雑録

月影のシミュラクル-解放の羽-の感想・レビュー

蜘蛛神さま伝承☆人形屋敷殺人事件。
霊媒師の家系が先住の蜘蛛神に、居住するための領域を分与させていただくという内容である。
バッドエンドを繰り返しつつ伏線回収、フローチャートを駆使してグランドエンドに辿り着け!
攻略ヒロインズなどグランドエンドへのパーツに過ぎないのもお約束。
当初はコレちゃんと伝承編あるんだろーな?と訝しみましたが、ちゃんとあってよかった。
むしろ蜘蛛神さまの伝承編を深くして民俗学モードにしてくれほうが個人的には好きかも。

神と人を繋ぐ霊媒師と人形の物語

  • 蜘蛛神様と霊媒
    • 主人公くんは人形職人で名を馳せた名家の分家。ある時、伝統儀式に参加して欲しいと要請されて久方ぶりに本家へとやってきます。そこで巻き込まれることになるのが、蜘蛛神さま伝説でありました。主人公くんの祖先は神と人を繋ぐ霊媒師の家系であったのですが戦火にまみれて流浪し、蜘蛛神さまの住まう土地へと流れついてきました。その際、蜘蛛神さまに人が住まう領域を分け与えてくださるように交渉します。蜘蛛神さまには強い力がありましたが、その分孤独でもありました。寄ってきた人間に興味も抱くのもある意味必然なのですが、神と人ではその価値観にも違いがあります。ゆえに蜘蛛神さまは自分の魂を一時、人形に憑依させ、人間社会を監視することにしたのです。人が信仰を持ち、自己の領分を守り、蜘蛛神さまを敬う時代は共存が叶ってきました。しかし時代と共に信仰は失われ儀式は形骸化すると、蜘蛛神さまは自分の領域に侵入する人間を殺しだしたのです。と、蜘蛛神さまとの共存というグランドエンドを目指して主人公くんの戦いが始まったのでした。

  • 蜘蛛神さまとの関係にどう向き合うか
    • 主人公くんの家系は、もう既に本家から出て久しい関係でした。そのため主人公くんは蜘蛛神さま伝説のことを知らないところからスタートします。語り部としてプレイヤー目線でストーリーを進行させていく役割機能を持っているわけです。本作のキーポイントになるのがメインヒロインとそっくりな生き人形:紅さんであり、殆どがバッドエンドとなります。そしてバッドエンドを繰り返しながら伏線が回収されていき、周回ごとに選択肢が増えていくという手法を取っています。『コンチェルトノート』などに代表されるライターさんの御家芸が炸裂です。
    • そんなわけで紅さんは蜘蛛神さまが自分の魂の一部を憑依させた人間社会を監視するアイテムであることが判明します。神と人では価値観が違うため、紅さんを通して人間の感情を模倣するわけです。つまりは紅さん自身には価値観は存在せず、対峙した相手の感情を読み取って動くのだと。欲望、憎悪、嫉妬などを持つものが紅さんを見れば、紅さんはそのように対応してしまうのです。この紅さんの呪縛から逃れるため、各攻略ヒロインの√では逃避行を行ったり家そのものを爆破して蜘蛛神さまそのものを殺そうとしたり鎮守祭を開催したりするわけです。


  • 霊媒師の役割は、祈りを捧げて神と人とを繋ぐこと
    • ではグランドエンドではどうでしょう?感情の鏡となる紅さんに対しては、明るく前向きでユーモアもある好青年の主人公が最適というわけさ。主人公くんと紅さんが関係を深めるなかで、紅さん自身が自己の主体的意志を確立していきます。今まではただ感情を返すだけでありましたが、主人公くんのために動きたい!そんな意志が世界を変えます。主人公くんは霊媒師一族の血筋を唸らせて蜘蛛神様と対峙。人間の監視役である紅さんを媒介にして祈りを捧げます。かしこみかしこみもうす。こうして蜘蛛神様と意思疎通に成功させた主人公くんは、再び伝承を継承させていくことになります。生き人形であった紅さんは人間として受肉し、あらたな伝説の一ページが刻まれたのでした。