2015年発売ノベルゲームまとめ

みなさん、こんにちは。年内に発売したゲームを時系列順に振り返りながら紹介していくコーナーです。
まず2015年の雑感を述べた上で、プレイしたゲームの概要をまとめていきたいと思います。
2015年にはどんな傾向のゲームが発売されたんだっけ?と想起する手段の一つになれば幸いです。
個人的に印象深いのが『サクラノ詩』『すみれ』『となこいFD』の三本です。

2015年雑感 (作品紹介をすぐに知りたい人はスルーで下に行きましょう!)

  • 「社会人の悲哀」〜失われた30年を経験してきた者達がおじさん層に入ってきた〜
    • 2015年の雑感としては「社会人の悲哀」を題材に扱う作品が個人的に大ブレイクした年でした。具体的には10年をかけて本当に出てしまった『サクラノ詩』とねこねこソフトの記念作品である『すみれ』。『サクラノ詩』は「因果交流」・「美の認識の相違」・「故郷という拠り所」がおじさんの悲哀を刺激します。第6章の社会人パートは感情を揺さぶられること請け合いです。『すみれ』はこれまでメーカーが出してきた全作品を使って「少女救済の三重構造」をやってのけたことで歴史に名を刻んだと思います。年を重ねたからこそ分かる共感・面白み・郷愁が表現されており個人的にグッときました。ゼロ年代初頭に若者時代を過ごした人々がおじさん層に入ってきたことがその背景にあるのかもしれません。最近ではおじさん向けライトノベルも増えてきていますし、「○○おじさん」というフレーズも多様されるようになっており、うしなわれた30年に多感な青春時代を過ごした「新おじさん」黎明期なのかもしれません(※あくまでも個人的な印象)。学生モノは既に飽和状態ですしシナリオのパターンも粗製濫造された物語消費。そんななか「新おじさん向け」はをそれを乗り越え新たな読者層を開拓してきている感があります。
  • 攻略されなかったヒロインの心情を抉り出す作品「となこいFD」
    • 歴史的意義があるものとして特に紹介したいのが「トナコイFD」(『キミのとなりで恋してる! 〜The respective happiness〜』)。「攻略できない」イモウトが真ヒロインでありグランドエンドをかっさらっていったり、メインヒロインエンド後の選ばれなかった幼馴染みBが見せる慈母の表情が破壊力バツグンだったり、FDで追加されたヒロインが魅力的すぎるのに攻略できなかったり、主人公くんの男友達が主人公くんばりに活躍し堕胎を経験した少女を救済したりとやりたいほうだい。原画師からすら恵と彩香の夜伽の絵を描きたかったとコメントされるほど。かつて「攻略されなかった」ヒロインの心情をここまで抉り出す作品が存在したでしょうか?(結構あったかも知れない。)

目次

  • 2015-01-30
  • 2015-02-27
    • 【ぼくの一人戦争 】
    • 【サノバウィッチ 】
    • 【ソレヨリノ前奏詩】
  • 2015-03-27
    • 【花の野に咲くうたかたの】
    • 【花咲ワークスプリング! 】
    • 【ゆきこいめると】
  • 2015-04-24
    • 【クロノクロック】
    • 【イブニクル】
  • 2015-05-29
    • 【すみれ】
    • 【なついろレシピ】
    • 【ピュア×コネクト】
  • 2015-07-24
  • 2015-08-28
    • 【妹のセイイキ】
  • 2015-10-23
  • 2015-10-30
    • 【恋×シンアイ彼女】
    • 【こころリスタ!】
  • 2015-11-27
    • 【キミのとなりで恋してる! 〜The respective happiness〜】
    • 【果つることなき未来ヨリ】
  • 2015-12-18
    • 【見上げてごらん、夜空の星を】

森崎亮人『ハルキス』(戯画) (2015-01-30)

主人公くんをヒロイン達が攻略するゲームです。特にメインヒロインの伊月さんが無双状態であり、他ヒロインのシナリオにまでしゃしゃり出て次々と問題を解決していきます。一応設定上は、学校の評価ではパッとしない主人公くんが実はワケアリ武術マスターで俺TUEEEするノリであり、冒頭までは『こんぼく』のような雰囲気を醸し出していました。しかし本編では失速してしまい「主人公くん何もしねぇ」、「いやそれどころか個別ヒロインまでなにもしねぇぞ」というはなしになります。特に葵√における本人達おいてけぼりっぷりはすさまじかった。それでも「ワケアリ」の過去を扱う天音√と継母をテーマとし家族問題を扱うこのみ√は面白さもあった。主人公くんが道場でオッサンたちのお気に入りで乱取りフルボッコにされる所はほんわかしたし、継母が来たけど主人公くんの方が家事スキルが上であり実母との思い出家事炊事アイテムを次々と台無しになれていくところは切なさを感じて良かったです。


