雑録

Heritage tourism(007)【巡検】「キャンパス・エコミュージアム構想」

大学構内をエコミュージアム*1と考えた時のディスカバリー・トレイルの一事例を体験した。


目次

1.講義概要

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大野池からサクシュコトニ川をさかのぼれ!
 今回のヘリテージツーリズム論演習は、「キャンパス中央部巡検:展示施設と農場」。キャンパス全体をエコミュージアムと捉えてディスカバリー・トレイルを実施した。総合博物館をコア施設の拠点とし、サテライト展示として大野池・サクシュコトニ川・ウライ(アイヌ漁労施設)・古河講堂・W棟の地質展示・エルムの森・大学構内鉄道引き込み線跡・ポプラ並木を設定。これらのサテライト間を巡って地域の魅力を発見する取り組みを行った。


2.課題「3種類のトレイルのセクショナリズムとパネル問題」

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(左)生態系トレイル・(中)建築遺産トレイル・(右)人類遺跡トレイル
 今回のレポートのテーマは「エコミュージアムとしてのキャンパスの可能性と課題」である。講義の巡検でサテライト間を巡っている最中に、「展示解説パネル」を幾つか発見した。これらのパネルは大きく2種類に分けられ、それが「大学が設置したもの」と「北区が設置したもの」である。さらに「大学設置のパネル」は「人類遺跡トレイル」、「生態系トレイル」、「建築遺産トレイル」の3種類に分かれている。
 教授の解説では、このパネルが問題を孕んでいるとのこと。教授が語った話の中から論点を整理すると以下の3点が浮かび上がる。即ち(1)各トレイルの展示パネルの体系的な把握が出来ていない。(2)公式情報へのアクセス性が低く、展示パネルがどこに何があるのか分からない。(3)各トレイルのナンバリングの基準が謎。以上3点である。それぞれ詳しく検討してみたい。

2-(1).各トレイルの展示パネルの体系的な把握が出来ていない。

 まずこれは日本が慢性的に抱えているセクショナリズムの問題。折角3種類もの観点からトレイルパネルを作ったのに、これらを統括している組織がないことである。それ故、この3つの種類の展示対象を組み合わせて、トレイルコースを作ることが事実上不可能となっている。
 キャンパスのパンフレットに掲載されている展示対象やおススメコースも、これらのトレイルパネルを活用できていないのが現状である。キャンパス内を歩いている観光客に対しても、偶然案内板があったから解説を読むという行き当たりばったり的な機能にしか過ぎなくなってしまっている。各種トレイルの展示パネルがどこにあるのかを体系的に把握し、目的に合わせてトレイルコースを提示することが求められている。

2-(2).公式情報へのアクセス性が低く、展示パネルがどこに何があるのか分からない。

 キャンパスの観光資源を活かしたトレイルには「人類遺跡トレイル」、「生態系トレイル」、「建築遺産トレイル」の3種類あることを上記で述べたが、それらの展示対象はどこにあるのだろうか。直ぐに情報にアクセスすることができない。かろうじて「人類遺跡トレイル」は埋蔵文化調査室がニュースレター第6号の特集「遺跡景観」で設置場所一覧マップを解説しており、そのニュースレターはwebサイトから閲覧・DLできるので、情報に接触することができる(http://maibun.facility.hokudai.ac.jp/publications_n.html 2019年5月28日20時21分閲覧)。しかし、「生態系トレイル」と「建築遺産トレイル」は公式の情報源にアクセスできず、検索しても市井のファンが作成したサイトがメインとなってしまっているhttp://asobihorokerusan.whitesnow.jp/h.seitaikei.htm 及び  http://asobihorokerusan.whitesnow.jp/h.kenchiku.htm 2019年5月28日20時21分閲覧)。公式からの情報がないので、ナンバリングされている対象はいくつあり、その内容が何なのかは、全貌が明らかになっていない。

2-(3).各トレイルのナンバリングの基準が謎

 唯一マッピングされている「人類遺跡トレイル」の地図を見ていると、ナンバリングに法則性が見られず、番号がとんで、あちらこちらに散在していることが分かる。これは何を基準として番号を振ったのであろうか。その基準の意図が全く分からないのである。もしかしたら設置者に何らかの意図があったのかもしれないが、少なくとも距離やルート、時代や発掘年代でナンバリングしたものではないことだけは確かである。
 以下ではこれらのトレイルが何故設置されたのかについて、キャンパスマスタープランを見ていくこととする。

