国史概説002 時代区分論及び歴史に対する「問い」の話

  • 前回 史学史を振り返る 時代区分論もちょっと入った

【2】時代区分論について

  • 現在の認識では・・・「進歩していく」ことは考え難い
  • マルクス史観を日本に当てはめようとしたとき・・・
    • 日本における武士の時代 困ったことにいくつかの画期がある
    • 鎌倉幕府→地頭御家人制。封建ですからそれぞれの土地を分け与えて忠誠を強いる(御恩と奉公)。主従関係がはっきりみえるのが鎌倉時代
    • その後研究が進んで、平氏政権や貴族社会でも主従制は認められる。院政期から「中世」となっているが、やっかいなことに従者は独りの主君に仕えるのではない。
    • ショホウケンザン(諸方兼参) 絶対的に一人の主君に忠誠を誓うというのはない。ヨーロッパ史でも契約的な関係だが、それ以上に日本はルーズな関係が築かれる。
  • 荘園制の成立
    • 職の発生:本家・領家・預所下司・ツクリテ・荘園(土地)
  • 日本史における中世とはどこからなんだ!?
    • 鎌倉時代 地頭に土地が与えられる
    • 江戸時代 藩に土地が与えられる
  • 安良城盛昭氏の主張
    • 太閤検地 中間搾取をする勢力が排除される 1対1の関係になる 中間搾取いなくなる
  • 「職」に関する説明
    • 仕事を担当する 仕事すると実入りがある 当時の人達からすると「徳分」
    • 中世 土地の境目の争論 境目争論 川の水利・山の芝などの争論
    • 裁判を有利に進めるためには? 名義上の有力者を連れてくる → 面をかえる
    • ただで名義貸しをするわけでなく・・・見返りを求めてくる → 「寄進」 
    • 利害関係が重層的になってくる→ これを「職の体系」と呼ぶ。
  • 「寄進」だけでなく「立荘」
    • 上の人達は寄進を待っているだけでなく・・・上から囲い込む 
    • 自分で荘園を作る ショウデン?ではなく 領域型 
    • 下のベクトルが寄進なら 上からのベクトルは立荘 荘園がでかくなってくる
    • 上下の関係は複雑だが重層的なってくる 中世 11世紀
  • 職の体系は動く 
    • 例:下地中分(土地をわけちゃおう)・地頭請(経営まかせるから上がりをくれ)
    • 室町時代になると守護請 守護の被官 家臣クラスが引き受ける 土地誰のものかわからない 権利の錯綜
    • 中間搾取をしていく状況を「作合」という
  • 安良城盛昭先生はこの中間搾取をすべて取っ払ったことを強調 
    • 領主が検地をして土地を農民に認める つまりは作合の否定 それが太閤検地なんだ!!
    • 安良城先生にいわせると 領主と農民の1対1の関係になってこそ、封建制の始まり
  • 安良城先生は「中世までは、封建制ではない」とのたまうらしい
    • 封建制は近世から 
    • 近年の研究では太閤検地では作合は否定されきってない
    • 農民のうえにナウケニンが残ることもある 作合が隅々まで否定されてない 太閤検地で、きっちゃっていいのか!?
  • 日本における封建制があったというマルクスの理解は間違っているといって、封建制はなかったと唱える歴史学者
    • 保立道久『歴史学を見つめ直す』板倉書房
    • 中世に封建制があったことはない! 保立先生は安良城先生にシンパシーを感じている。
  • 封建制の概念 抽象的な概念というのは・・・・
    • ある日 どっかから抽出してくる概念 日本に自動的に当てはまるかというとそうとは考えられない
  • 「概念」 これを鍛え直す より良い概念を作る これが人文社会系!
    • どういう表現をすれば中世社会を把握すればいいのか?
    • 何をすべきかというと 抽象をやり直す 具体をバラバラにして 具体の再定義を行う 「具象の再編集」「再構築」
  • 自分で納得をいくまで考えて この概念はこういう定義をした方がよい!というのを作り出す
    • 検地 太閤検地 各地域ごとにやり方が違う! 太閤検地という研究概念をバラバラにして見て現場に降り立ってみる だれがどのようにどういう目的でやっているのか
    • 太閤検地というまとめ方はよろしくない 大づかみでは良いかもしれないが 領主と農民が1対1になったことを説明するときに太閤検地の概念を使うのはあまりに乱暴
      • 小中学生が時代の流れを認識するのには役立つ程度
    • →【参考文献】平井上総『兵農分離はあったのか』(平凡社、2017)
  • のんべんだらりと語るわけにはいかないので、中世は院政期〜検地が行われる織豊期と大体区分する 
    • 【疑問】「中世」を「中世」として概念把握する際、封建的主従関係という概念しかないのか ? 
    • 中世「概念」 → 「荘園制」が存在した時代
    • 時代区分を考えることで社会の構造を考えるきっかけとなる
  • 「近世」概念 「early modern」 近代の先駆け
    • 近世は日本が発祥 鎌倉時代と江戸時代は違うんだ!という概念が近代の日本人にあった
    • 次第に近世という用語が定着してくる
    • 近世を Medievalにひきつけるか Modernにひきつけるか
    • 近世史の人は中世を見てくれない 近世研究は農村調査や海外との関係から始まるので近代に引きつけて理解する
  • 近世って中世をかなり引き摺ってるんじゃないですか?という問題提起 ⇒ 複合国家論 複合政体論 (近世ヨーロッパ)
    • 今までは 今の世界を理解するために モダンが大事だった!
    • 近世って思たほど集権的じゃないよね。分権的側面もあるよね。何かヨーロッパ史幕藩体制と似てない? 分権的だが、それなりの凝縮度はある
  • より重要なのは、見かけの問題だけでなく、15〜16世紀 のearly modern が世界史上の「近世」世界が繋がる
    • 価格が東と西で連動してくる 中国近世史の岸本美緒先生はリズムがそろってくる!という
    • 岸本先生は積極的に「近世」と言っている。リズム! 一体化 繋がってる リズムの連動
    • それが何によってもたらされるか 「銀」がリズムの連動を支えている。
  • 今まではドメスティックな議論 現在はグローバルヒストリー
    • グローバルヒストリー的には15世紀以前をどう名付けていくのか とても難しい
  • 大航海時代に近世が始まり一体化するという概念は中世史は悔しい
    • グローバルになったのはいつからなのか論争 → モンゴル帝国論者 ユーラシア世界の一体化 
    • 世界史的にも新しい段階に入っている
    • 日本国内だけではない
  • 日本社会の近世化 アジア史・世界史のなかで考える必要あり
  • 大阪大学桃木史観による古代と中世の区分
    • 古代…帝国・古典創造 
      • 帝国とは?について→山室信一編『帝国の研究』京都大学のグループ 帝国という概念のつながり 専制的な皇帝がいて異民族を包括的に支配する
    • 中世…分権的・古典学習 ex.和漢朗詠集に規定される

