金子文夫編「戦後日本植民地研究史」(『岩波講座 近代日本と植民地4』岩波講座、1993年、pp.289-317)における満州に関する記述について

  • 本稿の趣旨
    • 満州に関する戦後の研究動向を1960年代まで、1970年代、1980年代以降の三期に区分して概観すること

1960年代までの満州研究

  • 全体的な特徴
    • めぼしい成果に乏しく、戦前の満鉄調査部を筆頭とする豊富な調査研究の流れはほぼ途絶状態
  • 1.満鉄関係
    • 安藤彦太郎編『満鉄』(御茶ノ水書房、一九六五年)
      • 満鉄という特殊会社の役割を中心に、日露戦争から一九三〇年代までの満州をめぐる日中関係史を多角的に検討した共同研究の成果。
      • 執筆陣の満鉄史研究グループは、機関誌『研究ノート日中問題』を発行。
  • 3.戦前の関係者によるもの
    • 石田興平『満州における植民地経済の史的展開』(ミネルヴァ書房、一九六四年)
      • 戦前・戦中に満州で研究に従事した著者が、その蓄積をもとに刊行
    • 満史会編『満州開発四〇年史』全三巻(一九六四、六五年)
      • 見落とせない資料的文献とのこと。

1970年代の満州研究

  • 全体的な特徴
    • 資料的環境の充実とともに、戦後の満州植民地研究の新段階を画する重要な研究が出現するに至る。
  • 1.きわめて実証密度の高い共同研究
    • 満州史研究会編『日本帝国主義下の満州』(御茶ノ水書房、一九七二年)
      • 満州国」成立前後における日本の満州経済支配の動向を、経済統制政策、貨幣・金融、移民・労働、土地商租権という四つの問題から分析。
    • 満州移民史研究会編『日本帝国主義下の満州移民』(龍溪書舎、一九七六年)
      • 満州国」期の農業移民の全体像を、政策、営農実態、反満抗日運動等の諸側面から総合的に検討。
  • 2.満州経営政策に関するもの
    • 北岡伸一日本陸軍と大陸政策』(東京大学出版会、一九七八年)
      • 日露戦後から第一次世界大戦末までの日本の大陸政策を、中国政策と満洲経営政策に区分し、かつ陸軍内部の動向に着目して詳細に検討した成果であり、満州経営政策については、鉄道・金融・経営期間の三つの問題が解明されている。
  • 3.政治史的研究
    • 臼井勝美『日本と中国』(原書房、一九七二年)
    • 江口圭一『日本帝国主義史論』(青木書店、一九七五年)
      • 満州事変に至る国内政治動向を多方面から考察
  • 4.批判点の残る文献
    • 満州国」期の総合的研究の分析が不十分。
      • 岡部牧夫の『満州国』(三省堂、一九七八年)は、傀儡国家形成の政治過程、産業開発五カ年計画、農業政策と移民の三つのテーマで簡明に論じているが、紙幅の制約から実証を尽くすには至っていない。
    • 中国側の政治経済動向の分析がなお不十分。
      • 中国側の視点に立った研究に関する著作は見られず。

1980年代以降の満州研究

  • 一九八〇年代を代表する文献
    • 浅田喬二・小林英夫編『日本帝国主義満州支配』(時潮社、一九八六年)
      • 満州国」期における軍事・政治支配と対抗、経済支配の諸側面(農業、鉱工業、鉄道、財政金融)を総合的に究明した共同研究の成果。戦後日本の「満州国」研究の到達水準を示す業績。
    • 西村成雄『中国近代東北地域史研究』(法律文化社、一九八四年)
      • 20世紀初頭から一九五〇年頃までの中国東北地域史像を提示する試み。植民地支配への対抗を中国近代史の文脈のなかに位置づけたもの。
  • 英語文献
    • Chong-Sik Lee,Revolutionany Struggle in Manchuria,University of California Press,Berkley,1983.
  • 中国での研究
    • 支配面からの研究
      • 姜念東他『偽満州国史』(吉林人民出版社、長春、一九八〇年)
      • 陳本善編『日本侵略中国東北史』(吉林大学出版社、長春、一九八九年)
    • 対抗面からの研究
    • 経済史の通史
      • 孔経緯『東北経済史』(四川人民出版社、成都、一九八六年)
  • 特定の主題の研究書
    • 鉄道問題
      • 井上勇一『東アジア鉄道国際関係史』(慶応通信、一九八九年)…日露戦争前後の国際関係のなかに位置付けた研究
      • 原田勝正『満鉄』(岩波書店、一九八一年)…満鉄を概観する研究
      • 金子文夫『近代日本における対満州投資の研究』(近藤出版社、一九九一年)…満鉄問題に金融問題を加えて満州事変前の対満洲投資の構図を示した研究
    • 産業開発
    • 都市計画
    • 農村経済
      • 中兼和津次『旧満州農村社会経済構造の分析』(アジア政経学会、一九八一年)…戦前の調査報告を再構成
    • 満州事変・日中戦争等の「満州国」の外枠にかかわる政治史的研究
      • 兪辛焞『満州事変期の中日外交史研究』(東方書店、一九八六年)
      • 田嶋信雄『ナチズム外交と「満州国」』(千倉書房、一九九二年)…「満州国」の対外関係をドイツ側からみる
    • 植民地化前史を通観
    • 第二次大戦後の満州をめぐる中ソ関係を扱う
  • 外国人が日本語で執筆した研究書
    • 易顕石『日本の大陸侵攻と中国東北』(六興出版、一九八九年)
      • 中国東北在住の研究者の立場から、明治初期から日本の大陸侵略政策は一貫していたと主張し、満州事変をその必然的帰結と捉える。
    • 李盛煥『近代東アジアの政治力学』(錦正社、一九九一年)
      • 韓国の若い世代として、日中関係が錯綜した間島問題を、支配と抵抗の固定的枠組みでなく、複合的な国家間・民族相互間のダイナミズムとして描き出す。
    • キムチョンミ『中国東北部における抗日挑戦・中国民衆史序説』(現代企画室、一九九二年)
  • 外国における活発な研究機関
    • 東北地区中日関係史研究会
    • 東北淪陥十四年史編纂室