フローラル・フローラブ「Informal note(リキエル√グランドエンド)」の感想・レビュー

攻略ヒロインたちと並行世界で結んだ絆パワーを用いて焼死という天からの啓示に抗うはなし。
エンド後の主人公くんが回想しながら非公式の記録として書き残した述懐という形式を取る。
人間の悪性と善性(リキエル編)・夢と挫折と現実(利成編)・ヒロイン救済のための自己肯定(主人公編)が描かれる。
最終的に人間には善悪両面あり悪性ばかりが目立つけれども善性を信じようぜという人間肯定で終局する。
あと利成編では色々と考えさせられる煩悶ゲーとなるのでプレイヤの精神状態で受け取り方が変わるかと。
(結局自分の好きなものは捨てられずどんな形であっても自己を構成するのものとして残り続ける的な)
サガプラお家芸のグランドエンドは感動するが、個別√を統合するとパーツの一部になってしまう感も満載。

リキエル編


  • 魔女狩り
    • 魔女狩りが最盛期を迎えるのは16世紀〜17世紀にかけてです。ルネサンスがおこりヒューマニズムが尊重されると個人主義精神の萌芽が始まり、宗教改革が進展します。すると新旧両派はそれぞれ敵対する宗派を魔女として告発するようになります。こうして激しい宗教戦争の中で、男女問わず密告や噂で魔女として告発し、拷問により魔女との自白を強要して処刑したのです。「17世紀の危機」においては魔女狩りが流行することなります。このような状況の中で天から人間界に派遣されたのがリキエルだったのです。しかしリキエルは天使にも関わらず魔女として処刑されてしまいました。


  • 包摂と排除の原理
    • 以来、リキエルは特定の人間に取り憑き、人間の善性と悪性をそれぞれ白い羽根と黒い羽根として見えるようにしたのです。リキエルは主に聖職者に取り憑いたのですが、魔女狩りを行う聖職者は白い羽根を持つ人間をも魔女として大量に処刑せねばならず発狂していきます。教会上層部は既に魔女狩りは根拠もないことだと気付いていましたが、共同体を維持するためには「包摂と排除の原理」が必要だったため、18世紀まで魔女狩りを続けたのでした。この「魔女狩り」システムにおける「包摂と排除の原理」の現代バージョンが、学校空間や職場、地域共同体における異端者へのレッテル貼りとイジメだと作中では説かれています。



  • リキエルと利成との出会い
    • リキエルは宗教関係者に憑依しながら流浪の日々を過ごします。ある時、リキエルと人間の関係性を哀れに感じた老婆が自らの命を捧げることによって、リキエルを天上界に戻そうと試みます。しかし天上界に帰ることは、復命する際に神に対して人間の所業を伝えねばならないということ。人間に対して肩入れしすぎていたリキエルは躊躇することになり、天に帰ることを拒否し、たまたま洗礼を受けに来ていた赤ん坊の利成に取り憑くことになたのでした。

利成編


  • 音楽に賭けた人生
    • 利成は父親に厳しく育てられました。そのため落ち着いた真面目な少年として育ったのですが、その反動もあってか、自己表現の渇望に満ちていたのです。そのためギターを手にし音楽による自己表現の手段を獲得すると、ロックの道へと嵌まり込んでいきます。学生時代はキャーキャー言われていたロックバンドでしたが、成功せずに空中分解。利成はそれでもギターを捨てられず音楽の道へとしがみつくことになります。かつて惚れていたが既にもう人妻となり母となった幼馴染とその子(アーデルハイト)を音楽で支えたり、洗礼を受けた教会のチャリティーコンサート(愁・こはね)に出たり、路上ライブ(美鳩深春)を行ったりと、活動を重ねていきます。主人公くんは当初、利成は人生における挫折により婉曲的な自殺をして自分を助けたのではないかと邪推します(利成が30歳を過ぎても社会的には成功せず不遇であったため)。しかし利成にとって重要なことは社会的成功などではなくなっていました(ここらへんが大好き)。自分の歌を構成しているのはリキエルのおかげであることを悟った利成は、人間の善性に訴えるために歌い続けることになったのです。