 

呉『夏の色のノスタルジア』(MOONSTONE) (2015-01-30)

ライターの呉さまが久しぶりにシナリオ重視の作品に取り組んでくれたぞ!!と歓喜しながら買った作品。呉さまといえば『何処へ行くのあの日』が印象に残っており、ルート選択による個別シナリオを「並行世界の出現」として巧みに処理し「正史」を称する世界線から他のルート世界を消去にしにやってきたという構造に打ち震えた記憶があります。さて「どこあの」は置いておいて、本作に関するコメントですが、「リトバス」や「せかせか」のように未練を抱える者達が思念体世界を形成して幻の学園生活を送ります。世界観の謎や設定を解き明かしていくなかで好感度蓄積が起こり主人公くんが少女たちを救済することで自分も救済され思念体世界から抜け出すという内容。「未練による思念体世界」と「少女救済」を組み合わせでパターンとしてはありがちですが、具体例であるヒロインがそれぞれ抱えるトラウマの方はきちんと掘り下げられており読める内容となっていました。強姦・間接的な殺人・死体遺棄など扱われます。あと原画の過去絵の雰囲気がとても好き。


 

風間ぼなんざ , 西ノ宮勇希 , 市川環(サブ) , @ピース(サブ)『時計仕掛けのレイライン −朝霧に散る花−』 (UNiSONSHIFT:Blossom) (2015-01-30)

レイラインシリーズの完結編。話の内容は主に物語の真相を語ることなので、主人公くんたちの活躍よりもシナリオの背景を追うことがメインとなります。それが、人間により作られた被造物に魂を持たせることの是非を問うこと。少女アンデルは、魂を持ったホムンクルス;セディを創造してしまいました。さらにアンデルは、セディをクラスに受け入れてもらうために旧友の認識を書き換えていきます。しかしそのしっぺ返しをくらい、認識を書き換えられたクラスメイトたちの魂は炎上してしまうのです。アンデルもまた自らの行いを悔いながら燃えていきます。残されたホムンクルス;セディは、ママンともいうべきアンデルの悔恨をはらすため、クラスメイトたちの魂を復活させるために努力します。20年の歳月を経て、現在生きている生徒たちの身体をのっとり魂を移し替えてしまう方法を編み出します。で、主人公くんたちはこれを止めるのです。そして主人公くんはアンデルの転生体であることが明らかになり、主人公くんの力で20年前の生徒たちをもとの時間軸に復活できることになりました。こうして問題は解決し、ハッピーエンドとなります。個人的には、クリア後に挿入される図書館のホムンクルスとのはなしが結構好きでした。


 

るーすぼーい『ぼくの一人戦争』(あかべぇそふとつぅ) (2015-02-27)

車輪や魔王で有名なライターさんの作品。異能バトルという装置を用いてこれでもかというくらい「人の絆」が重要であることを説教されます。主人公くんは自我を確立した確固たる青年なのですが、だからこそ「独りよがり」が目立ちすぐに人間関係を切ってしまいがちな設定です。攻略できるのは既に好感度マックスなメインヒロインのみであり、主人公くんもそのメインヒロインをとても大切にしているのですが、その大切さが「相手の気持ちを考えない自分勝手な思い込み」というのがミソ。メインヒロインの家庭は社会的下位層に属し下卑た習慣の低俗な生活を送っているのですが、それを主人公くんは豚として蔑視しており、家族から解放されるのがメインヒロインの幸せだと思っています。しかしメインヒロインの家族は彼らなりにメインヒロインを愛しており、メインヒロインもまた家族たちを愛していたのです。自分の大切な家族が唾棄すべきものとして主人公くんに理解してもらえない寂しさはとても良く描けていると思います。合理的で理性的な人間であるからこそ、不合理なものを許容できない主人公くんが、人間関係を見切って孤独に陥っていく展開はすてき。しかし結局の所「絆」マンセーな説教風味であり食傷気味になるかもしれません。そして車輪のようなカタルシスはありません。


 

保住圭 , 籐太 , 天宮りつ『サノバウィッチ』(ゆずソフト) (2015-02-27)

