【シンポジウム】民族のあり方と先住民族政策−台湾平埔族の原住民認定をめぐって−

常本照樹「なぜ平埔族に注目するのか?」

  • なぜ平埔族に注目するのか。
    • 台湾島の中国大陸に面した平野に居住していた民族は、明、清の時代に移住してきた漢民族に同化され、固有の文化が大きく損なわれたため、最近に至るまで原住民族として認められなかった。
    • 2016年に誕生した蔡英文政権はこれらを平埔族という原住民族として認める方針が決められた。しかし、平埔族の位置づけは、従来の16の原住民族とは異なるアプローチが取られると。
  • 平埔族とは
    • 台湾原住民のうち西部の平野部の民族総称。9族20万程度。
    • 明清の時代に(17〜19世紀)、漢民族が中国から台湾に移住、西海岸の住民と交わる。同化した原住民→熟蕃、山地にいて同化しなかった原住民→生蕃
    • 日本統治時代
    • 漢民族との同化が進んだため、言葉をはじめ伝統文化の多く失われたが、民族意識を残している人々も。
  • 平埔族の原住民族認定
    • 約20年前から文化復興や民族設定を求める運動。
    • 2016年8月、蔡英文総統が平埔族を原住民族(平埔原住民)と認定する方針を表明、法案提出。
    • まず原住民の身分は認めるが、政策は今後検討
      • 山地原住民族と伝統文化を残す程度が大きく違う。
      • 文化復興政策が急務
      • 政治的権利(特別議席)、土地権、経済的権利などの保障は困難
    • 先住民族たる地位の承認とそれに伴う権利・政策の実現を一体的に行うアプローチとそれらを段階的に扱うアプローチ。
  • 先住民族たる地位の承認とそれに伴う権利・政策の実現

浦忠成「蔡英文政権下の現住民族政策−平埔族認定を中心に」

1.はじめに
  • 台湾原住民族
    • 明朝
      • 明→夷人、蘭・西→集落名で原住民を呼称するか、フォルモサ人と呼ぶ。
    • 清朝
      • 清国統治下で言語文化を消失。土地も漢人、あるいは入って来た小作の占有にあい生存空間は縮小
      • 清国時代に平埔族の漢化はピークに達する。
    • 日本統治時代
      • 清国の「番政」が踏襲される。台湾原住民族を「蕃」と呼ぶ→1930年代以降、高山族群→「高砂族」、平原族群→「平埔族」
    • 1945年以降
      • 山地平地化、山地の現代化が施政の主軸となる。
      • 国民党政府は期限付きの登記方式で、平地原住民として登記するように求めるが、多くの平埔族が登記せず平地原住民となる機会を失う。
2.蔡英文政権の現住民族政策
  • 1947 
  • 1994
    • 憲法増修条文 →「原住民族」の一語を盛り込む。多文化と原住民族の言語と文化の積極的な維持発展を肯定
  • 陳水扁政権
    • 「国家と原住民族の新しいパートナーシップ」
      • 原住民族元の姓名、土地名称を回復し、民族知事や伝統領域の土地等の権利を求めることを尊重。
    • 「原住民族基本法」(2005)
  • 蔡英文政権
    • 原住民民族政策は基本的に民主進歩党(DPP)の一貫した理念の延長
3.蔡英文の平埔族政策
  • 原住民族への謝罪(2016年8月1日)
  • 総統府に「原住民族歴史正義與轉型正義委員会」設立
    • 原住民族の歴史、文化、言語、土地の歴史的正義に関する事項を扱う
4.平埔族認定への異論
  • 平埔族への批判点
    • 1.過去に平埔族群の各族は漢化を選び、ましてや漢族の一部を占め、植民地統治を助けた(隘勇線警備など)
    • 2.平埔族はすでに漢化しており、言語文化も維持されていない。
    • 3.1950年代に政府は既に、平埔族群古籍記載者
    • 4.平埔族が原住民族に加わることは、原住民族の今ある経費や各種の資源(選挙議席や教育費優遇等)の配分を減らすことになり、限られた土地を分割することにさえなるのではないか。
    • 5.平埔族群の人口が現在の原住民族人口を超えれば、原住民族人口が大幅に増加し、国家の現住民族政策の改変や後退を導くのではないか。
  • 批判点に対する反駁
    • 言語文化の消失、植民地統治への加担は、歴史的な状況における平埔族群の無力感や恐れによるものだった
    • 平埔族の言語文化はある程度消失しているが、幾分かの言語や独特の祭儀を保持し、復興も試みている。
    • 1950年代に平地原住民として登録しなかった原因は、当時の政府による同化や差別的な原住民族政策に帰するべき。
    • 平埔族が原住民族認定されれば、原住民人口が増え、全体の経費と資源の配分は人口に比例して増える。
5.結語
  • 政党の原住民政策の違い
    • 国民党
      • 原住民族政策に比較的保守的で補助や福利厚生に偏重し、平埔族群の正名、身分と権利の回復については比較的消極的。
    • 民進党
      • 台湾の本土政党。原住民族政策には革新的な態度を取り、平埔族の正名、原住民身分の取得と権利回復を支持している。
  • 台湾行政院が2018年5月13日に立法院に送った「原住民族歴史正義及び権利回復条例」案
    • 内容→行政院は独立した機関「原住民族歴史正義及び権利回復調査委員会(原調会)」を設立し、原住民族の権利侵害についての調査を行う。そこには平埔族に関する業務も含まれている。

疑問点など

  • 平埔族を従来から認められている原住民族と同じように地位向上させる様に感じるが、そもそもの今回のシンポジウムは平埔族は「これまでの16民族の位置づけとは大きく異なるアプローチが取られる」から行われたのではないか。「大きく異なるアプローチ」というのは、いったい何なのか?