史料判読能力養成講座010 日露戦争前夜(『原敬日記』明治37(1904)年2月3日、5日より)

  • 今回扱う箇所
    • 日露戦争前夜、国民世論も元老も日露戦争を望んではいないが、日々戦争が近寄ってきている状態。

今回のおはなし

  • ロシア側は大幅譲歩する提案をしていたが、日本が通信線を遮断していたので届かなかったという説。
    • 当時の通信というのは有線であり、それを物理的に断ち切るということは戦争準備がもう既に開始しているということ。つまり通信線が遮断されている段階で、両国はもう宣戦布告はしていないけれども戦争状態へと突入している。故に、日本が通信線を遮断していたので届かなかったというのは、戦争責任を日本になすりつけるための一種のロジック。
  • 外交における非難合戦
    • ロシア側は日本に譲歩する案を持っていたというが、どこの国も複数の案を用意しておくもの。外交の場では基本的に非は全て相手側にあるというのがテンプレート。そのため、外交は自らの正当性を主張するため、非難の応酬となる。日本の外交下手は相手に対してあまり非難をしない。それは結局のところ、相手の非難を受け容れたということになってしまう。
    • 以上により、ロシア側が日本に対する譲歩案を持っていたからといって、日本側が一方的に戦争を始めたのだということにはならない。

日露戦争前夜

〇三日
選挙委員会ヲ本部二開ラキ出席シ、出張員等ノ部署ヲ定メタリ 西園
寺総裁モ出席セリ
〇五日
昨日来時局切迫露国ハ戦争二決セシ由、風聞頻々タリ 号外ヲ発スル新


聞紙多シ、時局ノ 成行二関シテハ政府秘密政略過度ノ弊、国民ハ
時局ノ真相ヲ知ラス 又政府モ最初ハ満洲問題二関シ露国二請求セシ
由ナルモ漸次変遷シテ今ハ朝鮮二於テ中立帯ノ広狭ヲ争フ位二
過キサルモノノ如シ、斯クテモ開戦トナラバ国民ハ無論二一致スヘキモ、今日ノ
情況ニテハ 国民ノ多数ハ内心二平和ヲ望ムモ之ヲ口外スル者ナク、元老
ト雖トモ皆ナ然ルカ如クナレバ、少数ノ論者ヲ除クノ外ハ内心戦争ヲ好マズ
シテ而シテ実際ニハ戦争二日々近寄ルモノノ如シ、今日マデ和戦決セス
居タルハ 露ノ利ニシテ我ノ不利ナリシコト明ラカナリ