雑録

月に寄りそう乙女の作法2「エスト=ギャラッハ=アーノッツ」シナリオの感想・レビュー

承認欲求・自己顕示欲が強い秀才少年が他者を想う心を育むはなし。
「つりおつ」ルナ様エンド後に「おとりろ」のりそな√後を交ぜた世界で、遊星とルナ様の長男:才華が主人公。
才華が完璧超人お姉様として慕われるので雰囲気としては「おとぼく」に近いかもしれない。
「服飾」に関するテーマ設定がしっかりなされているので紙芝居のシナリオとして良くできていてフツーにおもしろい。
アルビノ・偉大な両親・性的トラウマを乗り越えるため「自分」が輝こうとしていた才華。
そんな才華が「自分」ではなく主人であるエストのために行動するようになる変化がみどころです。

如何にして桜小路才華は過去のトラウマを払拭させたか。


  • 主人公における問題設定
    • アルビノトラウマ
      • ルナ様の血を色濃く継いだ才華は銀髪赤目のアルビノ。幼少の頃から自分の容姿に自信を持っていた才華は、アルビノである自分が受け入れられると信じて疑いませんでした。しかし同世代の集団の中で過ごすようになると異端は排斥されるものです。奇異の目に晒された才華は自分の容姿を貫き通すことが出来ず、黒髪のウィッグをつけて自分を偽って生きるようになったのです。その後才華は自分の髪の自信を取り戻すのですが、過去においてその髪を隠してしまったことに深い後悔を抱くようになり、現在の自分を緊縛する要素となっていたのです。故に才華は母親から引き継いだ容貌を、母の母校のファッションショーで最優秀賞を獲得することで肯定し、トラウマを克服しようとしていたのです。このため才華は父;遊星と同じように女装してメイドの姿に扮し、母の母校に入学したのでした。
    • 偉大な両親トラウマ
      • 偉大な両親を持つと子どもは苦労するものです。才華も同じくデザイナーとしてのルナ様、パタンナーとしての遊星の幻影にちらつかされることになります。才華は幼き頃より優秀ではあったのですが、「何か」が足りないと言われ続けてきました。物語が進むとそれは「他者の心をおもんばかる」ことと判明するのですが・・・。しかし、足りない足りないと言われる度に才華は「他者への心」から離れていってしまいます。才華は次第に独善的になり「自分が」「自分が」「自分が」ということに囚われ続ける様になってしまうのです。故に父;遊星がルナ様のために、誰かのために服を作ることを受け入れられず、プチ反抗期になってしまうのでした。才華が母の母校のファッションショーに拘ることになった一因のひとつに、偉大な両親からのトラウマによる強すぎる承認欲求があったのでした。
    • 性的トラウマ
      • また才華は父;遊星に対して性的なトラウマを抱えていました。それは幼少期のある晩のこと、才華は女装した遊星がルナ様に犯される性行為の場を目撃してしまうのです。その時に垣間見た父親の表情に性的興奮を抱いた才華は、血族に対する性的欲求を覚えてしまうのです。しかしながらそんな歪んだ欲求は世間的に許されることはなかったため、才華は自ら女装することでしか服飾のデザインを行えなくなってしまったのでした。ちなみにメインヒロインのエストは遊星の母、つまりは才華の祖母と同じ地方のアイルランドシュ出身であるとされ、才華が性的興奮を覚えてしまう契機にもなります。


  • 主従の芽生え編
    • 誰かの為に仕えたいと想うこと
      • 才華はエストのメイドとなることで服飾系学園の女子部に潜入することに成功しましたが、あくまでも念頭にあるのは自己の目的のため。つまりは年末のファッションショーで自分のデザインした服を着て最優秀賞を獲得することでした。故に最初は自分を優先していくのですが、徐々に思考に変化が訪れます。それは誰かに奉仕することの喜びを得ることでした。入学後、アルビノである才華には様々な問題が訪れるのですが、そんな才華を主人のエストは庇ってくれるわけです。こうして貴族の誇りに魅せられた才華はエストに尽くしたいと思うようになっていくのです。そんな才華の感情を一層確固とした事件がプールでエストが溺れてしまった時の事です。アルビノである才華は自分の主人が溺れているというのに、一瞬自分を優先して救助活動をためらってしまったのです。この後フツーに才華は救助に成功するのですが、このためらいがエストへの負い目となると同時に、エストに仕えることの使命感をつよめていくことなったのでした。


