アマツツミ(体験版第1弾)の感想・レビュー

言霊遣いの神の系譜を継ぐ一族の少年が隠れ里から現代社会へ飛び出し外部とのコミュニケーションを求めるはなし。
分類としてはマレビト信仰モノで現代社会の常識から外れた設定にすることで既存の価値観を解体させる。
主人公くん自身が現代社会の価値基準を理解することなく恣意的に言霊を遣うという構造が随所に活かされイイ感じ。
攻略ヒロインたちも罪(ツミ)持ち少女であり、モラルや道徳を社会契約論するところがすっごく楽しい。
慣習というものは人間という種があくまでも社会を円滑にするためのものであってですね!!というノリ。
体験版第1弾は「偽妹」ルートで近親相姦でないとフラグ構築できない葛藤する妹像がプレイできる。
相変わらずこのメーカーは体験版まではすごく面白いなァと思う。前作は体験版がクライマックスだったが。

異能が設定倒れにならずシナリオの根幹として機能している所が良い

  • 隠れ里の若者は外に旅立つ運命なんだぜ
    • 主人公くんは言霊遣いの神の一族の末裔。言霊により他者を支配できてしまうため隠れ里にひっそりと暮らし、村内の交流も最低限のものとされていました。前近代的な暮らしを送りながらも、主人公くんにはヤリ放題の許婚もおり、それなりの生活を送ることはできていました。しかしそれに納得しているかというとそうではなく、閉鎖空間ゆえに治療を受けられず病死した家族のことがちらつき、外の世界を求めていました。その孤独感と外への興味は女への肉欲では埋まるものではなく、逆に気品がありけだかい許婚に自分を引きとどまらせるために媚びさせてしまいます。愛する女を歪めてしまった自責により貴種流離説話が発動!外の世界へ旅立つことになります。ここで主人公くんは1箇所にとどまれない「流浪の言霊」をかけられている伏線にも注目したいところ。


  • 既成の価値観を解体しませう
    • 主人公くんは一種の白紙状態であり現代社会の常識に染まっていません。そのため時折赤子のように自分の都合のいいように言霊を発動させ我を通す危うい存在となっています。主人公くんが恣意的に他者を支配する描写は何気ないものでしょうが、それなりにゾクゾクくる仕組みになっております。これが「既成の価値観の解体」の機能を担っており、主人公くんが現代社会の常識を身につけていくなかで、私たちの思考形態というものが如何に環境によって規定されているのかを見せつけてくるのです。このような主人公くんに歯止めをかける存在となっているのが、おそらくホスピスであることが匂わされている少女。このホスピス?少女だけは言霊をキャンセルできてしまうのですが、主人公くんの危うさに気づいて忠告をくれます。自然体で言霊を使用し他者に強制する主人公くんたちは、白紙状態でなければならなかったからこそ、隠れ里に住んでいたのだと。主人公くんは白紙状態に満足せず触れ合いを求めて外の世界にでたけれども、外の世界に染まってしまえば自然と悪意も発生してしまうのだと。この指摘をしたうえで、ホスピス?は主人公くんが恣意的に言霊を発動できないように頸木をするのでした。


  • 異性を感じさせないように疑似家族化したのに逆に家族にこそ異性を感じてしまったジレンマ
    • 外の世界へ飛び出した主人公くんは速攻熱中症で倒れるものの正ヒロインに拾われる流れに。正ヒロインの実家は喫茶店であり父親を亡くした母子家庭で男手要員として飼われることになります。しかし、ここでも良かれと思って言霊を発動させ一家の秘密を暴いてしまいます。なんとママンは正ヒロインが生まれる前に男の子を流産していたとのこと。主人公くんは天涯孤独で家族を求めており、かつ恩人に肉欲を抱いてはいけないと思ったたため、またもや異能を発動させ、疑似家族となるのでした。ところがどっこい!なんと正ヒロインは逆に「兄」という存在にこそ異性を感じる存在であったのです。母子家庭で孤独を感じていた正ヒロインは心を許せて頼りになる兄の存在だからがゆえに「ありのままの自分」というやつを開示することができ、フラグ構築を果たします。ホスピス?ヒロインに言霊解除しろよとツッコミを受けるも、家族を求めていることを吐露するところは結構好きです。そんななか、母親も病弱であり、自分が死んだ後のことを考えている姿を目の当たりにして、主人公くんは動揺し、体験版第1弾は収束に向かいます。同じ「近親相姦という罪」を題材にしていても単なるセカイ系エンドで終わった『罪の光ランデヴー』よりも『アマツツミ』の方がアイディアもレトリックも巧み。キャラクター表現「イモウト」モノは使い古された記号ではなく、「徹底的に結ばれない様を描いたとなコイFD」や「メタ的視点からイモウトシナリオを分析するこころリスタ」など、より表現が深まってきている気がします。