- 杉本圭吾「ゲームにおける地域表象」(『地域×アニメ コンテンツツーリズムからの展開』成山堂書店 2019)
- 論稿の趣旨
- 地域コンテンツ研究ではアニメ系論稿が多いが、その一方でゲーム系論稿がほぼ見られないことを主張。地域が登場するゲーム作品を整理している。
- 論稿の趣旨
以下では、この論稿のうち、ノベルゲーに関するもの(NVL,ADV,SLGなど)を抜粋し時系列順に整理する。
堀井ミステリー三部作 ADVにおけるストーリー性の発展
- 探索から物語へ
- 「アメリカで誕生したアドベンチャーゲーム(ADV)は、最初は〔……〕「探索もの」ゲームだったが、日本では物語性を強調するという独自の発展を遂げた。地域との関連から見てもこの発展は重要で、探索から物語という転換に大きな役割を果たしたゲームとして、堀井雄二が手掛けたミステリーADV、いわゆる「堀井ミステリー三部作」(エニックス)は外せないだろう。」(85頁)
第1作『ポートピア連続殺人事件』(1983)
旅ゲー諸作品の展開
12都市を巡り名所を訪問『センチメンタルグラフティ』(NECインターチャネル、1998)
- 「1998年にはNECインターチャネルから『センチメンタルグラフィティ』が発売されている。中学卒業までに日本各地の12都市で過ごした経験を持つ主人公に差出人不明の手紙が届く。主人公は手紙の差出人を探すために全国を回りつつ、各地で思い出の12人のヒロインと再会するという物語だ。北は札幌から南は長崎まで、各地に点在するヒロインに逢いに行き、ヒロインと各々の都市の名所を訪れるという「旅ゲー」の側面を持つ。当時の作品評価は低調だったが、根強いファンは多く、発売直後数年のうちに全12都市を巡礼したファンも存在する。」(88頁)
ゲームを通して北海道の魅力を発信『北へ。White Illumination』(ハドソン、1999)
- 「1999年に発売された『北へ。White Illumination』(以下『北へ。』)は、北海道内の各メディアが企画した「MOVE ON 北海道=北からの声かけ運動」への協賛として、当時札幌市に本社を置いていたハドソンが、ゲームを通して北海道の魅力を発信することを企図して制作された恋愛ADVである。主人公は北海道旅行の途中、札幌市時計台、小樽運河、富良野市のラベンダー畑など、実在の観光スポットでヒロインと出逢いながら物語は進む。北海道民のヒロインたちが主人公に観光名所を紹介するシーンが多数挿入されており、ゲームを元に北海道を訪れたファンも多い。『北へ。』では、従来のゲームファンだけでなく、ゲームに馴染みの薄い層もターゲットにしたプロモーションが行われており、例えば関東のゲームファンを札幌に集めて記念イベントを行うツアーが組まれた例や、北海道の製菓会社ROYCE'の生チョコレートに『北へ。』のタイトルロゴをプリントしたタイアップ商品が発売された。」(88頁)
『風雨来記』シリーズ
- 「同じ北海道をテーマにした作品で言えば、『みちのく秘湯恋物語』をてがけたフォグが2001年に発売した『風雨来記』が挙げられる。ルポライターの主人公が取材のため北海道をツーリングするという内容で、ヒロインとの交流のみならず、他の旅人との交流イベントが充実しているほか、ヒロインと逢わずに一人で旅を続けるというルートが搭載されるなど、「いわゆるゲーマーとは異なるユーザー層の発掘&獲得に成功」した点が、他の恋愛ADVとは一線を画す。2005年発売の続編『風雨来記2』では沖縄県が舞台に、2015年の『風雨来記3』では再び北海道が舞台に選ばれている。初代『風雨来記』発売後には、主人公のライディングスタイルを真似て「北海道にたびたび、左腕に赤いバンダナを巻いたファンのライダー」が見かけられており、作品を元にファンが北海道を訪れるのに寄与した作品と言えよう。」(89頁)
葉鍵の時代とビジュアルノベル
Key
- 「〔……〕2000年前後に『Kanon』や『AIR』など、後にアニメ化される作品が発売される。『Kanon』では雪が降る街という設定ながら、Keyを抱える株式会社ビジュアルアーツが大阪所在という事情もあり、京阪電気鉄道・守口市駅(大阪府守口市)などから背景が取られている。また『AIR』では、和歌山県美浜町、兵庫県香美町、東京都国立市などから背景が取られているが2005年のアニメ化以降、舞台の1つである香美町の観光協会が、『AIR』の舞台探訪地図を制作して配布したり、登場キャラクターをモデルにした飛び出し看板を設置したりと活動している。巡礼するファンからの情報提供により公式でも情報発信するようになったという経緯があり、作品が地域に影響を与えた例として特筆すべきだろう。」(97頁)
『ひぐらしのなく頃に』(07th Expansion、2002~)
- 「「雛見沢村」という架空の村落で発生した連続怪死・失踪事件を扱った連作形式のミステリーADVで、村独自に伝わるという架空の風習をモチーフとしたオカルト・ホラー要素が含まれている。この「雛見沢村」は実際に白川郷で撮影されたであろう写真を元に精緻に描き起こされている。アニメ化を機に人気が爆発したことも相まって、白川郷へ巡礼するファンは多く、例えば「古手神社」のモデルが白川八幡神社とされたことから、白川八幡神社では「痛絵馬」と呼ばれる、萌えキャラのイラストが描かれた絵馬が数多く奉納されている。2016年には、下呂温泉(岐阜県下呂市)と白川郷を訪れる公式ツアーが企画されファン150人が参加。原作者と声優のトークショーなども開催され、ツアーのために書き下ろされた朗読劇も披露されている。」
