雑録

乙女理論とその周辺「大蔵りそなシナリオ」の感想・レビュー

無職ニートひきこもり不登校児である異母妹を救うため、大資産家の後継者争いを解決し、服飾によって家族愛を示す話。
りそなルートかつ大蔵家物語でもあり、衣遠兄様がデレる展開は一見の価値あり。
最後は三兄妹が力を合わせる展開となり、フランス人国粋主義者に対し、服飾コンテストにおいて勝利を収める。
三兄妹の絆は一族の心を打ち、大蔵家後継者争いも和解に導く。
ピンチの際に前作「つりおつ」のメインヒロイン;ルナ様が遊星とりそなの力になる演出もステキ。

妹の成長物語


  • ヒキコモリイモウト奮起する
    • りそなルートの原動力となっているのはイモウトの成長です。りそなは資産家にありがちな呪縛によって不登校となってしまっていたのです。そんなりそなの生きる希望は義兄である主人公:大蔵遊星の幸せを願うことでした。しかし本作品『おとりろ』は全作品『つりおつ』のバッドエンドから開始されます。つまりは主人公の女装がバレて、ルナ様のもとから追放され衣遠お兄様に仕えるところからスタートするのです。服飾関係の仕事に就きたいと願う遊星の夢は断たれ能面のように過ごす毎日。ここでりそなは奮起し、遊星のためにもパリの服飾学校で再起を図ることを誓います。こうして遊星は再び女装メイド;小倉朝日となり、今度はイモウトに仕えて服飾学校へと入学するため渡仏するのでした。本作品ではこのイモウトの奮起を度々「繭からサナギが蝶になる」イメージとして表現しています。そしてこのイメージがシナリオを貫くテーマとなっているのです。ヒキコモリイモウトの成長物語として十分に楽しむことができます。



  • 白人優位社会での戦い
    • りそなは登校拒否状態であったので、クラスメイトとの関係構築に苦心します。それに加え人種差別にも巻き込まれ誹謗中傷を受けるのです。様々な嫌がらせにしばしば落ち込むイモウトでしたが、そこは兄メイドが本領を発揮し、りそなと支え合っていきます。入学早々足を引っかけられて転ばされたり、背中にコーヒーばしゃーをやられたりします。そしてりそなの心を砕きかけたのが、クリスマスイベント問題。嫌がらせを受けたもののりそなは交友関係を広げ信頼できるトモダチができてきた矢先の事でした。パーティーの集合時間変更のお知らせを受けて教室に入ると、そこには遊星がりそなに送ろうとしていたクリスマスプレゼントのマフラーがびりびりに裂かれ、黒板には日本人帰れの文字があったのです。この場面の絶望しかけるりそなと兄遊星のイモウトへの愛はかなりグッとくる展開になっております。



  • イモウトの服飾を活かした自立への道
    • りそなの行動原理は兄遊星への思慕であり、自分は服飾に関して一歩引いていました。そんなりそなの意識を改革したのが、遊星の服作り。りそなのデザインをもとにして実際にコートを作ってプレゼント。自分のデザインが具現化した喜びに加え思慕する兄のプレゼントということもあり、りそなの服飾に関する熱意が燃えてきます。デザインに真剣に打ち込むようになり、それを兄とともに作り上げる喜びを知ったのです。そしてフリーマーケットで自分がデザインしたゴスロリ服を売り出すようにまで成長します。ヒキコモリで外の世界を知らなかったイモウトが売り子をしながらやりとりをする場面は思わずハラショーと叫ばずにはいられません。りそなが自分の道を踏み出す過程でもあり、パリにゴスロリ服の店を出すという目標を見出せた瞬間でもありました。印象深いですね。

資産家の後継者争い


  • 大蔵家の家督継承内紛
    • 大蔵家は現頭首が90を越えており家督相続を巡り一族の間で内紛が生じていました。主に権力闘争を行っているのが衣遠お兄様と従兄のスルガさん。お互いがお互いを引きずり下ろそうと水面下での画策が展開しておりました。頭首は大戦において三人の息子を亡くしており、一族の団結に並々ならぬ執着を見せていたのですが、平和で仲良しな家族像は幻想であったのです。遊星は妾腹の子であり、衣遠お兄様やりそなの実母からは大変疎まれておりました。またスルガは父から頭首になることだけを求められたのです。このような権力欲にまみれる大蔵家を浄化していくのが主人公;遊星の役割となっています。スルガは当初パリで遊星とは気づかずに女装メイド;小倉朝日と接触するのですが、その心の在り方に惹かれていきます。また正体に気づかれたあとも酷い仕打ちをした兄衣遠のことを気遣う遊星を見て、心動かされていきます。



