内田弘樹『ミリオタJK妹!2』(SBクリエイティブ株式会社、2018)の感想・レビュー

レジスタンスVS傀儡政府の同民族間の殺し合いの悲哀を描いた作品。
ヴィシー政府の対独協力者が連合国勝利後、見せしめとして弾圧されたことが彷彿とされます。
同著者の『シュヴァルツェスマーケン』とは違い、エンタメ的なノリが強いので、コンビーフエンドなります。
レジスタンス戦で終わりかと思いきや、本国での勝利と強制連行帰還編まで一気にやっちゃった!
今回のメインヒロインとなる引き籠り皇女はもう少し掘り下げて欲しかった感があります。

雑感

  • レジスタンス戦における同民族間殺し問題
    • 今回の攻略ヒロインとなるのは猫耳族。ケモナーが喜びそうですね。主人公くんたちは滅亡寸前の弱小国に異世界召喚され侵略してくる帝国との防衛戦を強いられています。1巻で冬季の停戦に持ち込みましたが、春になるまでに戦力を増強しなければなりません。そんなわけで猫耳族に力を貸し、見返りとして味方に引き込むことになります。
    • 猫耳族は帝国に占領され傀儡政府が樹立されており、人民は搾取に苦しめられています。そんな帝国と傀儡政府に立ち向かうべきレジスタンスの指導者は、一度軍事作戦で大きな失敗をしたため、引き籠りとなり、滅亡を待つだけになっていました。主人公くんはこのヒッキープリンセスを立て直させ、森林でのゲリラ戦を戦うことになります。
    • ここで扱われるのが、レジスタンス/パルチザン戦の同族殺しについて。どこまでも救いのない話ですが、この作品はエンタメなので、分かりやすい敵が設定されて悲劇性が軽減されています。傀儡政府の指導者はヒッキープリンセスの叔父なのですが、典型的な王位簒奪者であり、主人公くんサイドに正当性があると読者に自然と感情移入させることでストレスを感じさせないようにしているのです。これが同著者の『シュヴァルツェスマーケン』だったらお互いがどちらも正しいと思われる正当性を叩きつけ合い鬱々しくさせるでしょう。
    • 本作は(比較的)アッサリと攻略ヒロインがトラウマを克服します(コンビーフ)。ここらへん、攻略ヒロインがシナリオ構成のための装置と化している感満載で、もっとトラウマに至る背景とか、克服の過程とか掘り下げることもできたのではないかとも思うのですが、暗くなっちゃうしね。最終的に、攻略ヒロインは、叔父を殺さず戦況の限定を図ります。すなわち、市民を巻き込まないようにして、傀儡政府VS反体制派の戦いに挿げ替えてしまうのですね。根本的な解決は帝国の侵略を止めないといけませんし。そういった理由で、猫耳族の協力を取り付けることに成功したのでした。
  • 今回の妹√
    • ミリオタJK妹というシリーズを通して描かれていくのは、妹:みぐの人間性の回復というのがテーマ。みぐは中東で創出されたデザイナーズチャイルド/デザインソルジャーであり、殺戮兵器でした。このみぐが兵器から人間になれたのも主人公くんと父親のおかげ。しかも父親はみぐのせいで死んでおり、それを負い目に感じてもいるのです。
    • 今回はみぐが猫嫌いというのが、一種の焦点として挙げられていましたが、それがみぐの過去に繋がっていたというオチです。みぐを生みだした戦争集団?は、自己を正当化するシンボルとして猫を利用していたというのです。そのため、みぐは生理的に猫を嫌悪しているのですが、そんなみぐが様々な猫耳族ヒロインと交流する中で、次第に猫に対するトラウマを克服していくのが見せ場ともいえるでしょう。主人公くんに色目を使うエロシーン担当キャラに嫉妬しながらも仲良くなっていきます。兄以外の関係性を閉じ、狭い範囲で完結していたみぐの交流圏が広がっていくシーンをみるのはじんわりきますね。
  • 今回のミリメシ「コンビーフ
    • 今回はもうひたすらコンビーフ押しでした。ライ麦パンやキャベツも出てきますが、基本はコンビーフ。コンビーフ食いたくなるよね。コンビーフが戦時中、戦後と大きく関わっていたことが紹介され、蘊蓄も面白いです。しかもサマポケでチャーハンがシナリオに重要な役割を果たしたように、本作ではコンビーフが攻略ヒロインの葛藤を打ち払います。レジスタンス戦で同族殺しを行い、尊敬する叔父との相剋により、メンタルクラッシュしている攻略ヒロインをいなした方法がとりあえずウマい飯食おうぜ!で物語を転がします。人間腹が減ってるから思考がマイナスになるのだ。とりあえず、美味い食事を食べればどうでもよくなる!を実践します。

俺達が持ってきたのはコンビーフは、日本国内で流通している「ノザキのコンビーフ」、しかもその初期のバージョンだった。〔……〕「ノザキのコンビーフ」は、その名の通り、日本の食品メーカーの野崎産業、通称ノザキが販売しているコンビーフだ。戦後間もない一九四八年に販売が開始された国産のコンビーフ第一号で、現在でも多くの日本のユーザーに愛されている。現在でこそノザキのコンビーフは台形型の缶詰として親しまれているが、最初に考案されたコンビーフはなんと「壺」入りで、続いて最初の製品として販売されたコンビーフは「コップ型のガラス瓶」入りだった。当時はまだ缶詰用のアルミが少なく、そうした形でしか売り出せなかったのだ。しかし、これが思いの外大ヒット。二年後には現在と同じ缶詰型のコンビーフが登場してさらに大きなヒットとなる。これが日本で多くの愛好家を得ているノザキのコンビーフの歴史だ。ノザキは戦時中、中堅商社として軍への缶詰の販売を行っており、そのノウハウを貯め込んでいた。戦後にコンビーフが販売されたのも、政府から「戦後の食糧難で苦しむ国民のために、高カロリーの食品を手ごろな値段で提供できないか」という相談があったからだという。実はノザキのコンビーフ、戦争と切っても切れない縁があったりする。

  • 弱小諸国家救済同盟締結国家元首ハーレム展開
    • ヒッキープリンセスを救済し、猫耳族を救った主人公くん。攻略完了!ということで、猫耳族の支援を引き出し、本国に帰還。停戦が解除されて帝国と戦うことになります。猫耳族救済でオシマイかと思っていたので、2巻で帝国戦やっちゃの!?という感じでした(残りページ的に)。そしてお決まりの斬首戦術でござい。またしてもまたしても敵司令部を強襲して大将のヒロインに要求を呑ませます。強制連行され労働力とされている本国国民を帝国から帰還させることに成功したのでした。本文でもセルフツッコミ?が入ってますが、斬首戦術司令部落多発しすぎ。次からは敵も学習するだろうと言及しております。
    • 帰還事業もシベリア抑留並みに1巻分描けるくらいのテーマとなりそうなのですが、サクッと解決。こうして、主人公くんたちが異世界召喚された目的、領土保全と強制連行された国民の帰還は達成されたのでした。しかし、今度は帝国が「禁忌」(中二)を使って本気で攻めてくるようです。それに対して主人公くんが取れる戦略は、合従策ということで、帝国に侵略を受ける弱小国を救済しながら国家元首ヒロインを攻略しつつ味方につけていくようです。帝国と戦う上での戦略/戦術上のパーツが必要となるたびに幾らでも攻略ヒロインが増やせて無限にハーレムを構築できますね。