主人公くんが保有する「他人に負の感情を向けられると実際に苦痛を感じてしまう」異能を題材にして、「踏み込んだ人間関係を構築できない」人々たちの交流を描きます。ヒロイン達はみな他人と踏み込んだ関係を築けず人の絆を求めていました。特にメインヒロインの綾地さんは周囲からクール教で頼れると信仰を集めていましたが、それは周囲から一歩引いてしまったいたことの副産物。なんと綾地さんは発情の呪いにかかっていた痴女だったのです。いや「秘密の共有」を行うことで主人公くんとの関係性を深めるという手法をとる際に、発情を選んだのも英断だよなぁと思います。のっけから角オナで悦楽に浸る綾地さんの表情は一見の価値ありなので、体験版でやってみてください。そしてシナリオの構造にも工夫が見られており、綾地さんの呪いを解くために一緒に協力して事件を解決すると、最終的に綾地さんが消滅し過去改編するために現在の時間軸から消滅してしまうという展開。主人公くんは綾地さんがの存在を忘却してしまったとしても二人の日々で培った物事へ前向きになる姿勢は最後まで残り新たな人生に乗り出していくのだった!!というビターエンドも結構好きです。1周目攻略後にOP画面にリスタートが出現し、2周目では結ばれるのですが。これはフラグ管理しておいて1周目に綾地さんが消滅したからこそ他ヒロインが攻略できるような仕掛けにしておけばかなり面白い試みになったのではないですかね?あとサブヒロインが攻略できて和奏ちんの可愛さが堪能できます。さらにサブヒロインなのに専用の楽曲まで用意され文化祭バンドが実施されるという優遇っぷり。ドラクリオットのニコラもそうでしたが、サブヒロイン可愛いよなぁと。


 

御影 , 鏡遊 , 伝野てつ , 花見田ひかる『ソレヨリノ前奏詩』(minori) (2015-02-27)

ハイパー面倒くさい系少女をサブヒロインを踏み台にして救済するはなし。制作メーカーのお家芸シナリオ構造展開が炸裂します。「面倒くさい少女とフラグ構築」→「ワケアリなため関係解消」→「サブヒロインを攻略することで主人公くん成長」→「ハイパー面倒くさい少女を救済」(分かりやすいチャート方式)。この作品のプッシュポイントはやはりメインヒロインの永遠ちゃん。永遠ちゃんは主人公くんに愛憎を抱いており勝手に惚れて勝手に別離を宣告するのですが、それでも主人公くんに執着し、救いたがってもらってるという構ってちゃんっぷり。永遠ちゃん面倒くさいよ!!主人公くんが永遠ちゃんに振り回され精神崩壊していく様子がこの作品の売りとなっており、淡々とした低めの声で糾弾されるところはたまりません。ラスボスが理論武装して実力的にも最強でありながらも、心は寂しがっており助けて欲しがっていると書くと、シャーマンキングのプリンセス☆ハオ。さぁ、みんなで主人公くんを成長させてかまってちゃんの永遠を救いに行きましょう!!あと相変わらずここのメーカーは体験版まで確実に面白いし良いところで終わる。寧ろ体験版で振られるところまでが一番面白いかもしれない。永遠ちゃんの長い髪が切られショートになっている姿を見て戦慄しました(わりと)。


 

桐月『花の野に咲くうたかたの』(あっぷりけ) (2015-03-27)

「ジャコス行くの」で一世を風靡したライターさんの作品。霊体である桜花さんゲー。主人公くんは「人間の色が見えてしまう」という異能を背負っています。この異能の扱いのどんでん返しが一番の見どころ。主人公くんは「人間の色が見えてしまう」ことを忌避しており、それが故に色が見えない桜花さんに惹かれていくのですが・・・。「なんと実は主人公くんは失明しており、他人の認識領域の残滓を観測していたに過ぎなかったのである!!→他人の色が見えてしまうことを忌避しながらも他人がいなければ何も観ることは出来なかったのだ!!」というコペルニクス的転回が待っています。桜花さんグランドエンドはそれなりに読めるのですが、個別がちょっと残念な感じ。「コンチェルトノート」や「ジャコス」と同様、メーカーのお家芸「フラグチャート図解」が提示されるのですが、あんまり生かし切れていません。「コンチェルトノート」のようにフラグ管理規制して個別シナリオを全体に組み込んで演出の効果を増す展開にすれば結構面白かったかも?しかし幼馴染みBの汐音さんがほのぼのとしてとても可愛いので「主人公くんと汐音ならお弁当をもって公園に行くだけで楽しめるわよ」(幼馴染みA談)を眺めて楽しんでください。

 

 

砥石大樹 , にっし〜 , 御厨みくり , Haneneko『花咲ワークスプリング!』(SAGA PLANETS) (2015-03-27)