ビジュアルノベル関連事項
背景CGについて
制作会社と地方の関わり
- 「近年はSORAHANEのように地方に本社を構えるゲームブランドや、FAVORITEのように作中の舞台との縁で、地方にアニメ・ゲームイベントに出展するゲームブランドも増えている。また、Lose『まいてつ』のように、地方私鉄支援企画が一度は頓挫しても、全年齢版の発売を経ることで改めてコラボに成功した例も存在する。」(98-99頁)
スマホ以前における携帯型ゲーム機の隆盛 『ラブプラス+』(コナミ、2010)
- 「地域に大きな影響を与えた恋愛ADVに『ラブプラス』が挙げられる。『ときメモ』シリーズのコナミが2009年に発売したこの作品は、従来の恋愛ADVがヒロインとの恋愛成就を目的に設定されていたのに対し、恋愛成就後の出来事を描いている点が最大の特徴であるが、当初は地域とのかかわりはあまり無かった。」(89頁)
- 「ところが、2010年にアップデート版の『ラブプラス+』が発売されると状況が一変する。全国のDSステーションを訪れると各都道府県の名産品に扮したヒロインのマスコットをコレクションできる「ご当地ラブプラス」機能と、1泊2日でヒロインと熱海旅行に行く新イベントが追加されたのだ。旅行先に静岡県熱海市が選ばれたのは、「誰でも知っていて、温泉も名跡もある。昔の新婚旅行の名所というイメージも生かせる」ためだが、作中では尾崎紅葉の『金色夜叉』でも知られるお宮の松を始め、熱海城、伊豆山神社、サンビーチといった、実在の熱海名所が登場する。舞台の1つとなった老舗旅館「ホテル大和屋」は、1人利用でも布団を2組用意するといった、ヒロインもとい「彼女」連れのファンへのサービスを始めると、SNSで評判が広まり宿泊客が急増した。またコナミは、熱海市と共同で「熱海ラブプラス+現象(まつり)」キャンペーンを実施し、ゲーム内に登場した名所を回るスタンプラリーや、専用アプリを用いて撮影するとARでヒロインとの写真が撮れるというサービスを提供した。」(89頁)
シリーズそのものの巨大コンテンツ化 東方/アイマス/型月
『東方Project』シリーズ(1996~)
『アイドルマスター』シリーズ(ナムコ、2005~)
- 「〔……〕ゲーム発の地域との接点としては、キャラクターの出身地などのプロフィール情報や、キャラクターカードの背景に描かれた場所のモデル、またゲーム内で発生する地方巡業イベントなどが挙げられよう。特に顕著なものとしては、初代『THE IDOLM@STER』から登場するキャラクター『高槻やよい』の誕生日にあたる3月25日に、大阪府高槻市にある定食チェーン店「やよい軒高槻店」を大勢のファンが訪問する例がある。」(92頁)
- 「〔……〕音楽ゲームでは作中の楽曲が披露されるライブイベントの開催によって、地域とのコラボが行われる場合もある。例えば2018年に『スターライトステージ』の3周年記念ライブが、ヤマダグリーンドーム前橋(群馬県前橋市)で開催された。前橋市は、JR前橋駅構内にファンの訪問を歓迎するキャラクターパネルを設置したり、キャラクターイラストを用いて市内中心部の飲食店情報が記載されたマップを配布したりと、市長自ら先頭に立って、イベント参加者18000人を「歓迎」したが、これらの対応はファンから非常に好評を得た。」(96頁)
型月と『Fate』シリーズ
- 「〔……〕TYPE-MOONは、2001年から『月姫』シリーズ、2004年から『Fate』シリーズを発表している。どちらも発売後からゲームの背景となった場所が巡礼されているが、中でも『Fate』シリーズは、現在ではマンガ化、アニメ化、ソーシャルゲーム化など、多方面でのメディアミックスがされている。特に徳島県徳島市にスタジオを構えるufotableがアニメ化を担当した縁で、徳島市で2009年から開催されているアニメ・ゲームイベント「マチ★アソビ」において『Fate』に関連した企画が開催されている。」(98頁)
- 「〔……〕2015年からスマートフォン用RPGとして提供されている『Fate/Grand Order』では、「英霊」と呼ばれる歴史上の偉人を元にしたキャラクターにちなんで、姫路城(兵庫県姫路市)、京都市、ニューヨークなどがゲーム内舞台として登場する。他方、リアルタイムイベントは2016年開催の「Fate/Grand Party」を皮切りに、宮城県仙台市や大分県別府市など地方でも開催されている。」(98頁)
スマホゲー/ブラウザゲーの時代
『ひなビタ♪』(コナミデジタルエンタテインメント、2012)
- 「コナミデジタルエンタテインメントが2012年から開始したウェブ連動型音楽配信プロジェクトで、架空の都市「倉野川市」に住む少女たちが町おこしのためにバンド活動を始めるというバックストーリーを元に、FacebookやYouTubeでのウェブラジオなど、メディアを横断してキャラクターコンテンツを展開している。完成した楽曲はiTunesなどで配信されたほか、「BEMANI」ブランドのアーケード音楽ゲームにも収録されている。2016年には「倉野川市」のモデルである鳥取県倉吉市との姉妹都市提携が締結され、倉吉市の倉吉打吹まつりとのタイアップや、鳥取県中部地震の復興を企図したイベントが開催されている。」(96頁)