2-(4). キャンパスマスタープラン2006

 埋蔵文化調査室のニュースレター第6号において、「人類遺跡トレイル」が整備された理由が記されており、キャンパスマスタープラン2006のアクションプランの一つであるキャンパス・エコ・ミュージアム構想の一環であることが分かる。キャンパスマスタープランについては大学の公式webサイト(http://www.facility.hokudai.ac.jp/%E4%B8%80%E8%88%AC%E3%81%AE%E7%9A%86%E6%A7%98%E3%81%B8/%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%91%E3%82%B9%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%97%E3%83%A9%E3%83%B3 2019年5月28日20時49分閲覧)からアクセスできるので、ここからその背景を考えてみたい。
マスタープラン2006では6-5-3-Ⅱに「文化資源としてのマネジメント」というタイトルでエコ・ミュージアム構想が述べられている。「歴史的建造物、埋蔵文化財、生態環境を総体としてキャンパスの文化資源として位置づけ、その開発・保護・活用のためのプログラムづくりを推進する。このプログラムを包括する概念として、「キャンパス・エコ・ミュージアム」を用いる。 マネジメントについては、総合博物館にその役割を位置づけ、運営、統括を行う。情報の発信システムとしてキャンパス内にディスカバリー・トレイルを設け、自然、歴史(歴史的建造物)、人類史などの情報発信を行う」(『北海道大学キャンパスマスタープラン2006』、61頁)。
 つまり、このプランを受けて、歴史的建造物、埋蔵文化財、生態環境の3分野でトレイルが作られることになり、それぞれ「建築遺産トレイル」、「人類遺跡トレイル」、「生態系トレイル」として実現したと考えられる。そのことを踏まえると、明確に総合博物館にマネジメントの役割が位置づけられており、運営と統轄を行うことになっているはずである。大学がエコ・ミュージアムの機能を活かせるかどうかの可能性は、総合博物館が握っていると言えよう。

2-(5).キャンパスマスタープラン2018

 現在、キャンパスマスタープラン2018が打ち出されている。ここでは残念ながらエコ・ミュージアム構想は消失してしまっているものの、第2章1節「継承すべき北大キャンパスの普遍的価値と固有の資産」として、「都市の中の農地と附属要素が創り出す風景」、「自然・生態環境のネットワーク」、「歴史・文化的建造物の集積」、「建築とランドスケープの一体的な環境」に継承されていることがうかがえる。
 ここでは「北大固有の景観・ランドスケープ保全・創造」、「ネットワーク化する骨格づくり」、「市民や観光客との接点」、「キャンパスミュージアムプロジェクト等の新たな取り組み」、「建築とランドスケープの一体的な環境」などが唱えられている。特にキャンパス・エコ・ミュージアム構想と関係がありそうなのが、「キャンパスミュージアムプロジェクト等の新たな取り組み」である。ここでキャンパスマスタープラン2006を受けて作られた各種ディスカバリー・トレイルが活用できると思われる。総合博物館がディスカバリー・トレイルを体系的に把握し、目的に応じたコースを提供できれば新しい可能性が浮かび上がるだろう。

3. 可能性 キャンパスミュージアムプロジェクトとして思い浮かぶいくつかの事など

 安易なものではあるが、実現可能なものとしては、以下の様なものが挙げられるであろう。

3-(1).公式からの情報提供

 まず公式がトレイルに関する情報提供をしていないことを早急に改善すべきだと思われる。「人類遺跡トレイル」を除き、「生態系トレイル」、「建築遺産トレイル」は公式情報がほぼ無い。解説パネルのナンバリングに目をつけ、他の場所を回ってみようという気分になっても、情報が無ければ回ることができないであろう。

3-(2).モデルコースとツアーガイドの動画配信(見どころ解説)

 観光資源は価値づけされて初めて意味を持つ。故に、その観光資源がなぜ重要で、どこに見るべき価値があるのかを知らせる必要がある。「楽しそうにモデルコースを観光する動画」を配信し、何が面白いのか、どう楽しめば良いのかを教えるコンテンツを作成するなどの案が挙げられる。
 特に近年では、vtuberなどが注目されており、知識解説系の教養紹介動画も増えつつある。自分たちでコンテンツを開発し、観光資源として価値付けし、楽しい学びを提供することに可能性がある。

*1:「ある一定の文化圏を構成する地域の人びとの生活と、その自然、文化および社会環境の発展過程を史的に研究し、それらの遺産を現地において保存、育成、展示することによって、当該地域社会の発展に寄与することを目的とする野外博物館」http://www.ops.dti.ne.jp/~tomoken/link04-04-01.html