個人的キャラゲー部門2015優秀賞。雄弁ウザ子の痛ましさが私の学生時代過ぎて過去の黒歴史を刺激しすぎます。生きるのが辛い。そしてシナリオでは「攻略ヒロイン」=「主人公くんがトラウマを乗り越えるための装置」という構造が炸裂。ヒロインを攻略することで主人公くんが無意識に抱えるトラウマを浮き彫りにしていき、グランドエンドで自ら克服して立ち上がるという展開はありがちですがホイホイ釣られてしまいます。主人公くんの前に立ち塞がるのは死んでしまった偉大なる兄貴分の幻影。将来の理想像としていた兄貴分が死亡してしまったために、主人公くんの内部で兄貴分の神格化が起こり、乗り越えられない壁になってしまうのです。攻略したメインヒロインに発破をかけられ主人公くんが奮起する姿はEDの演出もあって印象深いです。このグランドエンドのED曲が好きで何度も聞いてしまうのですよね。内容をプレイしていなくてもグランドED曲だけでも聞く価値あり(ホントウ)。

 

保住圭 , 七央結日(安堂こたつ) , insider『ゆきこいめると』(FrontWing) (2015-03-27)

「冬ゲー」であることを全面的に押しだし強調しているものの実際はキャラゲー。現実で「冬」に出ていればもっと評価は高かったと思うのですが新学期始まる前に出されましてもで外を見ると櫻が咲いているんですが・・・。ななかまい原画企画ということもありヒロインたちの絵はとても可愛いです。しかしながら「冬」分が全然足りないように感じます。なんか「冬」を扱うよりもキャラとイチャラブするための舞台装置として「冬」や「雪国」を登場させているだけ感が半端無いです。「冬」イベントを散発的にキャラとこなしていくだけのお使いRPG感が漂います。五月雨式にイベントをなげてくるのではなく、もっと一つの「冬」イベントを掘り下げて描いて欲しかったかと思われます。あとメインヒロインのたるひさんの猫耳について物議。NHKの深夜ラジオ便で「たるひ」とは垂れる氷と書く方言の一種であると国立国語政策所の人がタイムリーに解説してくれたので、たるひさんの「猫耳」はシナリオの根幹に関わると思っていたのに!!「猫耳」について指摘する選択肢を選ぶとゲームオーバーになるだけで、まったく関係が無かったじゃないか!!!キャラ造詣とシナリオを組み合わせれば人物描写が深まったのでは?というおはなしでした。たるひさんはシステム設定の個別音声テストがとてもすてき。


 

御影 , 溝淵涼『クロノクロック』(Purple software) (2015-04-24)

体験版がクライマックスだぜ!!体験版までは文句なく面白いですが期待して買ったら個別ルートはご覧のありさま。チャラい御曹司の息子がタイムリープ出来る時計を手に入れて調子こいてたら男女関係で痛い目に会った結果真摯に人間関係に取り組む姿勢を見せるようになるというのが体験版までの流れ。ここまでは本当に良くできてるんですけどねー。個別シナリオはグランドエンドのための装置にしかすぎずルート内に夜伽描写が挿入されないという戦犯モノをやらかしてしまっています。また真琴シナリオは演出上ぶった切られてしまいフラグ構築後のヒロインとの交流描写がカット!!という状況です。グランドルートにおいて各個別シナリオで攻略されたヒロイン達が各√の記憶を保持したまま一同に介すという演出上仕方がないのですが。それでもあんまりですよと。グランドルートでは攻略済みの各ヒロインたちを切り捨てて、真ヒロインを救うために時空の神に挑みます。

 

 

よーいちろー , イマーム(サブ) , ヨイドレ・ドラゴン(サブ)『イブニクル』(ALICE SOFT(チャンピオンソフト)) (2015-04-24)

ひたすらエロを求めるRPGというのがキャッチコピーですが、シナリオもなかなか読める内容となっています。人間の欲望の解放がテーマで、自由主義的な資本主義の限界を皮肉る一方で、競争がない社会が停滞することも示唆しています。欲望を野放しにすると独占資本による寡占支配が起こり社会的流動性が失われ貧富の差が拡大し結局は崩壊していったりとか、だからといって利潤追求を否定して計画経済しようとしても競争が失われ社会の発展がなくなることが扱われていきます。そして最後は物語を構成する世界観そのものへの挑戦となり形而上学的な神へと対峙する展開になります。しかし!!「あのね商法」であり真のラスボス(物語世界の枠組みそのものを構築している創造神)へと向かうところで終わります。俺達の戦いはこれからだ!!イブニクル2をご期待ください・・・。RPGとしてはフィールドのマップ移動が非常に面白く世界を旅してる感があって大好き。お使いRPG的なイベントも多いのですが、シナリオの指示を無視して全く別の所へ行こうとしたり、序盤では倒せない敵を倒そうと努力したり、ひたすらレベル上げをしたりと自分勝手なプレイでかなり楽しませて貰いました。フィールドに出てくる恐竜さんたちの方がラスボスよりも強くて気を抜いたら速攻で全滅だぜ!レベル上げが楽しすぎてラスボスは殴ってるだけで数ターンで倒せてしまいがっかり・・・。フィールドにいる中ボスを低レベルで倒そうとした時の方が頭を使って良かったなぁと。


