1 陸海軍の情報分析
分析とはどのようなプロセスか(pp.110-114)
- 情報分析の重要性
- 分析・評価は、収集したインフォメーション(生情報やデータ)の断片をつなぎ合わせてインテリジェンスを生み出していく過程。
- 収集したインフォメーションを生かすも殺すも情報分析しだい
- 査覈資料<サカク シリョウ>
- 当時の日本軍における情報分析部門は、不十分ながらも「インテリジェンスを生産」する意識を有しており、価値判断を加えた情報を査覈資料と称した。
- 日本軍の情報分析の実態
- 情報分析業務担当 → 参謀本部第二部、海軍軍令部第三部
- 総合分析部門の欠如 → それぞれの情報部が情報を収集、分析し、他のセクション、主に作戦部などに報告する。
- 情報収集能力は高い → 極東シベリア、アジア地域に限定した場合、相当なもの。通信情報ならさらに広い範囲。
- 中央での分析
- 陸軍
- 情報の分析、判断の作業が、パズルを組み立てていくというようなものであることを理解しており、その組み立てのために客観的な基準を持とうとしていた。
- 海軍
- 海軍の情勢判断も客観的な情報収集と分析によるもの
- 情報部は確固とした情報分析・評価をもっているとの自負があった
- 日本海軍のインテリジェンスは四段階。1.収集、2.評価、3.ディステレーション、4.判定。
- 軍令部は情勢分析により、1944年8月に詳細な「米軍上陸作戦要覧」を作成し、米軍の対日侵攻作戦を適切に予測している。
- 陸軍
軍上層部の無関心(pp.115-119)
- 問題点
- 優れた情報分析者、もしくは民間専門家の慢性的な不足
- 軍上層部の認識
- 情報はインテリジェンスではなくインフォメーション。情報勤務は簡単であり人数を割く必要はない。
- 情報勤務は一時的なポストという認識
- 陸海軍は情報分析のための外部有識者の利用もしない
- 日本でも英米の知識階層が軍の為に働いていたことは知られていたが、それに影響を受けることはなかった。
- 逆に日本は学徒出陣で知識階層の無駄遣いをしている。
- 日本でも英米の知識階層が軍の為に働いていたことは知られていたが、それに影響を受けることはなかった。
- 悪循環
- 絶対的なスタッフ不足→場当たり的な人事により人材が育たない→本格的な情報分析の域にまでは達しない→情報部の地位が下がる→スタッフの質は低下
- インテリジェンスの崩壊
- 作戦部は情報部のインテリジェンスを信用しなくなり、現場から直接インフォメーションを拾い上げることなった。
- 正確なインテリジェンスによって情勢判断を行い、国策を決定していく、という構図は成り立たなくなる。
- 中央情報部のような機関として内閣情報部があったが、機能したのは情報部長が横溝光暉の時だけで、結局は「情報局」となり単なる宣伝機関となる。
2 陸海軍における情報部の地位
「作戦重視、情報軽視」の弊害(pp.119-124)
- 情報部に優秀な人材が集まらなくなった原因
- 情報部の人間は作戦部に劣るという根強い意識。
- 軍隊の指揮命令系統とインテリジェンスの構造的欠陥
- インテリジェンスで重要なのは情報共有だが、軍隊では組織間関係が上下関係になりがちなので、「作戦」と「情報」が水平的に連携し、情報を共有できる余地が少ない。
- アメリカも情報部が機能せず(このことから戦後にCIA設置)。イギリスは横断的な協力関係を実現するために膨大な労力が注ぎ込まれ、円滑な情報共有が実現。日本は「作戦重視、情報軽視」なので極めて困難。
- 1940年代以降 作戦部優位の状況が顕著となる
- 負のスパイラル
- 作戦部から情報要求が発せられない → どのような情報を提供すべきか把握できない → 作戦部からみれば的外れな情報 → その結果、作戦部は情報部をますます信用しなくなる
- 自己の正当化のための情報利用
- 作戦部が現場から直接情報を吸い上げ扱い始める → 戦略や作戦目的のために情報を取捨選択してしまう → 最初に作戦ありきで、情報は目的を正当化するために使用
たび重なる判断ミス(pp.124-127)
- 陸軍の情報部門
- 判断ミス
- 三国同盟調印 → 「バスに乗り遅れるな」の合言葉の元、当時の雰囲気だけで駛走(シソウ)してしまった。
- 例外はソ連情報
- 作戦部が情報部を軽視した要因
- 作戦部に情報部の仕事が大したことないと映ってしまったこと
- 情報業務は無駄な情報の断片を集める作業であり、その中から有効なインテリジェンスを抽出する作業だが、作戦部はこの分野の仕事を嫌う。
- 作戦部は作戦に合致しそうな生情報を入手して、都合の良い情報判断を行う。
役割分担の欠如(pp.127-132)
- 北部仏印進駐
- 一見すると、事前の丹念な情報収集と分析の賜物であったようであるが、実際にインテリジェンスを行っていたのは情報部ではなく、作戦担当である海軍軍令部第一部。
- 本来ならば作戦部は戦略目標を決定した時点で以後は情報サイドに任せるべきだったが、インテリジェンス・サイクルの全過程を行った。情報部はインフォメーションの提出することしかなかった。
3 情報部の役割
深刻なセクショナリズム(pp.135-137)
- 情報部に求められたのはインフォメーションのみ
- 情報部の本来の任務は、「内外諜報の収集及び審査」であったが「審査」の領域が作戦部に移っていた。
- 情報部こそが情報を集めて分析し、「インフォメーション」を「インテリジェンス」に加工しなければならないのだが、ここではそのような役割をまったく期待されていなかった
- 陸海軍における情報部は冷遇されていた。
「インテリジェンス」と「インフォメーション」の混同(pp.137-140)
- 情報報告が意味を成すには
- 政策決定者がインフォメーションを報告されても、自分の専門外や意図していなかった情報が報告される場合は意味をなさない。
- 機微な情報が有効に機能するためには、適切なタイミングで適切な部局に報告されなければならない
- 作戦部と情報部の対立の根源
- 「情報」という概念をどのように解釈するか
- 作戦部の「情報」→「インフォメーション」。生情報のこと
- 情報部の「情報」→「インテリジェンス」。分析、加工された後の情報。
- 「情報」という概念をどのように解釈するか
- 構造的欠陥
- インテリジェンスが機能するためには、組織間の水平的協力関係と情報の共有が不可欠。だがこの問題を解決するのは困難。
- 組織が機能せず個人作業
- 情報任務は地味で昇進に繋がらない。頻繁な人事異動によって専門家が育たない。→情報業務のインセンティブは上がらず、個人作業へ。
- 陸海軍が、情報を一時的なポストとして扱っていたことが、根源的な要因。