雑録

桃木至朗「世界史・日本史の統合と歴史的思考力」(『世界史のしおり 2016年度1学期号』帝国書院、2016年4月、pp.14-16)

概要

2017年度に公布予定の次期学習指導要領や新入試(いわゆる2020年問題)に際して教員に求められるものは何かを説く。現場の指導者には授業内容を自分で組み立てる力が求められる。単なる過去の集積ではなく、解釈・討論・判断するすべを身に付けさせる。アクティブラーニングだけでなくそれに加えて授業時間内に教員による講義、討論・発表などのフォローアップなどが不可欠。そのためには内容面の大づかみなチェックポイントを決めておくことと並んで、教材を通じて理解すべき考え方やスキルを一定数定式化することが必要。またアクティブラーニングの成果や歴史的思考力をはかる試験問題を作ることが重要である。

1.学習指導要領改訂と新型入試の導入

  • 高校地歴ではA科目が廃止され、2単位必修の総合科目(「歴史総合」、「地理総合」)ができ、B科目は選択科目として残る。
  • 教授法はアクティブラーニングを全面的に導入する。
  • 次期学習指導要領は2017年度公布、22年度新入生から実施となる。
  • 「高等学校基礎学力テスト」が2019年度、「大学入学希望者学力評価テスト」が2020年度から現行の学習指導要領のもとで実施される。

2.高校教育の現場に求められる発想

  • カリキュラムや入試の仕組みを変える必要性
    • 内容面の課題
      • 日本史・世界史が分立するしくみのもとでの日本一国史観・西洋中心史観の再生産と現代史学習の不足。
    • 学力面の課題
      • 論述とその基礎となる要約や抽象化を苦手とする
      • 長い問題文に含まれる指示や要求を読み取ることすら満足にできない(単純な一問一答型の問いしか受け付けない)大学受験生が多い。
  • 日本史との統合はなぜ必要か(世界史側から見た場合)
    • 日本を含む東アジア諸国の経済・社会・文化面での濃密な交流とその一方で起こっている政治や歴史をめぐる対立は、歴史と文化を背負っており、他科目(地理、政治・経済、現代社会)にまかせておくことはできないから。
    • アジア諸国の21世紀を生きる若者が等しく考えるべき以下の問いの答えは西洋偏重かつ日本を位置づけない従来の世界史教育からは自然には出てこない。
      • 朝貢とは何か。
      • 日中両国の前近代の国のかたちと社会のしくみはどう違ったか
      • なぜ現代東アジアでは神をめぐる争いより歴史をめぐる争いがよく起こるのか
      • 現代東アジア諸国でなぜ世界に例のない高度経済成長と少子高齢化が起こりえたのか
  • 「歴史総合」がスタートした時に教育現場に求められるもの
    • 教科書の多様化に備えよ→次期学習指導要領は内容の具体的指示よりも、教育方法に重点を置いたものになる
    • それぞれの科目全体について、頻出用語や事項を並べるのではない授業内容を、自分で組み立てる力が求められる。
    • 世界史の必要性が納得できるような内容を準備しておく

3.アクティブラーニングと思考力の評価

  • 歴史教育の役割
    • 単なる過去の事実の集積を覚えさせるだけでなく、それを解釈・討論・判断すべを身につけさせねばならない。
アクティブラーニング
  • アクティブラーニング=グループ学習ではない
    • 討論が迷走したり史実に反する認識が学習者の間に定着する事態が容易に生じる
      • 事前によく練られたテーマ設定、ワークシートが必要
      • 授業時間内に、教員による一定の講義、討論・発表のあとでのフォローアップなどが不可欠。
  • アクティブな学びと必要な知識・考え方を両立させるためには
    • 内容面としては、大づかみなチェックポイントを決めておく
    • スキル面としては、教材を通じて理解すべき考え方やスキル、つまりは「歴史の基本文法」のようなものを一定数定式化しておく
  • 「歴史の基本文法」
    • 歴史の約束事に関するもの
      • 「史料や教科書に書いてあることは全部本当とは限らない(→見分け方の練習問題に導く)」
      • 「教科書に出てくる用語・概念には史料上の(当時の)用語と研究者が作った用語がある」
    • 実際の歴史のパターンを示すもの
      • 「戦争には目的や軍事技術によって、人を多数殺す戦争とあまり殺さない戦争がある」
      • 「近代以前の宗教集団は祈りや儀礼を行うだけでなく学術や芸術、経済活動などを行う総合産業である」
アクティブラーニングや歴史的思考力をどうはかるか
  • 試験問題
    • 暗記か論述かなどという単純な二者択一ではない。
    • 教科独自の力と、教科をこえた抽象的思考能力や言語表現・討論などの訓練を対立的にとらえてはいけない。
      • 長文読解や概念理解を問う試験問題を「これは国語の問題だ」と非難するような態度は生産的ではない。
    • 面接とグループ討議
      • 単に知識の多い受験生が合格するというものにしない。
    • 小手先の対策が通用しない「大論文」
  • マークシートや短答式しかできない全国一律の試験ですら参考にすべき出題方法は少なくない
    • 史料・図表などを本格的に読まなければ答えられない問題
    • 東大・一橋大・阪大の論述問題で求められる知識・理解をマークシートにおきかえて問う問題
    • 早慶上智などの一部で行われている正解がいくつあるか分からない出題
  • 「連動型複数選択問題」
    • ある課題の発見とそれを解決するための方策やその際の障害について示した三つの文章群から、適切な組み合わせを選ばせる問い
      • それぞれの組み合わせは絶対の組み合わせだが、正解となる組み合わせは複数あり、どの組み合わせを選んでも正解とする
  • どのように解釈・立論を行うかという考え方を問う出題
    • 事実そのものを問うのではなく、ある理解や立論・意思決定の根拠となる(ならない)歴史事実や資料を問う出題
    • 同じ事象について複数の解釈を示してそれぞれの背景や根拠、対立する見解を批判するために必要な材料などを問う設問群