  • 人間の善性
    • 利成と幼少期の主人公くんが出会ったのもその頃であり、世界を憎みダークサイドに堕ちていた主人公くんを、利成は歌によって浄化しようと試みます。しかしその狙いは失敗におわり、最終的に主人公くんはおひねりを窃盗してしまうのです。ここで夏乃√で紹介された過去編に繋がります。窃盗をめぐって口論になった夏乃と主人公くんを地震が襲い、部屋の蝋燭が倒れてマンション火災が発生。利成は自らの命と引き換えに主人公くんを救出し、人間としての善性を示して死んでいきます。しかし、利成が救ったと思い込んでいた主人公くんはもう既に死んでいたのです。利成により人間の善性を見せられたリキエルは主人公くんを助けてという夏乃の願いを聞き入れます。「夏乃の幸運ストックを使い果たすこと」と「自分が堕天すること」を条件に、主人公くんの命を救うのでした。ホントウは死んだはずである主人公くんが現世に留まるには地上の鎖が必要となります。そのためリキエルは利成の父親に主人公くんとの絆を結ばせ、地上の鎖としたのでした。

明日死ぬかもしれない今日を生きる


  • 並行世界と地上の鎖
    • 既に死んでいる主人公くんを現世に残すためには地上の鎖が必要であり、その役目を養父が担ってきました。しかし養父は癌におかされホスピスとなっており、余命幾ばくもありません。故に新しい地上の鎖が必要となり、その役割を新たに担うのが攻略ヒロインズだったのです。お互いにお互いを必要とし螺旋を描くことが地上の鎖の条件であり、天使の助けがいらなくなると、リキエルは消滅します。各ヒロインとのルート分岐は並行世界となり、各シナリオで育んだ地上の鎖は「天使の羽根のストラップ」としてループ世界で具現化するのです。しかしグランドルートではリキエルに惚れ、リキエルを助けたいが故に主人公くんはバキバキとフラグを折りまくっていきます。こうして地上の鎖としての天使の羽根ストラップを返すことで、主人公くんはリキエルと添い遂げようとするのです。しかし地上の鎖がなくなるということは、主人公くんの死の確定を留めているものがなくなるということ。つまりは焼死する運命に繋がるのです。それでも主人公くんはリキエルと結ばれて死を受け入れようと心中を図るのでした。しかし主人公くんを死なせたくないリキエルの画策により心中は失敗。



  • 運命に抗え
    • 主人公くんの心中を失敗させたのは、養父の生存への意志でした。なんと養父は自分が死ぬと宣告された時刻を生き抜いたのです。こうして地上の鎖が残存したため心中が失敗に終わったのです。主人公くんは養父の姿に心打たれ、最後まで抗うことを決意します。このような状況の中で今度はリキエルが主人公くんを生き延びさせようと画策します。それは自己犠牲により主人公くんの身代わりとして自分の命を捧げることでした。こうしてリキエルは焼死しようとするのですが、今度は主人公くんの生存への意志が発動します。
    • 主人公くんはこれまで独りよがりとなり、自分の力で全てを解決しようとしてきました。しかし頼れる仲間がいるではありませんか。愛情でなくとも友情も地上の鎖となるのです。燃え盛る火炎の中へリキエルを救うために飛び込んだ主人公くんを攻略ヒロインズが支援します。ヒロインズの呼びかけはご近所を動かし「哺乳類における集団パワー」を炸裂させます。こうして主人公くんを救いたいという願いが奇跡を起こし、救出劇は成功。リキエルは受肉し人間となったのでした。



  • 人間肯定ヒューマニズム
    • 最後はリキエルと共に墓参りをするよエンド。主人公くんは自分が利成および柾鷹の代替品であることに苦悩していましたが、最後は積極的に震災孤児であった自己の存在理由を肯定することができるようになりました。そのため自分が生き延びることができたのは、人間の善性のおかげであるとして、震災の慰霊碑に祈りを捧げにいきます。人間は悪性をも善性をも持つ生き物ですが、その善性を信じたいのだと、ヒューマニティーなエンドになります。