アオイトリ「メアリー√」の感想・レビュー

尊厳死やモラルジレンマをテーマとして扱うシナリオで、ご都合主義的に全てが解決する話。
メアリーは2度死のうとする。1度目は諦念によって、2度目は人生を受け容れ満足して。
そして主人公くんには、メアリーが死んだ後にもたらされる苦しみを耐え抜くことが要求されるのだが。
主人公くんの異能で、誰も死なずハッピーになりましたよ〜ん。めでたしめでたしとなる。
さらにクリア後の幕間でメアリー√はグランド√のためのただのケーススタディーであることが判明する。
本当、ノベルゲームにおける個別√の機能的役割と消費性について思わずにはいられない。

雑感


  • 尊厳死やモラルジレンマを扱いながら、ご都合主義で全てハッピーパターン
    • メアリーは吸血鬼であり、100年の時間を過ごしてきました。今までは人格を維持できていましたが、これからは徐々に人間としての思考は薄れ、吸血鬼的思考になってしまうのだとか。そのためメアリーは人間としての人格を保っていられる間に死にたいと願い死を選ぶのでした。しかしメアリーの真の願は人間として普通の生活を送りたいということが明らかになり主人公くんが異能を使って救うのでした。ここまでプロローグ。そして共通√ではメアリーが脚本を担当した劇を行うことが決まり、そのメインヒロインを誰にするかの選択肢を経て個別に進みます。
    • メアリー√では、演劇のイチャラブ描写が棒演技だということで、恋愛を理解するために恋人ごっこをする展開。お約束の通り、それが本当の恋心になってしまって、結ばれます。しかし、ここで吸血鬼能力が発動してしまい、メアリーは主人公くんを眷族にしてしまおうとするのです。何よりも人間であることに拘ったメアリーは自分の吸血鬼的衝動に絶望し、死を選びます。しかし今度の死は諦念による死ではなく、主人公くんと結ばれて普通の生活を送ったという満足した死だったのです。死なないでとごねる主人公くんに対しては、自分が死んだ後には、その死を背負って苦しんでと告げるのでした。本作品でメアリーがメインヒロインなら墓標エンドだったのでしょうが、ご都合主義展開へ。主人公くんは自分の人格を捨てる代わりに万能な悪魔系救世主になれるため、自己を犠牲にしてメアリーを救います。そして人格が消えかかるとメアリーを筆頭として今まで救ってきた女の子たちの魂によって主人公くんの人格は守られるのです。こうしてメアリーは人間となり、主人公くんも今までの人格を維持したままですよとなってハッピーエンドとなるのでした。
    • そしてメアリーエンドのスタッフロールが流れた後、幕間が挟まり、ライターによって全体におけるメアリー√の位置づけが総括され、グランドエンドのためのケーススタディーに過ぎないことが暴露されます。個別√をただの消費として終わらせず、それに価値づけするためには、グランドエンドに入るための要素に組み込むという手段があるのですが、それをやると今度は必然性が薄れ全体の中のパーツに過ぎなくなってしまうという問題がありありと感じられるのでした。