君と目覚める幾つかの方法「枚方初音シナリオ」の感想・レビュー

純白な少女とアンドロイドを対比させ「感情を育む」ことを通して「家族像」を描くはなし。
タブラサラサな少女が少しずつ感情を学んでいく姿を愛でつつ自己肯定感を得させましょう。
いびつな家族を持つが故に、ゆがんだ家族像を持つ初音と主人公くんが、二人で家族をつくるんだ!
フラグ構築後はギャグゲー風味なり、どのように閨房の営みをするかで御婦人方の世間話タイムとなる。
中の人のインパクトもあってかギャグ展開で場を引っ掻き回すサブキャラの由里花が一種の原動力となっている。

そして僕らは家族になる!


  • 自我の芽生えと感情の育成
    • 枚方初音は、その家庭環境のせいで自我を抑圧されて生きてきました。両親に従属することのみ求められ、自分の意志を持つことなどできなかったのです。感情の起伏も少なく、低い状態で停滞していました。しかし、抑圧から解放された初音は今度は自立しなければなりません。その際、試練となるのが主人公くんとの関係性。主人公くんに保護されたからこそ、初音の「イマ」があるわけですが、このまま主人公くんに寄りかかっているのは「依存」に過ぎないのではないかしらん?と思い悩みます。そんな時、オカマ系上司の三鷹弥彦先輩に相談すると人生経験に基づくアドバイスが貰えます。まず初音ちんに必要なものは自己肯定感だと。そして、恋は自分のため、愛は相手の為だと。こうして初音は主人公くんのお役に立ちたいという意識を鮮明にし、芽生えた自我を少しずつ育てながら感情を得ていくのです。何も知らなかった初音が、感情を得ていく姿は、本作のコンセプトとなっているアンドロイド(作中の表現ではオートマタ)との対比となっているのが注目ポイントです。初音をアンドロイドのアイルやマキノが支えていくのですが、彼女らもまた少しずつ感情を得ていって今の姿があり、今もまた感情を育てているのだと。この辺読んでて、アンドロイドをただの場面設定装置にするのではなくシナリオコンセプトに組み込んでてステキ!と思うのでした。


  • 歪んだ家族像と新しい家族の創出
    • 初音は自己の家族が歪んでいたため、結婚して家庭を持つイメージが良くつかめませんでした。母親は子種を仕込まれた後に、別の男性と結婚し、初音を産みました。母親は種馬と切れておらず不倫をしており、父親もまた別に女を囲っていたのです。そんな自分が主人公くんと家族になんてなれるのかしらん?と。一方で、主人公くんもまた家族に対して諦念を抱いていると同時に、だからこそ執着してしまうという歪みをもっていました。だからこそ、主人公くんは自分と似た境遇の初音にシンパシーを感じていたのですね。そのため主人公くんは主人公くんで初音をどうしたいのかについて思い悩むわけです。そんな主人公くんに初音と一緒にないたいと思わせたのは、嫉妬の自覚からでした。ある晩、主人公くんはメイドロボたちに促されて初音のバイト先に迎えに行くと、そこには初音を狙うキモヲタがまとわりついていました。これを見た主人公くんは、嫉妬や独占欲といったものを自覚することになるのです。キモヲタを追い払った後、二人で手を繋いで家路に着くのですが、ここのシーンで主人公くんの心情描写が掘り下げられ、初音と家族を作りたいと思うようになる気持ちがとても良くグッとくるようになっています。そしてその晩、主人公くんは自分が事故の後遺症を持っていることを初音に告げる決心をします。それを聞いた初音は、主人公くんが動かなくなったら私が足になりましょうと絆を結び、フラグを成立させるのでした。この後、周囲のアシストでお互いの肉体関係を深めていき、閨房の営みが行われていきます。ここからはギャグパートです。マキノと由里花がやいのやいの言って初音を弄るシーンを楽しみましょう。



主人公くんの歪んだ家族像抜粋

まだ事故にあう前のあの頃のように、女の子にときめくことはないだろう……という、漠然とした、でも確信めいた感覚があって。それは別に事故の後遺症なんかじゃなく、たぶん、両親の離婚に起因している。母は心の弱い人だったし、離婚については、仕方ないと半分は納得はしている。残りの半分は、失望。なんだ、家族ってこんなもんか。……と。血の繋がりがあっても、縁が切れるときは切れる。そう気づいたとき、恋とか愛とか、彼氏とか彼女とか、夫とか妻とか、そういうものに俺は期待を抱かなくなった。いつか切れてしまうなら……。そんな達観が、俺を恋愛ごとに消極的にさせている。

その反面、他者との繋がりを簡単に切り捨てるような大人にはなりたくない、という気持ちもあって。家族愛というものに対して、少し……歪んだこだわりをもっていることを、朧気に自覚している。アイルとマキノに初音のことについて聞かれたとき、よくわからないと言ったのは、そのこだわりのせいだ。俺は家族を大事にしたい。

初音はもう、俺にとっての家族だ。だから面倒を見なければいけない。俺は初音のそばにいなければならない。初音がどこか遠くへいくことは許されない。初音の面倒を見ているのは、表向きは自立を推奨しながらも同居を続けているのは、そんな歪んだこだわりのせいじゃないか、と。

初音が両親の"教育"に縛られているように、俺も両親の"別れ"に囚われ、大事な人が離れてしまうことを、幼子のように怯えている。

―大事な人。そう。初音はもうすっかり、俺にとって大事な人だった。思春期の少年のように、胸をときめかせることは……歪んでしまった俺には、難しいだろう。けれど、見ようによっては……ちょっと気持ち悪い、妄想の類だけど。初音とこれから家族と暮らしていく未来が、不思議なほど容易に、違和感なく想像できた。俺にとっては恋人よりも、家族が大事で。血の繋がりのない初音と家族として暮らしていきたい。それは初音を大事な人であり、同時に大事な異性としても認識していることに、他ならなかった。もし初音が俺の問題を受け入れ、共に生きたいと願ってくれるなら。

俺は初音と、日々を重ねていきたい。