【先行研究】杉本圭吾「ゲームにおける地域表象」で扱われている作品の中からノベルゲー関連(NVL,ADV,SLGなど)を抽出し時系列順に整理したもの

  • 杉本圭吾「ゲームにおける地域表象」(『地域×アニメ コンテンツツーリズムからの展開』成山堂書店 2019) 
    • 論稿の趣旨
      • 地域コンテンツ研究ではアニメ系論稿が多いが、その一方でゲーム系論稿がほぼ見られないことを主張。地域が登場するゲーム作品を整理している。

以下では、この論稿のうち、ノベルゲーに関するもの(NVL,ADV,SLGなど)を抜粋し時系列順に整理する。

堀井ミステリー三部作 ADVにおけるストーリー性の発展

  • 探索から物語へ
    • アメリカで誕生したアドベンチャーゲーム(ADV)は、最初は〔……〕「探索もの」ゲームだったが、日本では物語性を強調するという独自の発展を遂げた。地域との関連から見てもこの発展は重要で、探索から物語という転換に大きな役割を果たしたゲームとして、堀井雄二が手掛けたミステリーADV、いわゆる「堀井ミステリー三部作」(エニックス)は外せないだろう。」(85頁)

第1作『ポートピア連続殺人事件』(1983)

  • 「1983年にPC用ゲームとして発売(1895年にファミコンに移植)された。兵庫県神戸市で起こった殺人事件を刑事となり部下と共に解決を目指すこのゲームは、花隈町、新開地、洲本市といった実在の地名が登場し、神戸港では海の向こうに観覧車が、京都では大文字山五重塔と思われる建造物がそれぞれ映り込むなど、背景も神戸市やその周辺地域を意識したと思われるドット絵が登場する。ただしこれらは、場所を「イメージした」画像ではあるものの、実景を「元に描いた」画像ではないため、今日のような「虚構世界に入り込んだノイズ」を手掛かりに実景との整合性を確かめる形の巡礼は難しい」(86頁)

第2作『北海道連鎖殺人 オホーツク海に消ゆ』(1984)

    • 1984年にPC用ゲームとして発売(1987年ファミコンに移植)された。北海道で起こった殺人事件を刑事となり部下と共に解決を目指す点は『ポートピア』と同じだが、『ポートピア』が神戸の観光名所ではなく、花隈町や新開地といった「どちらかというと猥雑なイメージの地名」が登場するのに対し、『オホーツク海に消ゆ』では、摩周湖、阿寒湖、野付半島といった、北海道の観光名所が登場する。捜査の過程で北海道各地を飛び回るため、舞台のもたらした影響は『ポートピア』以上と考えられる。」(86頁)

第3作『軽井沢誘拐案内』(1985)

  • 「1985年にPC用ゲームとして発売された。本作は事件の舞台に長野県軽井沢町が設定されており、レマン湖、地蔵ヶ原、浅間山といった実在の地名が登場するが、三部作で唯一ファミコンへ移植されなかったこともあり、前2作と比べると地域への影響は薄い。」(86頁)

チュンソフトサウンドノベル 『かまいたちの夜』(1994)

  • 「〔……〕1994年に発売された、チュンソフトの『かまいたちの夜』は注目すべき作品である。同メーカーの1つ前の作品にあたる『弟切草』では、特に地域性は強調されていなかったが、本作で殺人事件の舞台となるペンション「シュプール」は、長野県白馬村に実在するペンション「クヌルプ」がモデルである。館内は『かまいたちの夜』のロケ当時からほぼ変わらない姿を保っており、シナリオを担当した我孫子武丸のサインが飾られていたり、ゲームにも登場した料理が提供されていたり、現在でも多くの『かまいたちの夜』のファンが訪れる場所となっている。」(86-87頁)

旅ゲー諸作品の展開

旅ゲーの定着『美少女花札紀行 みちのく秘湯恋物語』(フォグ、1997)

  • 「〔……〕地域を前景化し「旅ゲー」というジャンルを定着させたという意味で重要な恋愛ADV作品と言えば、1997年にフォグから発売された『美少女花札紀行 みちのく秘湯恋物語』であろう。東北地方の観光地を巡り、旅先で出会ったヒロインとの花札勝負で物語が進行する恋愛ADVで、実際に東北で撮影された写真が背景としてそのまま用いられている。ヒロインとの恋愛模様だけでなく、平泉(岩手県平泉)、遠野(岩手県遠野市)、十和田湖(青森県十和田湖秋田県小坂町)などの観光地の解説も充実しており、「旅ゲー」の元祖としての評価も高い。また実際に東北地方へ巡礼した例も見受けられる。」(88頁)