  • 衣遠お兄様は何故頭首の地位に固執するのであろうか?
    • りそなルートが大蔵家エンドとも呼ばれるのは、衣遠お兄様との和解が描かれているからです。才能を愛でるが無能を嫌う衣遠お兄様はどうしてそんなに頭首の地位に固執するのでしょうか?遊星とりそなは兄へ贈ったプレゼントのドレスシャツが受け入れられたことから、衣遠お兄様が冷血漢ではないことを知るのです。そこで本質的な問題を知る必要があることに気づきます。衣遠お兄様の過去を知るため、遊星は実父を訪ねにマンチェスターへ。そこで知るのは衝撃の事実。なんと衣遠お兄様は母が前の男と仕込んだ子であり大蔵家の血筋は全く引いていなかったのです。遊星はこのカードを持って、りそなとともに衣遠お兄様との鼎談に臨むのでした。
    • ここから過去回想タイム。衣遠お兄様は幼い頃より英才教育を受けメキメキとその才能を発揮していましたが、ある時父親と自分とのスペックの違いに疑念を持ち遺伝子調査をしたのです。そしたら血縁関係にないことが判明し絶望。今までの自分の生存理由が白紙となったのです。故に衣遠お兄様は血統を憎むようになり個人の才覚を重視するようになりました。そして大蔵家の血筋ではない自分が大蔵家となり、世襲制を解体することが衣遠お兄様の生きる理由となったのです。
    • 衣遠お兄様一族追放の危機。順調に後継者の地位を固めていた衣遠お兄様でしたが、頭首様もまた血縁関係にないことを知ってしまったのです。頭首様は自分が余命幾ばくもないことから後継者を選ぶために縁者の素性を洗っていたことから判明したのです。万事休すとなった衣遠お兄様を救えるのは遊星とりそなだけ。一人反旗を翻そうとする衣遠お兄様に待ったをかけます。りそなが頭首となることで血縁関係にない衣遠お兄様が一族から追放されることを防ぎ、現頭首様が死んでから禅譲するという作戦を立てます。血縁関係になくとも兄を慕う二人に衣遠お兄様はとうとう心を打たれます。こうして衣遠・遊星・りそなは一致団結することになったのでした。

フランス人国粋主義者との戦い


  • 三位一体で困難を乗り越えハッピーエンドを迎えるための装置としてのシナリオ
    • 三兄妹が一致団結してめでたしめでたし、となるのではなく、困難を乗り越えてこそ家族の絆が深まるのでしょう。と、いうことでラスボスバトル。三兄妹が力を発揮し、また大蔵家が和解するための装置としてのシナリオが挿入されます。作中で「真心の人」と称されていたフランス人貴族リリアーヌが襲いかかってきます。貴族制度の無い共和国フランスにおいてリリアーヌはアンシャン=レジームを体現するばかりに身分・階級・人種主義を信奉しており、今までりそなに嫌がらせをしていた張本人でもあったのです。本性を現したリリアーヌに対し、遊星とりそなは組んでいた班を解体して、コンテストで勝負を挑むのです。りそながデザインし、衣遠お兄様が指導にあたり、遊星が製作を指揮する三位一体の描写はこれまでのいきさつもあり一種のカタルシスを生みます。そして、いよいよショーの当日。衣遠お兄様の力で大蔵家の晩餐会でコンテストの様子は中継されていました。遊星はりそなと共に、自らが作った服装を身に纏い、モデルとして練り歩きます。ヒキコモリであったりそなの成長、一族から忌避されていた遊星の活躍、そして権力のカタマリであった衣遠のトラウマ解消は大蔵家の歪んだ権力構造を和解させるのに十分なものでした。こうして服飾を通して、フランス人国粋主義者との戦いにも勝利し、大蔵家問題も解決させ、ハッピーエンドを迎えたのでした。



愛しい僕の妹。多くの恵まれたものを持ちながら、それ故に心を硬い繭で覆われた僕の大切な人。その彼女が繭を解き放つ手伝いができたことを嬉しく思う。まださなぎであった彼女が、その身体から羽根を生やすまでの日々を共に過ごせたことを誇りに思う。この輝かしい羽根と共に、二人で羽ばたける日を前にして、心からこの世界は美しいと思う。ありがとう。僕にこの妹を与えてくれて。世界の何処にいるかもわからない何者かに、大いなる感謝を捧げた。