ラズベリーキューブ「桜庭・ヴィクトリア・瑠莉シナリオ」の感想・レビュー

亡き母への贖罪の為に善行を積むことを誓った主人公くんが、自己の在り方について煩悶する話。
他の√に比べるとフラグ構築が粗雑で終局部分もご都合主義だが、主人公の苦悩と救済は見所。
他者に関わるということは、その反動でウンザリすることも多いが、それでも向き合い続けねばならない。
そしてヒロインは、傷つく主人公くんを癒し、守り、支えることに、生き甲斐を見出すのだ。
慰霊とか墓参りなどのイベントは、遺伝子に刻み込まれた原始的な祖先崇拝が揺さぶられて破壊力抜群。

桜庭・ヴィクトリア・瑠莉のキャラクター表現とフラグ生成過程


  • フラグ構築は過去忘却パターン
    • 桜庭・ヴィクトリア・瑠莉は主人公くんに対して何故だか怨念を抱き、色々とチョッカイを出してくるお年頃です。なぜ、このように嫌がらせをすることでしか他者の気を引けないのでしょうか。桜庭さんが稚拙な自己表現しかできないのには理由がありました。はい、ここでノベルゲーあるある発動ですね。ノベルゲーでは過去のトラウマから幼馴染との過去を忘却の彼方に消し去るというパターンが存在します。様式美ですね。まさに桜庭さん√はこれ。
    • 幼少期、川越に引っ越してきたばかりの桜庭さんは、周囲に馴染めず友達もおらず日本語もたどたどしく寂しい日々を過ごしていました。そんな桜庭さんにとって唯一の友達と言えるのが主人公くんだったのです。主人公くんはどこか冷めており、桜庭さんともベッタリ仲良しこよしだったわけではないですが、振り向くとそこにいて手を伸ばしてくれるという安心感ある存在だったのです。
    • しかし主人公くんは家庭環境が最悪であり、父親が別の女を孕ませて蒸発したため、母親に連れられ故郷を追われることになったのです。桜庭さんに別れを告げた主人公くんですが、桜庭さんはそれを受け容れられず、ずっと主人公くんを待ち続けることになります。主人公くんのことを忘れ去ってしまっても、約束の場所に赴くという行為は辞められず、何も期待できないまま、感情を燻ぶらせていたのでした。それ故、主人公くんと再会すると、無意識的に嫌がらせをせずにはいられないのでした。普段は現実的な主人公くんも、桜庭さんにだけは感情をあらわにしてムキになってしまうのです。そんな二人を通して美琴ねーさんは、合わせ鏡のようだと表現します。すれ違う二人ですが、美琴おねーさんのおかげで過去と向き合えるようになり、昔日の事情を話し合ってフラグが成立します。


  • 善行を積むことを誓った自己の在り方は自己満足の偽善か
    • 主人公くんを敵視していた桜庭さんですが、いったんデレるとゾッコンになりズブズブと嵌っていきます。しばらくはイチャラブの様子をお楽しみください。で、フラグ構築後にテーマとなる問題は、「生きる上での自己の在り方」についての問題です。主人公くんは家庭環境から放埓で荒れ果てた生活を送るようになりますが、それでも母親は身を擦り減らして主人公くんを育ててくれました。母の死に際、その枯れ果てた姿を見てショックを受けた主人公くんは、改心し贖罪に生きることになります。母の死後、故郷に戻って来た主人公くんは、善行を積もうと頑張るのですが、それは逆に他者に付け込まれることにもなり、お人よしとしてハメられることも少なくはありませんでした。そのため、聖人君子でない主人公くんは悩み傷つくのですが、それを桜庭さんが癒し、支えてくれるのです。皆に優しくする主人公くんを、桜庭さんが優しくしてあげるという寸法さ。この煩悶と癒しが桜庭さん√の一番の見どころといっても過言ではないでしょう。傷ついた主人公くんが、自分の目指した善行は自己の欲求を満たすためだけの偽善ではないかと思い悩み、なおかつ、たった一度の嫌なことで挫けそうになり自己嫌悪する場面は是非プレイしてもらいたいところ。
    • そして終局部分でも、主人公くんはお人よしな部分を利用されることになります。調子こいたボンボンのお尻拭きのために、チーマーの抗争に巻き込まれることになってしまうのです。この時、穏便に済ませようとしていた主人公くんですが、桜庭さんがナイフで刺されるとブチ切れて大暴れ。シリアスものだと、この後主人公くんは喧嘩の罪で停学という流れになるのでしょうが、ご都合主義が発動します。桜庭さん√では主人公くんのカッコ悪い人間臭さの部分を、スーパーパワーの桜庭さんが肯定してくれるという所に趣深さ?があるのですが、このチーマー問題も桜庭さんの掌の上で転がされるのです。なんとナイフで刺されたというのはただのフリであり、傷害事件として訴えるぞと脅すものだったのでした。最後は主人公くんが元ワルだったことを利用し、報復されたくなければ、チーマーを解散しろと圧力をかけてめでたしめでたしとなります。まぁ、なんてご都合主義でしょう!!と思って、エンドロールを眺めていましたが、エピローグに墓参イベントがあり、これは味があってよかった。慰霊とか弔いとか鎮魂とかという描写は何故だが心が揺さぶられてしまいますね。