 

片岡とも,御導はるか(オマケパート、一部Hシーン),池波智香(佐々木雛姫)『すみれ』(ねこねこソフト) (2015-05-29)

今までメーカーが出した全作品を使って「少女救済の三重構造」をやってのけ歴史的意義を刻んだ!!と個人的に思ってる作品。少女救済とは「社会不適合者やトラウマのあるヒロインを主人公くんが救うことで、主人公くん自身も少女のために生きるという主体的意志を確立して救われる」という物語消費パターンの一種です。そして現実世界で多くのプレイヤーたちが少女救済モノの作品を読むことで救われてきました。これが現実と虚構における少女救済の二重構造です。さらに本作品『すみれ』ではこの少女救済の二重構造自体を作品に取り入れてしまったのです。つまりは『すみれ』の主人公くんが救われるためには、少女救済をするための強さを得る必要があり、その手段がエロゲをプレイすること=「少女救済により自己救済される主人公くん像を追体験すること」=「『みずいろ』をプレイして日和を救済すること」だったのです。こうして『みずいろ』をプレイして救われた『すみれ』の主人公くんをユーザーの皆さんがプレイすることで、現実世界の私たちが救われるという構造になります。ここに「少女救済の三重構造」が出現したのです!!!またヲタであることを生存理由としていた主人公くんが社会人生活を送るに当たり業界から徐々に離れていくにつれて自己を構成していた一部が失われていくようで悲哀を感じるところはかなりグッときます。このあたりは学生ユーザーには類推はできても実感はできない部分であり、本当に今までねこねこソフトについてきたおじさんに向けた内容となっているのだなぁとしんみりきました。勿論、学生ユーザーにも「おっさん悲哀」を味わって欲しい作品であります。


 

高嶋栄二 , 竜リン(折畑啓助) , 佐藤礼『なついろレシピ』(PULLTOP Air) (2015-05-29)

良作。面白い。田舎で食堂経営をするはなし。典型的な田舎賛美ではなく、閉鎖的な一面もきちんと描写されており、主人公くんとその擬似妹の柚が農村社会に融け込んでいく過程が丁寧に描かれているとても素晴らしい作品です。男気溢れる主人公くんと面倒くさい可愛い柚が擬似家族を形成していくところが見どころとなっています。中学生で祖母を亡くし天涯孤独になった柚は、結局自立することができずに生活苦に陥り、最後に縋ったのは異母兄(実は異母兄ですらないが・・・)の主人公くん。主人公くんは早々に血縁にないことを知るのですが、内定取り消しの憂き目にあい就活に失敗したことで、柚のために生きるのも一興と、柚の祖母が残した食堂に就職して再建に取り組んでいきます。主人公くんとの関係に一喜一憂する柚がとても可愛らしく表現されています。そして異母兄妹ですらないことを知った柚が主人公くんの優しさに気づき「今日も私は愚かです」とモノローグが入る描写は印象深い。柚だけでなく個人的にオススメなのが農家の三女こごみ。一緒にレタスを作りましょう。料理をテーマに田舎の生活を題材とした日常モノとしてとても楽しめた作品でした。


 

早瀬ゆう , モーリー(サブ) , 松倉慎二(サブ)『ピュア×コネクト』(SMEE) (2015-05-29)

レストランを併設した高級志向のパン専門店が舞台のキャラゲーバカゲー。主人公くんもヒロインたちもぶっ飛びすぎな思考回路を持ちます。スマホを使って好感度蓄積するのですが、そんなメールで好感度が上がっちゃうの?!!と突っ込みどころ満載。そしてシリアスになりかけると全力でギャグに走るテキスト。特に印象的なのが高校生バイトヒロインが成績不振で親がバイト先に乗り込んできてしまう場面でのこと。親の強制と束縛、それに対する反抗などが描かれる雰囲気になるかけるのだがそうはならず、またヒロインがかけ算すらできなくて学習障害LDと深刻になりかけてもそうはならず、ひたすらギャグに走っていく。キャラゲーバカゲーなので人を選ぶかとも思いますが、案外バイト描写がしっかりしており、仕事に取り組む姿勢に結構刺激を受けるのでフツーに読める内容になっています。労働意欲が低下してきた時に、ピュアコネキャラクターズとを自己投影して憑依合体するとフォオオオ働くぞォォォ!!!という気分になれること請け合い。産業プロレタリアは単なる貧民ではない。規律を持ち、勤勉で、新たな多様な仕事にすばやく対応できる能力を持った人々である。