12都市を巡り名所を訪問『センチメンタルグラフティ』(NECインターチャネル、1998)

  • 「1998年にはNECインターチャネルから『センチメンタルグラフィティ』が発売されている。中学卒業までに日本各地の12都市で過ごした経験を持つ主人公に差出人不明の手紙が届く。主人公は手紙の差出人を探すために全国を回りつつ、各地で思い出の12人のヒロインと再会するという物語だ。北は札幌から南は長崎まで、各地に点在するヒロインに逢いに行き、ヒロインと各々の都市の名所を訪れるという「旅ゲー」の側面を持つ。当時の作品評価は低調だったが、根強いファンは多く、発売直後数年のうちに全12都市を巡礼したファンも存在する。」(88頁)

ゲームを通して北海道の魅力を発信『北へ。White Illumination』(ハドソン、1999)

  • 「1999年に発売された『北へ。White Illumination』(以下『北へ。』)は、北海道内の各メディアが企画した「MOVE ON 北海道=北からの声かけ運動」への協賛として、当時札幌市に本社を置いていたハドソンが、ゲームを通して北海道の魅力を発信することを企図して制作された恋愛ADVである。主人公は北海道旅行の途中、札幌市時計台小樽運河富良野市のラベンダー畑など、実在の観光スポットでヒロインと出逢いながら物語は進む。北海道民のヒロインたちが主人公に観光名所を紹介するシーンが多数挿入されており、ゲームを元に北海道を訪れたファンも多い。『北へ。』では、従来のゲームファンだけでなく、ゲームに馴染みの薄い層もターゲットにしたプロモーションが行われており、例えば関東のゲームファンを札幌に集めて記念イベントを行うツアーが組まれた例や、北海道の製菓会社ROYCE'の生チョコレートに『北へ。』のタイトルロゴをプリントしたタイアップ商品が発売された。」(88頁)

風雨来記』シリーズ

  • 「同じ北海道をテーマにした作品で言えば、『みちのく秘湯恋物語』をてがけたフォグが2001年に発売した『風雨来記』が挙げられる。ルポライターの主人公が取材のため北海道をツーリングするという内容で、ヒロインとの交流のみならず、他の旅人との交流イベントが充実しているほか、ヒロインと逢わずに一人で旅を続けるというルートが搭載されるなど、「いわゆるゲーマーとは異なるユーザー層の発掘&獲得に成功」した点が、他の恋愛ADVとは一線を画す。2005年発売の続編『風雨来記2』では沖縄県が舞台に、2015年の『風雨来記3』では再び北海道が舞台に選ばれている。初代『風雨来記』発売後には、主人公のライディングスタイルを真似て「北海道にたびたび、左腕に赤いバンダナを巻いたファンのライダー」が見かけられており、作品を元にファンが北海道を訪れるのに寄与した作品と言えよう。」(89頁)

葉鍵の時代とビジュアルノベル

Leaf

  • ビジュアルノベルの普及に大きな役割を果たしたゲームブランドLeafの作品を見ると、第一弾の『雫』、第二弾の『痕』、第三弾の『To Heart』と、いずれもゲーム内の背景の一部が特定され、巡礼されている。特に『痕』では、作中に登場する老舗旅館「鶴来屋」のモデルが、石川県七尾市の「加賀屋」だとされ、ファンが集ってこの旅館に宿泊したという事例も見られた。」(97頁)

Key

  • 「〔……〕2000年前後に『Kanon』や『AIR』など、後にアニメ化される作品が発売される。『Kanon』では雪が降る街という設定ながら、Keyを抱える株式会社ビジュアルアーツが大阪所在という事情もあり、京阪電気鉄道守口市駅(大阪府守口市)などから背景が取られている。また『AIR』では、和歌山県美浜町兵庫県香美町、東京都国立市などから背景が取られているが2005年のアニメ化以降、舞台の1つである香美町観光協会が、『AIR』の舞台探訪地図を制作して配布したり、登場キャラクターをモデルにした飛び出し看板を設置したりと活動している。巡礼するファンからの情報提供により公式でも情報発信するようになったという経緯があり、作品が地域に影響を与えた例として特筆すべきだろう。」(97頁)

ひぐらしのなく頃に』(07th Expansion、2002~)