【3】歴史をなぜ考え直すのか?

  • 歴史とは常に書き換えられる 
    • 固定的で絶対的なものは存在しない 教科書というのは文科省の検定を突破しただけの一過性の歴史記述 次の検定の時には内容が書き換わる
  • 通史とか概説書とかも毎年書き換えられる 歴史は常に考え直さなければならない 
    • なんで?→歴史学というものは、<わたし>から出発して<いま><ここ>を知りたい
    • 我々は 今を知りたくて歴史学ぶ なんでこうなったのかを知り 膿を出す 過ちを繰り返さない
  • 勘合について
    • 【台詞】「我々を縛る身近なものにパスポートがある 我々を管理する どういう仕組みなんだ?(戸籍も国籍もそう)そういうのを考える際に歴史的な役割を知るために 勘合が重要だと思ってるんですよ」
    • 勘合が重要 勘合は面白い 日本の国家が発行したものではない 中国の明が発行したもの
  • 脳内で行われているのは、遡って考える 究極の問いは「なぜ」どうしてこうなった 【因果関係】
  • 結果から原因を探る
    • なんで昼ご飯これたべたんだろう? 因果の結論はひとつに絞れないことが多い たった一つの理由ではない 因果は一つに絞れない 様々な要因が絡み合って 結果論に
    • だからといって原因追及を放棄するわけにはいかない その中でもっとも根幹的なものを探す → 「最善の仮説」アブダクション
  • 演繹と帰納
    • 法則のA、原因のp、結果のr
      • 演繹:法則と原因が分かってて結果を求める。A、P → r
      • 帰納:因果関係から法則を導く。 p,r → A
      • アブダクションはまさに歴史 結果が分かってて法則考えて原因に迫る r,A→p
  • 人文社会学ではいづれも正しいことを切り取れない
    • 真理でないものを根拠に結論を導こうとする
      • 結論【戦争がおこった】、法則【宣戦布告した】 →では、宣戦の原因とは??
  • 人文社会科学では100%正しいことはない 
    • 誰が見てもそうだよね確からしいと認識する
  • アブダクション」で原因を追究している
    • アブダクションの妥当性 → 世の中に問うしかない 仲間にレヴューしてもらうしかない だから学会というものがある
    • 目にさらされることでアブダクションがどれくらい正しいのか
    • 因果関係というのは一つに絞れないのは間違いないがその中でも根底的な原因を探っていくしかないが、そのためにはピュアレビュー。
  • 「問題意識をぶつける」ことが大事。 <わたし>から出発し<いま><ここ>を知りたい
    • 「問題意識」!!!
  • 問題意識を問う 
    • 問う事を問う 自分の問題意識に自覚的であれ!!!
    • ベクトル どれだけ鋭い問題意識を持つか
  • 【読め】小坂井敏晶『答えのない世界を生きる』祥伝社
    • →劇薬みたいなもの 研究とはどういうものかを激しく書いたもの 真理を追究し学問を究めるとは
  • 歴史を考え直すのはなぜ!? 
    • 問題をぶつける いい問題をぶつければ いい答えが返ってくる 
      • 例:着物を見てステキというだけではなだめ。どういうデザインでありなぜステキなのか

質問コーナー

【質問】
先生は問題意識が重要であると強調しておりましたが、先生がたいへんなコダワリを持つ「勘合」について、どのような問題意識をお持ちなのですか?

【お答え】
勘合とはチェック機能。では、何をチェックするのか。勘合は日本だけではなく、シャムにもタイにも勘合を与えていた。
なぜ勘合を研究しているかというと、「国家に身柄を拘束されたくない!!」という問題意識がある。
勘合ってのは何のためにあるかというと、倭寇と区別するためではない。シャムに倭寇とかいないし。
勘合を「倭寇と区別するため」というのは、日本史を理解するため、一面的なすごく楽ちんな説明だから。
じゃあ、シャムはチャンパースマトラは?
我々は勘合を倭寇と区別するためという認識を捏造しているのだ!!
そういう捏造された認識というものを問いたい!!!!!

講義で読むように指導された参考文献まとめ(紹介された順)