ルクル『空に刻んだパラレログラム』体験版(ウグイスカグラ)の感想・レビュー

恋人を亡くした上、故障により競技者生命を絶たれた主人公くんが、超熱血スポコンヒロインに感化される話。
webサイト公開時でも言われていたが雰囲気は『あおかな2』。みさきち√をダークに3倍泥臭くした感じ。
ヒロインたちの歪みっぷりがステキであり、苦悩・煩悶・葛藤に苛まれながら、それでも焦がれ続けていく。
主人公くんは挫折をある程度克服しており、指導者としての道を歩むが、妹を勝たせる勝利至上主義に囚われていた。
しかし亡き恋人が望んでいたのは勝利ではなく「楽しむ」ことだった。そう、全ては独りよがりだったのだ。
それを悟った主人公くんは、亡き恋人の墓前でスポコン、妹、幼馴染と一緒にチームを結成することを誓う。
体験版では、チーム結成編・合宿編・初めての試合編を経て、夏の選抜チームに選出されるところまでをプレイできる。

攻略ヒロインの人物像描写と彼女らが抱える葛藤について

  • 転校生の容姿は亡き恋人と瓜二つ!!熱血スポコンメインヒロイン
    • この作品を動かすのは転校してきた熱血スポコンメインヒロイン:彼杵柚(ソノギ=ユズ)です。新しくやってきた明るく元気で素直なピンク転校生が、脛に疵持つ主人公くんに出会ったことで、ボーイミーツガールが始まります。と書くと、それなんて『蒼の彼方のフォーリズム』?とツッコミを入れた人は私だけではないはずです。『あおかな』との差異性を挙げれば、主人公くんが身体の故障による競技者生命の断絶に加え、恋人を事故で亡くしていることでしょうか。さらに、主人公くんは過去のトラウマをある程度受け入れているため、ヒロインによって挫折から克服されるという形式ではないことです。
    • 柚は転校初日から『キャプテン』や『ホイッスル』的な展開となります。それは自己の才能が無いのに名門校から転校してきたために実力者と勘違いされ、さらに本当の実力がバレてしまい、打ちのめされるパターンです。柚もけちょんけちょんにされて落ち込むのですが、熱血スポコンっぷりを遺憾なく発揮して立ち上がり、猛特訓に励みます。しかし、適切な指導者がおらず無意味な練習をしても上達はしません。必死で努力する柚の姿は周囲の心を打ち、主人公くんを紹介されるのでした。
    • 主人公くんは選手生命の断絶と恋人の死により精神崩壊していたのですが、不思議な運命に導かれて2年間の流浪の旅に出ることになります。1年間は世界を回って指導方法を学び、もう1年は底辺小学生チームのコーチとなり大金星を挙げたのです。こうして競技者から指導者に転じた主人公くんは満を持して舞い戻って来たのです。それ故、過去の主人公くんを知る人々は、柚を主人公くんに引き合わせたのでした。柚の熱意は主人公くんを動かし、色々なアドバイスをもらうことに成功します。しかし、主人公くんの意思はイモウトにあり、強くなりたいと願ったイモウトを指導することに第二の人生を見出そうとしていたのでした。しかし、イモウトは勝利至上主義を否定。結果的に、スポコン、幼馴染、イモウトチームが結成されます。勝利至上主義になるのではなく、競技を楽しむことを忘れない!をモットーに楽しい努力を積み重ねていくことになります。
    • 柚が転校する契機となった背景は『ホイッスル』の風祭と同じような臭いがあります。部活に入ったものの雑用と基礎練のみの毎日。ひたむきに頑張り続けていても、その環境にいるかぎりではどうにもならない不条理。この現実を知って、どうしても諦めきれなかった柚は転校を決意することになったのです。柚は転校する際に、様々な決意をもってやってきました。これにより、決してあきらめず、些細なことでは心折れず、獅子奮迅できるわけですね!!この柚の姿に、主人公くん及び周囲の人々は感化されていくことになります。

