見上げてごらん、夜空の星を「天ノ川沙夜」シナリオの感想・レビュー

自罰的な少女が親友を蹴落として自分が結ばれたことに罪の意識を感じて思い詰めてしまうはなし。
頑な少女のココロを溶かすのは、主人公くんが自ら主体的に沙夜の存在を求めること!
中3で爺さんが死んだ時、一番辛い時に側にいてくれたのは沙夜なんだぜと承認欲求を満たしてあげましょう。
沙夜√に入る際にあまりにもあっさりとしていたフラグ構築が沙夜シナリオ終局部でやり直される構造。
双子座流星群のための消灯活動イベントは脇に置かれ、沙夜の内面に閉じこもる描写が中心です。

沙夜√概要

 ↓実は重要な伏線であった

  • 沙夜√に入る際のフラグ構築があっさりしていたのは伏線だったのです。
    • 沙夜と結ばれる前に告白イベントは3回あります。1回目は小6の時で、これは主人公くんがラブレターの差出人を沙夜ではなくひかりと勘違いしたためスルーされて終わります。2回目は高1の時で、沙夜はひかりが東南アジアに行ってる間に結ばれるのは抜け駆けであると白紙のお願いをします。そして3回目、いよいよ高2の時フラグ構築がなされるのですが、主人公くんが「もういいよな?」というだけであまりにもあっさりと告白イベントは終了してしまいます。このあまりにもあっさりとしていたフラグ構築が、のちのち沙夜√のシナリオを動かす原動力となっていくのです。まず主人公くんたちはいきなり倦怠期に突入します。長年連れ添ってきた二人はまるで老夫婦のようであり普通のカップルがドキドキするようなイベントは親友幼馴染みの段階で既に成し遂げていたのです。と、いうことで「恋人らしいことを探す」ことが第一目標となるのですが、フツーに考えてあとはもう閨房での営みしかないわけでして、膝枕からノータイムで情事に突入します。もっと丁寧に描いて欲しかったのは私だけでないはず!!以上によりフラグ構築も夜伽描写も早々に済ませてしまった挙げ句、「プロジェクト・スターライト」がひかりシナリオでのメインイベントとなることを鑑みると、沙夜シナリオの中心を自罰的な少女の罪の意識の内面描写とするのもある意味当然だったのでしょう。



  • 勝手に精神崩壊する沙夜ちんの様子
    • 沙夜は「仲良しトリオを崩壊させたというトラウマ」や「抜け駆けをして主人公くんを獲得した」という罪悪感を無意識に抱えていました。そんな無意識が次第に顕在化され、沙夜を苛み精神的に追い詰めていきます。主人公くんが天体観測を再開した契機となったのが自分ではなくひかりであったことを異様に気にする沙夜ちん。観測記録を付けに行った帰りに補導され説教をくらい親呼び出しで男女交際について叱責されてファビョる沙夜ちん。主人公くんと自分の関係をひかりに口出しされて臍を曲げてしまう沙夜ちん。そして沙夜ちんは、主人公くんとのフラグ構築の象徴である想い出のラブレターを入れておいた御守りをなくしてしまうと、最終的に精神崩壊します。沙夜は想い出のラブレターを信仰の対象としていたため、なくしてしまったことが主人公くんと結ばれる資格の喪失にも感じられてしまったのですね。沙夜ちんは目の前の主人公くんと向き合おうともせず、内面に閉じこもってしまうのです。そんな沙夜の頑ななココロを溶かすのが主人公くんの役割となっていきます。



  • 沙夜√におけるプロジェクト・スターライトの帰結
    • 双子座流星群にあわせて消灯活動を呼びかけるプロジェクト・スターライトは沙夜シナリオではどのように扱われるのでしょうか。それは沙夜が5年間に継続していた天体観測ノートにより簡単に解決します。地区内高校天文部連合は、大型ショッピングモールにクリスマスツリーの電灯装飾を消して欲しいと依頼するのですが、客観的なデータによる論証を求められます。これに「効果がバツグン」なのが沙夜の観測記録というわけです。5年にも及ぶ定点観測により、実際に星が見えなくなっていることをデータで示したのです。これを見ると企業側は手の平を返し、積極的に協力してくれるようになったのです。企業サイドは高校生たちの活動を自らの利益として利用する方向に転換したのですね。
    • この展開は、むしろ高校生たちの草の根活動から離れて行ってしまうようにも感じられますが、沙夜編では消灯活動イベントよりも天体観測ノートの存在の方に重きが置かれていきます。沙夜ノートを登場させたのは、沙夜が幼少期に天体観測をした夜空に縋り付いていることを示す装置だったのです。そしてシナリオは、主人公くんに沙夜の御守りを探させる過程において、これまで主人公くんがどんなに沙夜に救われてきたかを思い出させる展開になっていきます。その思い出とは主人公くんが中3の時に祖父を亡くしてしまった時の辛い出来事。主人公くんが一番救って欲しかった時に天使だったのは紛れもなく沙夜だったのです。こうして主人公くんは沙夜に再告白!二段階でフラグ構築をする構造となっております。こうして主人公くんは自罰的な少女の罪悪感を、需要願望を満たしてあげることで見事浄化したのです。(いやしかし再告白展開にもっていくための流れとはいえグダグダと御守りを探し続けるのは冗長)。シナリオの最後は仲良し三人トリオの関係が完全に修復し、2034年のしし座流星雨をみんなで見ようねエンドになります。ダムの底に沈んだ村を見ながら変化の寂しさと可能性を噛みしめるシーンはCLANNADを思い起こさせました。「人は変わらずにはいられないです」とか「人は変わっていくことが悲しいんじゃない、変わらなければならないことが寂しいだけなんだ!」ってやつ(うろ覚え)。
    • エピローグでは沙夜が教員となっており、子どもたちに天体観測の楽しさを教えています。沙夜が教員を志した理由→「ガリレオ衛星の相互蝕を、『惑星観測ノート』に書き記した時に触れた不思議。その不思議を、実感として解き明かした瞬間、新しい自分と出会えたような気がして、心が昂ぶった。それを誰かに教えたい―そう思った。」