  • 「「雛見沢村」という架空の村落で発生した連続怪死・失踪事件を扱った連作形式のミステリーADVで、村独自に伝わるという架空の風習をモチーフとしたオカルト・ホラー要素が含まれている。この「雛見沢村」は実際に白川郷で撮影されたであろう写真を元に精緻に描き起こされている。アニメ化を機に人気が爆発したことも相まって、白川郷へ巡礼するファンは多く、例えば「古手神社」のモデルが白川八幡神社とされたことから、白川八幡神社では「痛絵馬」と呼ばれる、萌えキャラのイラストが描かれた絵馬が数多く奉納されている。2016年には、下呂温泉(岐阜県下呂市)と白川郷を訪れる公式ツアーが企画されファン150人が参加。原作者と声優のトークショーなども開催され、ツアーのために書き下ろされた朗読劇も披露されている。」

ビジュアルノベル関連事項

背景CGについて
  • ビジュアルノベルはこの『AIR』を始めとして、ゲームブランドAUGUSTのように、全国各地から舞台を借景し、パッチワーク的に架空の街を作り上げる傾向にある。」(97頁)
  • 「他方で、2014年発売のhibiki works『PRETTY×CATION』では、成人指定版『ラブプラス』的なコンセプトを持つことから、東京都内の観光施設がほぼそのまま登場する。」(97頁)
  • 「海外に目を向けると、2001年発売のminoriBITTERSWEET FOOLS』では、イタリアのフィレンツェが舞台に設定されており、海外まで巡礼した事例も存在する」(97頁)
制作会社と地方の関わり
  • 「近年はSORAHANEのように地方に本社を構えるゲームブランドや、FAVORITEのように作中の舞台との縁で、地方にアニメ・ゲームイベントに出展するゲームブランドも増えている。また、Lose『まいてつ』のように、地方私鉄支援企画が一度は頓挫しても、全年齢版の発売を経ることで改めてコラボに成功した例も存在する。」(98-99頁)

スマホ以前における携帯型ゲーム機の隆盛 『ラブプラス+』(コナミ、2010)

  • 「地域に大きな影響を与えた恋愛ADVに『ラブプラス』が挙げられる。『ときメモ』シリーズのコナミが2009年に発売したこの作品は、従来の恋愛ADVがヒロインとの恋愛成就を目的に設定されていたのに対し、恋愛成就後の出来事を描いている点が最大の特徴であるが、当初は地域とのかかわりはあまり無かった。」(89頁)
  • 「ところが、2010年にアップデート版の『ラブプラス+』が発売されると状況が一変する。全国のDSステーションを訪れると各都道府県の名産品に扮したヒロインのマスコットをコレクションできる「ご当地ラブプラス」機能と、1泊2日でヒロインと熱海旅行に行く新イベントが追加されたのだ。旅行先に静岡県熱海市が選ばれたのは、「誰でも知っていて、温泉も名跡もある。昔の新婚旅行の名所というイメージも生かせる」ためだが、作中では尾崎紅葉の『金色夜叉』でも知られるお宮の松を始め、熱海城伊豆山神社、サンビーチといった、実在の熱海名所が登場する。舞台の1つとなった老舗旅館「ホテル大和屋」は、1人利用でも布団を2組用意するといった、ヒロインもとい「彼女」連れのファンへのサービスを始めると、SNSで評判が広まり宿泊客が急増した。またコナミは、熱海市と共同で「熱海ラブプラス+現象(まつり)」キャンペーンを実施し、ゲーム内に登場した名所を回るスタンプラリーや、専用アプリを用いて撮影するとARでヒロインとの写真が撮れるというサービスを提供した。」(89頁)

シリーズそのものの巨大コンテンツ化 東方/アイマス/型月

東方Project』シリーズ(1996~)

  • 「〔……〕同人サークル「上海アリス幻樂団」が1996年から制作する『東方Project』の一連の作品が挙げられよう。日本の山奥に存在するとされる架空の世界「幻想郷」を舞台としているが、シリーズによっては、遠野物語西行法師、諏訪信仰などをモチーフにしたキャラクターが登場することから、遠野市、弘川寺(大阪府河南町)、諏訪大社(長野県諏訪市ほか)などが関連付けられて巡礼されている。特に諏訪大社は、ネガティブな側面も指摘されるものの、ファンがこぞって巡礼する地としてよく知られている。」

アイドルマスター』シリーズ(ナムコ、2005~)