  • 幼馴染は、生まれた時から一緒だった主人公くんを親友に奪われ、さらにその親友が死んだ。
    • 幼馴染ポジションは生まれた頃から一緒にいる有佐里亜(アリサ=リア)。主人公くんに、後に恋人となる紡木紅を引き合わせたのも里亜でした。主人公くん、幼馴染、イモウトは直接に紅の死に直面しているため、それぞれが歪んでしまうことになりました。里亜の場合は主人公くんの恋人:紅と親友だっただけに、その関係性はすさまじいものとなります。主人公くんのことは何でも分かっているのに自分がフラグ構築できなかった過去、そして恋人を亡くした主人公くんに一番距離が近いところにある自分、そんな里亜の複雑な感情の機微が素晴らしくよく描けていています。
    • 里亜は、誰ともチームを組まず一人鍛錬を積んできたのですが、それは過去のチームを再生したいという思いがありました。この思いに、イモウトとスポコンが応えてチームが結成されます。しかし競技者としての里亜には問題点があり、それは持久力が無いことでした。試合終了までプレイし続けることができなかったのです。そんな里亜がとった解決策というのが理想的なフォームを身に付け効率良く動き燃費をよくすることでした。闇雲に頑張るのではなく、自己を理解した上での努力をできる子が里亜だったのです。
    • 主人公くんとフラグ構築する際に、一番葛藤を抱えていると思われるのが、この里亜。だって二人が結ばれるためには、死んだ紅の亡霊が立ち塞がるから。お互いのことをお互いが一番とよく理解しているにも関わらず、好意を示せないはがゆさっぷりがこれでもかというほど丹念に描かれています。ステキ。

  • 妹は幼少期に競技者意識が低かったが故に兄がチームを離脱したことを悔恨し、努力と研鑽に励む。
    • 自己が割けるリソースを全て身体能力向上に注ぎ込み、鍛え上げた基礎スペックだけで中学時代を圧倒してきたイモウト。それが宝生玻璃(ホウジョウ=ハリ)。幼年期は引っ込み思案で大人しく人見知りだったため、玻璃は、主人公くんや里亜、紅にべったりでした。亡き紅の提案で競技を始めた時には、みんなで和気藹々と競技を楽しめればそれでよいと満足していました。そのため、チームが勝てないことがよくあり、主人公くんは最終的にイモウトや幼馴染を捨て、強いチームへと移ってしまいます。それでも大好きなお兄ちゃんの活躍に恋い焦がれ応援してきたのですが、主人公くんは試合中に怪我をして墜落、故障して競技者生命を絶たれてしまいます。この時、イモウトは深く後悔するのです。自分がもっと強く、チームメイトとして兄の隣にいられたらと!!こうして玻璃は覚醒し、特訓の鬼となったのでした。玻璃の特訓方法は愚直なまでに、身体能力を向上させること。こうして基礎スペックだけで中学業界を制したのでした。
    • 主人公くんは当初、イモウトの高等部進学を契機に、イモウトを勝たせる指導者となるべく戻ってきます。しかし、イモウトは良い環境での勝利至上主義を捨てて、過去の仲間を選び取るのです。それはたった一人で頑張っていた幼馴染;里亜の存在。イモウトの行動に計画が狂った主人公くんですが、柚・里亜・玻璃チームの指導者となります。当初玻璃は、亡き紅と瓜二つの柚に戸惑いを隠せませんでした。しかし柚の熱血スポコンに感化され、次第に仲良くなっていきます。

  • 主人公くんに技術を仕込んだ先輩は、小器用に立ち回ることに終始し、自己の限界に諦観する。
    • 柚・里亜・玻璃と主人公くんチームのヒロインたちに対し、敵キャラとして相見舞えるのが藍住ほたる先輩です。幼少期の主人公くんに技術を仕込み、仲良し幼馴染チームから主人公くんを引き抜き、自分のチームに加えた存在です。主人公くんが怪我をした時の試合のチームメイトでもありました。何かと主人公くんを気にかけてくれるほたる先輩ですが、彼女の悩みは、泥臭い努力ができないということでした。3ヒロインがこれ以上ないくらい泥臭いのに対し、ほたる先輩は燃え上がることができないのです。ほたる先輩は幼少の頃から、センスや才能があり、本質を見抜いては要領よく生きてきました。そのため、必死で努力せずともある程度はこなせてしまっていたのです。そんな先輩は次第に努力することが怖く感じるようになっていきます。自分が倒してきた相手が、これまで必死に努力してきた存在であったことをよく知る先輩は、何よりも報われない努力が砕け散る恐さを知っていたのです。こうして先輩は小器用に立ち回ることだけが上手くなり、必死で食らいつくことをしてこなかったので、ついに頭打ちとなってしまいます。それでも先輩は、動き出すことができず、ただ達観したふりして諦念を抱き漫然と朽ち果てていくだけに甘んじているのです。この先輩が主人公くんやスポコンヒロインたちにどのように感化されていくのかが、ほたる先輩√の見どころとなっています。