- 本稿の趣旨
- 台湾、朝鮮、満洲の順で現在の研究を明らかにし、成果をまとめ、今後の課題を提示すること。
先行研究整理
満洲観光についての研究
- (2)荒山正彦「戦跡とノスタルジアのあいだに:「旅順」観光をめぐって」(『人文論究』50(4)、2001、pp.1-16)
- (3)荒山正彦「満洲観光の軌跡:20世紀前半における中国のまなざし」(阪倉篤秀編『さまざまな角度からの中国論』晃洋書房、2003、pp.167-182)
- 文献所在
- 対象
- 要点
- 1930年代以降、旅順、大連、奉天、新京、哈爾濱の各地で運航されていた「遊覧・観光バス」の概要についてまとめる。
満洲への訪問者としての「学生/生徒」に関する研究
- (6)内田忠賢「東京女高師の地理巡検:1939年の満州旅行(1)」(『お茶の水地理』42、2001、pp.31-36)
- (7)内田忠賢「東京女高師の地理巡検:1939年の満州旅行(2)」(『お茶の水地理』43、2002、pp.25-32)
- 文献所在
- 対象
- 要点
- (8)長志珠絵「『満洲』ツーリズムと学校・帝国空間・戦場:女子高等師範学校の「大陸旅行」記録を中心に」(駒込武・橋本信也編『帝国と学校』昭和堂、2007、pp.337-377)
- 文献所在
- 対象
- 東京女子高等師範学校及び同じく1939年に満洲各地を訪れた奈良女子高等師範学校の在校生たちによる団体旅行。両校の旅行のありようや諸記録を比較検討。
- 要点
- 1939年という日中戦時下において実施された満洲旅行の位置づけ
- (9)長志珠絵「「過去」を消費する:日中戦時下の「満支」学校ツーリズム」(『思想』1042、2011、pp.94-120)
- 文献所在
- 対象
- 東京女子高等師範学校、奈良女子高等師範学校、山口高等商業学校、東京商科大学、長崎高等商業学校、福島高等商業学校の満洲旅行への取り組み
- 要点
- 上記2007年の試みをより精緻化しようとしている。
観光に関わるメディアについての研究
観光インフラ
おわりに
今後の発展可能性
- 第一の視点 研究領域の新規性
- 研究のほとんどが2000年代に入ってから公表されたもの
- 日本統治地域における観光現象というテーマが2000年代に入るまで等閑視されていた
- 論者の数が不十分であり分析視点の固定化に繋がる。
- より多くの論者が対象に集えば、多様な知見が積み重ねられ、日本による植民地統治と観光の関係がより大局的かつ重層的に明らかにされる。
- 第二の視点 論点の特徴
- 論点の分類
- 日本が植民地を旅行目的地としてどのように眼差していたか
- どのような旅行が実際に行われていたか
- 現地の社会、文化、現地政府の政策などの考察
- これまでの研究がどのような傾向を持つか
- 鉄道やバスといった観光と深く関わる交通機関についての知見
- 交通業者が作成、発行する観光関連メディアに依拠した考察
- 観光とは位相を異にする教育制度が実現させた旅行に関する分析
- 批判点
- 内地と植民地を結ぶ船舶あるいは航空への言及があまり多く見られない
- 観光の成立要件という観点からは、宿泊業や旅行斡旋業についての考察が不足
- 観光関連メディアについて、交通業者以外が作成したメディアや紙媒体以外のメディアへの着目可能性
- 団体旅行に関し、修学旅行や新聞社による取り組み以外での、その他の組織によって主催されたであろう団体旅行の存在
- 論点の分類
- 第三の視点 観光の主体について
- 分類
- 現在の研究対象は「内地の日本人」
- 植民地居住の被統治者も観光に参加
- 日本の植民地を訪れたのは内地の日本人だけではない
- 内地を目的地とする植民地住民による観光
- 鮮満/満韓といった観光のありようは、植民地間の移動も前提
- 批判点
- 「日本植民地における観光という現象は、内地から植民地へという人流のみならず、植民地から内地へ、植民地から植民地へ、西洋から植民地へ、そして植民地内における人流というように、様々な主体による多方向への人間の移動の上に成り立っていたことが本稿での整理を通じて明確になった」が、「考察は手薄」。
- 観光主体への接近手法が文字史料にもとづく分析が主流をしめているので、観光経験者に対する聞き取り調査などが必要。
- 分類
植民統治と観光
- 日本による植民地統治のありようを観光という視点から明らかにしていく
- 植民地を舞台とした観光にもとづく人流は、日本による統治構造を形成する要素のひとつ。
- ※従来の植民地研究では、日本による統治を支えた人流として労働移民の存在が中心的な課題として取り上げられている。
- 植民地における観光の展開は、支配地域の社会に一定の影響を与え続けた。
- 今後、観光という現象を切り口として日本による植民地統治の全体像に迫っていくためには、台湾、朝鮮、満洲以外の日本統治地域も視野にいれていく必要がある
- 個別地域に関する考察のみで完結しない視座の設定が求められる
- (16)荒山正彦「忘れられた植民地ツーリズムの軌跡」(『時計台』81、2011、pp.16-22) (→文献所在関西学院大学リポジトリ)
- (17)高媛「「二つの近代」の痕跡:1930年代における「国際観光」の展開を中心に」(吉見俊哉編『一九三〇年代のメディアと身体』青弓社、2002、pp.127-164)(→文献所在CiNii 図書 - 一九三〇年代のメディアと身体)
- 植民地を舞台とした観光にもとづく人流は、日本による統治構造を形成する要素のひとつ。
- 日本の統治地域において展開された観光の諸相を取り上げるその他の研究例
- (18)『彷書月刊』2003年8月号(CiNii 雑誌 - 彷書月刊 : 古書を巡る情報誌) が「満洲のツーリズム」という特集を組んでいる。