  • 文化祭編
    • 誰かを想って衣装を作る事
      • 才華は今まで自分のために服飾のデザインをしてきましたが、主従愛が芽生えると、エストのために服を作りたいと強く思うようになります。エストが着てホントウに輝けるようにするにはどうすればいいでしょうか?それはエストの着たい服を作り上げること。すなわちエストの内面に触れることを必要としています。そのため才華はエストと言葉を交わし、エストを想って衣装を作っていきます。それは素晴らしい作品となるのですが、ところがどっこい。文化祭でモデルを務めたのはエストのようでいてエストではない人物だったのです。当然、エストのために作った服ですから完全な輝きは放ちません。エストに踏み込む決意をした才華は、その理由を問いただすと、エストが抱える問題が浮き彫りにされるのです。
    • エスト替え玉事件
      • エストの代わりにモデルを務めたのはエストの双子の姉でした。エストが服飾を目指す原初の体験に「姉と一緒にデザインをしたこと」がありました。エストはこの時双子でデザイナーになるというたわいもない約束を交わし、愚直に努力と研鑽を重ねてきました。しかし姉はそんな約束は微塵も覚えておらず、エストがそのことを告げると笑うのでした。どうしても原初の体験を忘れられないエストは自分のデザインした服を姉にモデルとして着て貰うことを選びます。また自分のデザインを姉のものと発表して、自分はそれ以外の異なるデザインのスタイルを確立することで、名義を使い分けることで双子デザイナーを叶えようとしていたのでした。才華メンバーズがエストのために作った服を着ることが出来なかったことへの不義を嘆くエストを肯定してあげればフラグは成立さ。才華はエストが抱える姉への想いも、二重デザインをしようとする心意気も、全て肯定してあげるのでした。エストはこれにより過去の束縛から解放され、過去の姉との幻影から、現在の才華との関係へと進むことが出来たのです。



  • パリへ修学旅行編
    • フラグ成立後からの正体バレ
      • 文化祭で共同作業の喜びを覚えた才華メンバーズは、クラス全員で年末のファッションショーに出ることを提案。一致団結して作業に取り組むことになります。才華はエストがデザインした服を作り、エストは才華がデザインした服を作るというノリ。何かの目標に向かって共同作業をするという苦しくあるが充実した日々を送ることになった才華は人生の絶頂期に立ちます。しかしここで正体バレ。「おとりろ」の舞台となったパリへ修学旅行へ行った際、正体がばれる危険性に配慮して何重にも準備をするのですが、ストーキングされて正体バレ。帰国後、糾弾される才華を救ってくれるのはまたしてもエスト。才華が女装をしていたことに衝撃を受けつつも、自然と主人として従者を守る主従愛を見せつけるのでした。動揺するクラスから才華は一時的に退避することになるのですが、それでも年末ファッションショーにおけるエストのための衣装だけは作りたくてたまりません。こうして才華はラスボスであった学院長を頼ることになり、そこで狂信者への信仰と引き変えに、衣装を作ることとなったのでした。


  • 年末ファッションショー
    • 才華スランプと遊星の言葉
      • 学院長の下で隔離され衣装製作に打ち込む才華ですがスランプに陥ります。文化祭の時のような出来にどうしてもならないのです。学院長からも見放され苦悩の日々を過ごす才華。この時の才華はエストのために「自分が」「自分が」という衝動に駆られすぎていたのです。そんな才華に父;遊星の言葉がよみがえります。服を誰に着て欲しいのかと。文化祭の時にはエストに着て欲しいが故に、エストを想い、エストと言葉を交わし、エストの内面を表現しようと努めていたのですが、今回はそれがなかったのです。父の言葉で他者を想う心を取り戻した才華は、最後まで衣装に手を入れようと、地道で困難な刺繍作業に取り組んでいきます。ここがシナリオの最大の見せ場で、なんと才華は自分の髪を糸の代わりとして刺繍を施したのです。才華にとって母から受け継がれた髪は何事にも変えられない誇りの証。その髪を用いて衣装を作ることで、自己よりもエストを輝かせる喜びを示したのです。才華の刺繍はエストの心を打ち、学院長を改心させるのに十分でした。才華が作り上げた衣装を着て年末のファッションショーを闊歩するエストの存在は、才華のトラウマを払底させていきます。こうして自己顕示欲と承認欲求に囚われた秀才少年は過去のトラウマから解放され、ハッピーエンドを迎えたのでした。ちなみに遊星とルナ様のプレイをエストが才華に行うことで、才華は性的トラウマからも解放されます。