-27)の感想・レビュー

人類滅亡後、氷河期となった地球環境が人類生存に適するようになるまで、ループしながら地下空間で生活するはなし。
種の保存と人類の可能性としては火の鳥未来編や漫画版ナウシカと同じようなノリ。
閉鎖空間の中で3ヶ月間を記憶リセットしながらループし続ける。
このループが当初は高次元の観測者によるものかと思いきや、老化と幼化の繰り返し。
この作品における「宇宙ヒモ」や「人類の概念情報体への進化と身体が心に与える影響」が、
後継作品である『なつくもゆるる』のテーマとなっている。

雑感


  • 高次元の観測者説
    • 主人公くんとヒロイン4人は記憶喪失の状態から始まり孤島において3ヶ月間生き抜く課題が与えられます。プロローグでは主人公くんたちグループはボノボのようにハーレムを形成することで3ヶ月を生き抜く様子が語られます。そして3ヶ月過ぎると観測者の視点が提示され、記憶リセット&ループする仕組みが紹介されるのです。体験版をやった時には、高次元の観測者がループを引き起こし、人類が極限状況の中でどのように過ごすのか?というデータ収集をしているんじゃないか?と思っていました。現に春海√においてはヒロインの狩猟本能が目覚めてしまった世界が展開されます。他者の生命を奪いたいという本能に駆られる春海に対し、主人公くんは自分を少しずつ殺させることで3ヶ月持たせようとするのです。結局ここでは、人類は生態系において生きているだけで他の生物の生命を奪っているのであり誰かを殺そうとしなく殺人欲は満たされるはずだと牽強付会的に納得させるのです。春海√終了後も観測者の視点が提示され、高次元の存在によるデータ収集説と読者が信じるようミスリードさせていきます。



  • 世界観を解き明かせ編〜人類滅亡説〜
    • 「3ヶ月の記憶リセットループはなぜ・どのようにして起こっているのだろうか?」について語られるのが秋桜√と冬音√です。春海√までは高次元の観測者説が有力でしたが、ここから「人類滅亡後のコロニー説」が真相として明らかになるのです。マンガ『火の鳥』において不老不死の一形態として老化と幼化を繰り返すことで永遠の命を生きる男が扱われましたが、本作のループはまさにソレ。地球が氷河期に入ったため、世界戦争を引き起こした人類は、その後、地下と宇宙にコロニーを作り、閉鎖空間で生きるようになったという未来です。そして最終的には人類滅亡のお知らせが迫る中、種の保存のために物語の舞台となるコロニーが新たに作られました。それは自然を含め全ての環境が3ヶ月の間、幼化と老化を繰り返す空間でした。主人公くんたちメンバーが選ばれたのも理由があり、春海は狩猟本能、静夏は宗教的指導者、秋桜は論理的思考力、冬音がコロニーの維持者、そして主人公くんが男性の性的役割と冬音のスペアの役割を持っていました。
    • 冬音√では、冬音が世界の観測を続けながら維持管理を行ってきたことが明らかになるのですが、とうとうついに冬音の身体が壊れてしまいます。冬音は脳内にナノデバイスを組み込まれることで外付け記憶媒体に接続し、数千年の記憶を保持していました。しかし数千年生きるうちに次第にバグが生じ、自殺をすることでナノデバイスをオフにしようとする衝動が押さえきれなくなってしまったのです。勿論、空間・環境そのものが3ヶ月ループするのでたとえ死んだとしても初期状態にリセットされて蘇るのですが、これまで記憶リセットのなかった冬音にとってナノデバイスをオフにすることは死の恐怖と同義だったのです。冬音はナノデバイスをオフにするため死を望み、主人公くんもそれに応えます。死ぬことで冬音のナノデバイスはオフにされ、冬音自身がループの対象として繰り返しに組み込まれる中、今度は主人公くんのナノデバイスがオンになり、冬音の代わりにコロニーの維持・管理をすることになったのでした。



  • 永遠ループからの脱却 → 身体と心
    • 主人公くんは3ヶ月のループを繰り返させながら、氷河期の終焉をひたすら待つことになります。徐々に心が壊れていく主人公くんを完全に崩壊させたのが、太陽系そのものの終焉のお知らせ。いくら待っても永遠に氷河期のままだぜ☆!という事実は主人公くんを自殺させナノデバイスをオフにしてしまったのでした。こうして維持管理者のいないまま3ヶ月ループが繰り返されることになったのですが、これを救ったのが静夏の存在でした。静夏は宗教的指導者の役割を期待されコロニーに抜擢された人材であり、溢れんばかりの感情で主人公くんの壊れた心を癒していきます。主人公くんは能動的に何かをやろうとすると呪いの言葉である「ドウセ、オワラナイシ・サイショカラ、ゼンブ、オワッテタシ・ダカラ、ズット、オワリツヅケルダケ」に囚われてしまいます。これを静夏が「元気教」によって解放するのです。静夏が重要視するのは「身体」が「心」に及ぼす影響。これは『なつくもゆるる』のテーマともなっているのですが、人間は「身体」が「心」を規定するという考え方。静夏は主人公くんと身体を動かすことで、鬱屈した状態から引き上げていきます。
    • 主人公くん復活に貢献した静夏でしたが、その際において主人公くんや冬音がアクセスしていた大容量記憶媒体接触していました。概念情報体は次第に自我を持つようになっており、それに静夏が積極的に対話を求めたことで意思の疎通が可能となっていったのでした。主人公くんは復活すると自動的にナノデバイスがオンになるように設定されており、再びコロニーの管理者となることが要請されます。しかし今度は静夏のおかげで概念情報体と対話ができるというわけです。このコミュニケーションにより主人公くんは数万年に及ぶ3ヶ月の繰り返しに耐えていくことが可能となります。また太陽系の終焉により永遠に氷河期が終わらないお知らせを受けた主人公くんでしたが、まだ絶望に至るには早とちりでした。なんと地球ごと太陽系を抜け出し、別の銀河系に移ることが可能とのことだったのです。終わりが見えれば希望も持てるというわけです。
    • そしてついに3ヶ月ループが終わります。最後の1年間は四季の変化と生活環境への適応に時間を使うということで、記憶リセットが解除されてノウハウの蓄積に勤しみます。そして冒頭と同じように主人公くんのハーレムが形成され、ついに地下コロニーから地上へと昇ります。地球がどうなっているかが心配の種でしたが、扉を開けばそこには春の桜が広がっていました。長い長いループを繰り返した後での感動っぷりが上手く表現できていたと思います。そして最後にこれから主人公くんとヒロインが始祖となって地球を再生する物語がまた始まるのでしたと綺麗にまとまりました。