  • 「〔……〕ゲーム発の地域との接点としては、キャラクターの出身地などのプロフィール情報や、キャラクターカードの背景に描かれた場所のモデル、またゲーム内で発生する地方巡業イベントなどが挙げられよう。特に顕著なものとしては、初代『THE IDOLM@STER』から登場するキャラクター『高槻やよい』の誕生日にあたる3月25日に、大阪府高槻市にある定食チェーン店「やよい軒高槻店」を大勢のファンが訪問する例がある。」(92頁)
  • 「〔……〕音楽ゲームでは作中の楽曲が披露されるライブイベントの開催によって、地域とのコラボが行われる場合もある。例えば2018年に『スターライトステージ』の3周年記念ライブが、ヤマダグリーンドーム前橋(群馬県前橋市)で開催された。前橋市は、JR前橋駅構内にファンの訪問を歓迎するキャラクターパネルを設置したり、キャラクターイラストを用いて市内中心部の飲食店情報が記載されたマップを配布したりと、市長自ら先頭に立って、イベント参加者18000人を「歓迎」したが、これらの対応はファンから非常に好評を得た。」(96頁)

型月と『Fate』シリーズ

  • 「〔……〕TYPE-MOONは、2001年から『月姫』シリーズ、2004年から『Fate』シリーズを発表している。どちらも発売後からゲームの背景となった場所が巡礼されているが、中でも『Fate』シリーズは、現在ではマンガ化、アニメ化、ソーシャルゲーム化など、多方面でのメディアミックスがされている。特に徳島県徳島市にスタジオを構えるufotableがアニメ化を担当した縁で、徳島市で2009年から開催されているアニメ・ゲームイベント「マチ★アソビ」において『Fate』に関連した企画が開催されている。」(98頁)
  • 「〔……〕2015年からスマートフォンRPGとして提供されている『Fate/Grand Order』では、「英霊」と呼ばれる歴史上の偉人を元にしたキャラクターにちなんで、姫路城(兵庫県姫路市)、京都市、ニューヨークなどがゲーム内舞台として登場する。他方、リアルタイムイベントは2016年開催の「Fate/Grand Party」を皮切りに、宮城県仙台市大分県別府市など地方でも開催されている。」(98頁)

スマホゲー/ブラウザゲーの時代

ひなビタ♪』(コナミデジタルエンタテインメント、2012)

  • コナミデジタルエンタテインメントが2012年から開始したウェブ連動型音楽配信プロジェクトで、架空の都市「倉野川市」に住む少女たちが町おこしのためにバンド活動を始めるというバックストーリーを元に、FacebookYouTubeでのウェブラジオなど、メディアを横断してキャラクターコンテンツを展開している。完成した楽曲はiTunesなどで配信されたほか、「BEMANI」ブランドのアーケード音楽ゲームにも収録されている。2016年には「倉野川市」のモデルである鳥取県倉吉市との姉妹都市提携が締結され、倉吉市の倉吉打吹まつりとのタイアップや、鳥取県中部地震の復興を企図したイベントが開催されている。」(96頁)

艦隊これくしょん-艦これ-』(DMM GAMES、2013)

  • 「DMM GAMESが2013年から提供する『艦隊これくしょん -艦これ-』は、旧日本海軍ほかの艦艇を擬人化した美少女キャラクターをプレイヤーが提督として指揮し、海からの脅威と戦うというゲームである。ゲーム内に実景は登場しないが、「旧海軍の鎮守府や基地が設営された土地」「旧海軍の艦艇の命名由来となった土地」「旧海軍の艦艇の造船所・鎮魂碑・沈没地点」など、さまざまなアプローチから巡礼が行われている。提供が開始された2013年の時点で、「鎮守府」の1つ、神奈川県横須賀市にファンやコスプレイヤーが集い、次第に舞鶴(京都府舞鶴)や大湊(青森県むつ市)など地方にも派生している。」(92頁)

『城姫クエスト』(GREE、2014)『御城プロジェクト』(DMM GAMES、2016)

  • 「〔……〕実在の城や城址が擬人化されている。それぞれモデルの城を巡礼するファンも存在するが、特に『城姫クエスト』では、ゲームに登場するキャラクター「松前城」と、松前城(北海道松前町)周辺で開催される「松前さくらまつり」とのコラボ企画も行われている。」(93頁)

ウマ娘 プリティダービー』(Cygames、2017~)

  • 「ゲームの配信に先立って、コミックス化や楽曲のCD化などのメディアミックスが行われており、特に2018年のアニメ化で話題となった結果、キャラクターのモデルとなった往年の競走馬が放牧されている牧場や墓所への巡礼、または競馬場へと足を運ぶといった例も見られた。(※引用者註:ゲーム本編は2019年10月3日現在、未だ未発表)」(93頁)

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