論文講読用のレジュメ
- 本論の趣旨
- 「観光の政治性」。「観光を取り巻く政治」と「観光の生み出す政治」を明らかにする。
第一節 本論の視座
- 「帝国圏」と「観光圏」
- “tourism”と「観光」の差異
- 「観光」と“tourism”の接近
- 「「観光」がツーリズムの訳語として定着しはじめた1910年代には、「観光外人」を迎え入れる国際観光と、日本人による国内観光という、二つの「観光」が並存していた。前者は、1912年に創立された、半官半民の旅行斡旋機関・ジャパン・ツーリスト・ビューローによって担われていたが、後者は、第一次世界大戦後の好景気を引き金に胎動した大衆レジャーの一つとして登場したのであった。関東大震災のあと、国内観光は興隆を見せ、さらに、旅券も要らない、日本語が幅を利かせる「外地」(満洲、朝鮮半島、台湾)へと足を延ばす旅行者が急増していった。そして、太平洋戦争前夜に至って、それは「大東亜観光」にまで膨張していく。大英帝国に遅れること約70年、「観光」という日本語のニュアンスがようやく“tourism”に接近してきた〔……〕」(5頁)
第二節 分析の枠組み
1 先行研究
海外
- 二大業績
- 1977年にバレーン・L・スミス他が編纂した『観光・リゾート開発の人類学』→従来「レジャー活動」と平面的に捉えられがちだった観光現象に、ホスト(観光客を受け容れる社会)とゲスト(観光客)の二大ファクターを導入。観光をめぐる両者の社会的相互作用の解明にまで議論を深める。
- 1990年、ジョン・アーリがフーコーの「まなざし」論を敢行研究に敷衍。観光客のまなざしの背後にある社会構造を、歴史、経済、文化の多元的な視点から読み解く。
日本
- 曽山毅『植民地台湾と近代ツーリズム』(2003)
- 「〔……〕残念ながら、台湾総督府鉄道部という植民機関との結び付きについてはあまり言及されていない。政府以外にもツーリズムを担う多様な民間団体の存在も明らかにされていない」(8頁)
- 有山輝雄の「ろせった丸」満韓巡遊船の研究(有山輝雄『海外観光旅行の誕生』吉川弘文館、2001年)
- 「〔……〕メディア・イベントの分析を重視したため、「軍政」という特殊な実行条件への追及が欠落している。」(8頁)
先行研究の研究手法の二つの特徴
先行研究の問題点
- 分析枠組みの構築が出来ていない&観光研究の持つ批判的可能性が生かし切れていない
- 「〔……〕既存の領域からの模索の域に留まり、有効な分析枠組みの構築にはまだ至っておらず、「帝国(帝国後)の知」に切り込む観光研究の持つ批判的な可能性を、充分に生かしきれているとは言い難い。」(9頁)
2 本論のアプローチ
- 新しい分析概念「代理ホスト」
- 「本論では、「代理ホスト」という新しい分析概念を導入し、ゲスト(ツーリスト)/代理ホスト(コロニスト)/ホスト(ネイティブ)の三者の、「観る/観せる/観られる」まなざしの重層的なせめぎ合いを、帝国と植民地との間の非対称的な権力関係を背景に、明らかにしたい。」(10頁)
- 「代理ホスト」とは
- 「ここでは、帝国の権力空間とコロニアルな歴史背景を視座に入れ、「ホスト不在」に近い非対称的な権力構造の下に、本来の「ホスト」(ネイティブ)に君臨し、彼らを表象(代表)する「代理ホスト」という概念を提示したい。ここに言う「代理ホスト」とは、本来の「ホスト」に取って代わり、ゲストの受け入れを一手に収め、ホスト社会の「観光資源」を帝国のまなざしで発見、解釈し、そして価値づける「権威の潜在的代行者」を指す。」(11頁)
- 本論の方針
- 「本論では、欧米客に「アジア」を「代理呈示」する日本と、日本内地客に満洲を「代理呈示」する在満日本人という、同時存在していた二重の「代理ホスト」を中心に論を進めていく」(11頁)
第三節 方法と構成
1 方法
- (2)政策・制度
- 「満洲観光を取り巻く政策、制度の変動を歴史的に跡付ける。」
- 史資料:観光関係の法令規定、統計資料、旅行年鑑、満鉄の社史、ジャパン・ツーリスト・ビューローの社史、観光機関の機関誌、一般雑誌、新聞記事