 

高尾登山 , 希 , 有限会社codeX , 海原望『フェアリーテイル・レクイエム』(Liar Soft(ビジネスパートナー)) (2015-07-24)

西洋児童文学を題材にした作品。主人公くんたちは自我を喪失し自分を児童文学の登場人物と思い込んでしまう精神障害にかかっているという設定ですが・・・。実はそれは洗脳。主人公くんたちは記憶操作を受けながら、入院患者を娼婦として性的虐待を楽しむ病棟という名の娼館に閉じ込められていたのです。完全に自我を喪失しているアリスや、施設に立ち向かおうとするゲルダまで様々な童話が楽しめます。各個別√をクリアしていくと謎解きミステリーADVのように鍵となるアイテム?がスケッチブックに書き込まれていくという小道具が演出を高めています。最後はやはり童話的展開となり施設の陰謀を解き明かしてエンドとなります。個人的に好きなキャラクター造詣であったのがゲルダ。気丈に振る舞いながらも屈服されてしまう場面が見どころです。


 

漆原雪人(霧島行人)『紅い瞳に映るセカイ』(FAVORITE) (2015-07-24)

真紅先生ゲー第3弾。真紅先生を不幸にすることで物語を進めることはやめてあげてください・・・。いろとりどりシリーズで艱難辛苦を乗り越えてようやく幸せを掴んだ主人公くんでしたが、生活の中における日常性の不安に苛まされます。それを心配した真紅先生は攻略ヒロインズを集めるのですが、作中で年数が経過しているのだから立ち絵は使い回しではなくもう少し工夫できなかったのでしょうか・・・。相変わらず日常描写のテキストは微妙なのですがシリアス場面では本領発揮。なんと今度の真紅先生は記憶喪失となり、それを主人公くんが介護するという悲痛な展開に。真紅先生を痛めつける場面が続くのですが、なんとこれは主人公くんが仕事で描いた小説の話でした〜とかいうオチになります。良かったところは、抽象的な描写なのですが、主人公くんが死生観を子孫への継承による永続性に見出す描写はグッと来ました。


 

なかひろ『妹のセイイキ』(feng) (2015-08-28)



ピンヒロインものセイイキシリーズ第2弾。ロシアのセイイキとコンビニのセイイキが出るまで買い支えると決めました。吐いて捨てるほどイモウトが大量生産される昨今、どのようなイモウトで勝負してくるのでしょうか?『妹のセイイキ』で表現されるのは「イモウト的弁証法」です。イモウトと主人公くんの関係性をどのように位置づけるかで選択肢が問われます。妹としての存在を選ぶのか、恋人としての存在を選ぶのか、それとも第三の関係か・・・。イモウトというテーゼに対し、コイビトというアンチテーゼが示され、新たな次元でイモウト=コイビトという関係に止揚されるのです。本作ではマイカ(ロシア枠ヒロイン)の伏線も張られており、家庭の事情や突如として転校してしまう展開が匂わされています。そしてファミマのコンビニちゃん。今回も主人公くんを支えフラグ構築に踏み出すために背中を押してくれるのですが、立ち絵を!!立ち絵を!!!お願いします。ホント『コンビニのセイイキ』を出してください。お願いします。


 

SCA-自(すかぢ) , 浅生詠(鳥谷 真琴ルート担当)『サクラノ詩』(枕) (2015-10-23)

怪我により絵が描けなくなった主人公くんがヒロインたちとの交流を通して芸術に再び向き合うはなし。主人公の親友の死を契機に主人公くんとメインヒロインが芸術性の論争をするところが印象深いです。「因果交流」を芸術の本質とし相対的な美を認める主人公くんに対し「絶対的な美」の存在を提唱しそれを実現しようとするメインヒロインの構図が提示されます。才能を証明するため世界に羽ばたいていったヒロイン達がいつでも帰ってこれるように羽根休みのためのアジールための故郷を守り続ける主人公くんの孤独が浮き彫りにされているのが印象的です。6章の冒頭は社会人の悲哀がクローズアップされるので、結構えぐられるものがあります。場末の飲み屋で郷土に取り残された者達が交わす会話は共感せずにはいられません。そして一見すると侘びしい生活を送っているようでも、教員として新たな教え子達を指導し「因果交流」による芸術性を示し続けていくところは圧巻です。グランドルート以外でも、10年の歳月がかかっている分、表現技巧にもかなりの工夫が見られ、作品を際立たせています。

…ある日、生徒に尋ねられて、美術教師として答えたことがあります。作品から楽しさを感じることがありえるだろうか?作品から作者の息づかいを感じることはあるだろうか?私はあると答えました。何故ならば絵画というものは、詩のようなものだからです。もし君が作品を目の前にして“重厚”だと思ったり、“高尚”そうだと思ったら、その芸術は死んでいる。もし君がその作品を目の前にして作品から意欲を感じたとしたら、その作品を生き返らせたのは他ならぬ君だと。絵画というものは、ただそれだけでは何も出来ない存在なのだと思います。それを見る人によって絵画は初めて生きるのです。だから作品は完成品ではないのかもしれません。もしかしたら作品は見る人によって初めて完成される。いや更新されるのかもしれません……

 


新島夕 , 条智涼介 , 真崎ジーノ , 茶渡エイジ『恋×シンアイ彼女』(Us:track) (2015-10-30)

奇しくも「女のためのアジールとしての男」というテーマが『サクラノ詩』と、「読まれなかったラブレター」という装置が『見上げてごらん、夜空の星を』と被ってしまった作品。個別も悪くはないのですが、やはり星奏ゲー。音楽と文学という芸術に翻弄される男女を描いていきます。『サクラノ詩』でも主人公くんが「世界に羽ばたいた女のための大地」になるのですが、『恋×シンアイ彼女』でもそれがテーマになります。コイカケ主人公くんは、最終的にその境地に辿り着けるのですが、なかなか悟りを開けず、星奏に振り回され続ける苦悩が全面に押し出されます。この時の主人公くんの煩悶が物語の醍醐味といえるでしょう。男を振り回さずには生きていけない星奏を受け入れられるかどうかが問われます。星奏は幼少の頃に主人公くんの文学性に刺激を受け作曲の才を開化させるのですが、世界に羽ばたくために去っていきます。何も言わずに星奏に去られたことで精神崩壊する主人公くん。そして星奏は高校段階で早々にその才能を枯渇させてしまうと再び音楽性の刺激を求めて主人公くんのもとへと現れます。星奏は社会人編でもう一度そのことを繰り返し、主人公くんを3回精神崩壊させるのです。主人公くん、完全に悪い女に利用されていますよ!!それでも主人公くんは愛する星奏のことが忘れられず、ようやく星奏の本質に迫る決意をするのです。そこではじめて星奏が音楽性の回復のために主人公くんを利用しているという真相に辿り着きます。これを知った主人公くんはついに悟りを開き、バッチこい、幾たび裏切られようとオマエの心のふるさとだぜ!疲れたら心を癒すためにいつでも帰ってこい癒えたら飛び立ってもかまわないだって羽根休みの止まり木だものとエンドを迎えます。この終局部に私は結構感動したのですが、エピローグで星奏ちゃんあっさり帰って来ちゃって余韻も何もあったモノではなかった!!


 

茉森晶 , 神野マサキ(まちゃ吉)『こころリスタ!』 (Q-X) (2015-10-30)

この作品はコミュ障の主人公くんがネット世界に入り込み人工知能を持つキャラクターたちとの交流を通して人間関係を学ぶことがテーマ。メインヒロインのアルファから彼女を作ってクリスマスまでに真実の愛を見つけるように課題が課されます。コミュ障である主人公くんが人間関係にいろいろと思索を深めていくモノローグが共通√までのウリとなっており、これこそが本作の醍醐味ともいえるでしょう。ただ惜しむらくは個別が短く駆け足気味でありしかもご都合主義展開が多く感じるところです。しかし本作がコミュニケーションをテーマにしている深みは感じられ、特に紙芝居ゲーとしての都合のよいヒロイン像などではなく、自分とは異なる価値観を持つ人間を受け入れられるかを説いているところはポイントが高いです。マリポ先輩√や星歌シナリオで題材とされた「偶像崇拝としての自分以外の男性芸能人への思慕的な感情」を許容できるか否かという問題は、男性が気持ちよくヒロインを攻略することを目的とする紙芝居ゲーにおいてはなかなか見られないテーマであり、新鮮味がありました。


 

おぅんごぅる『キミのとなりで恋してる! 〜The respective happiness〜』(ALcotハニカム) (2015-11-27)

かつてこれだけ「主人公くんに選ばれず攻略されなかったヒロインの末路」をクローズアップして描ききった作品があっただろうか?トナコイFDはその他にもエロゲ作品ではタブー視されていたものを破るだけでなく巧みに題材に盛り込んでいます。主人公くんの親友を主人公くんばりに活躍させることで「強姦されて堕胎することになった少女」を描いていたり、新キャラを登場させたのにそのキャラが攻略できなかったり。しかしとにかく強調されるのがグランドエンドであり真ヒロインの恵が「主人公くんに選ばれなかったことを肯定して終わる」というエンドはすさまじいものがあります。主人公くんと結ばれるのではなく「結ばれなかったこその人生」を描ききっているのです。この「選ばれなかった人生の肯定」は幼馴染みBである莉奈にも適用されます。メインヒロインのなぎさと結ばれて自分は選ばれなかった莉奈。二人の幼馴染みを祝福しつつも、一瞬の寂しさ・物憂げさを垣間見せながらも、慈母のような表情を浮かべる莉奈ときたら!!!!莉奈は莉奈ルートがあってその並行世界では幸せになってるのに、正史において「わざわざ結ばれなかったイベントCGを用意させる」とかスゲーな!・・・いや攻略ヒロインたちもきちんとナイスなシナリオが用意されていてなぎさと聖水プレイしたり、莉奈をトロトロにさせたり、涼香先輩の早漏改善レッスンが行われたりします。


 

 

桑島由一 , 藤崎竜太 , 七央結日(安堂こたつ) , かづや『果つることなき未来ヨリ』(FrontWing) (2015-11-27)

異世界転生モノ。特攻で死亡したはずのゼロ戦パイロットがファンタジー世界に召喚され現代知識で内政チートして俺TUEEEします。ライターの能力差が激しくシナリオの質に差がありすぎなのが難点でしょう。さすがにユキカゼ率いるトカゲ王国ルートはいっせんをかくしており、ファンタジー世界大戦を熱く描ききっています。しかしながら片手落ちとなってしまっているのが「創造神との戦い」と「現実世界における特攻に対する意義付け」です。本作の世界観では「世界そのものの枠組みを構築した形而上学的な神」が存在しており、彼らが世界に介入したり傍観したりして生命を弄んでいるわけです。そういった創造神を登場させたのなら生命が束縛から解放されるための革命が用意されないのは物語としてどうなのでしょう?というはなし。今こそ歴史の道標から外れるときじゃあああ!!!って展開。そしてもう一つは主人公の特攻に関して。主人公は特攻できちんと死ぬために元の世界へ戻りたがっており、ユキカゼルートのみではあるのですが、現実に帰るエンドも選べます。しかしそこで終わり。現実世界には主人公が守ろうとする女「勝子」の存在がおり、そういったヒロインを登場させたのだから、主人公が死んだ後も「勝子」が主人公の死をどのように受け止めたのかは描いて欲しいよなぁと思いました。創造神及び勝子はどこへ行ってしまったのでしょう。一人でシナリオを書くのはとても大変でしょうが、頑張って欲しかったなぁと思います。


 

紺野アスタ、高嶋栄二『見上げてごらん、夜空の星を』(PULLTOP) (2015-12-18)

天体観測モノ。一番盛り上がるのは体験版の終わりの部分。幼少期に幼馴染みAに裏切られ天体観測がトラウマになっていた主人公くんが市内高校天文部連合の人々との交流を通して過去を克服するところが一番の見どころです。ライターが二人いるため大別すると幼馴染みルートとその他ルートに分かれるのですが、メインであろう幼馴染みルートが結構失速するように感じられてしまうのです。と、いうのも幼馴染みAとBとの三角関係が中心となり天体観測がどっかにいっちゃうのです。キャラ造詣では一番可愛い沙夜ちゃんが自罰でファビョって勝手に精神崩壊しちゃうのが一番の原因かと思われます。幼馴染みA(ひかり)のシナリオでは天体観測というよりも人々の絆がテーマでありネットを使って世界を変えろ!!という展開になります。幼馴染みB(沙夜)のシナリオでは自罰的な少女が内面的に追い詰められる様子が中心であり、もっと沙夜ちゃんと一緒に天体観測に取り組みたかった!!というのが本音です。意外に善戦したのが、体験版では全く触れられなかった残りのふたりルート。こちらはきちんと天体観測に絡めてシナリオが動いており「ヒロインと天体する」というテーマ性がきちんと守られているので結構個人的には好きです。ころなが主体的な意志を確立するのも、先輩の卒業前に何かを残したいという想いも、きちんと天体を中心に描かれていきます。