雑録

「『恋する小惑星』の作品と舞台地の魅力」

課題レポートで提出した文章

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1.作品の魅力について~地質系女子たちの魅力~

 本作品は地学部を扱っており、部員たちは天文班と地質班に分れている。特筆すべきなのは地質班の部員の魅力であり、地質という比較的マイナーな分野にスポットライトを当てたことに加え、キャラクター表現が良い味出を出している。地質班の先輩・後輩コンビは物語の原動力となっているといっても過言ではない。一応、本作の主題は主役である天文班の二人が新しい小惑星を発見して命名者となることを目指す物語なのだが、当初の主役を食ってしまうほど地質班の二人はキャラ造形の深さを見せている。

①桜井美影

 まず一人目が桜井先輩である。元地質研究会の出身であったが、合併後の地学部では副部長となっている。一見すると生真面目で融通が利かないのだが、そんな桜井先輩が地学部の中でほぐれていく過程が丁寧に描かれている。特に将来に於いて明確にやりたいことが見出せない不安に駆られだすところから桜井先輩の真骨頂が始まる。1巻の合宿編できちんとやりたいことがある天文班のメンバーを羨むそぶりを見せ始め、2巻の鉱物・化石の展示即売会の時点では負のスパイラルに陥いるが、文化祭編で2話分かけて桜井先輩は覚醒するのである。聡明な桜井先輩はやる前から可能性を捨ててしまう傾向があり、思考の第一に無理という考えが浮かんでしまう弱さがあった。しかし地学部の顧問教員から興味を持ったことを調べて発表するだけでも尊いという助言を受け、「アタシはアンタが何を調べてどう思ったのか知りたいぞ」という後押しにより、無理だと思い込んでいたボーリング調査に挑むことになるのである。実現可能なボーリングコアの採取に取り組んでいる所、その姿を見た知り合い連中が手助けをしてくれるのだ。ここで桜井先輩が「私 趣味や部活の話……クラスメイトには分かってもらえないだろうって決めつけていた でも でも…やってみる前に無理って決めちゃうのはホント - もったいないな」と目覚める描写は一見の価値ありである。

②猪瀬舞

 続いて地質班の二人目が猪瀬さんである。猪瀬さんは地図や地形図に興味がある地理ガールであり、地質図に感動して地質研究会に入部した。当初はツンツンしがちな桜井先輩と周囲の緩衝役であったが、徐々に主体性を確立していく。趣味の地図は地学部ではやれないと諦めを甘受している所があったが、桜井先輩の名言「夢を遠慮しない」に触発され、合宿で国土地理院に行きたいと主張できるようになるのだ。そして猪瀬さんに試練が訪れる。それは先輩方の引退後に部長を任されたことである。当初は部長になる自信が無かったが、転校問題で悩む下級生のあおや推薦入試に落ちてしまったモンロー先輩を見て、独り立ちをする決意をして覚醒する。猪瀬さんは地学オリンピックに出ることによって自分の在り方を示すのであった。地学部の活動でこんなにも熱い展開を見られるのは猪瀬舞というキャラクター表現の掘り下げに成功しているからである。

2.舞台地の魅力について

茨城県における博物館等諸施設(地質標本館、JAXA宇宙センター、国土地理院)

 コンテンツ・ツーリズムにおいて博物館とのコラボは重要な要素であり、コンテンツは普段興味を抱いていない層にまで学問的な魅力をリーチさせる効果を持つ。本作品は地学の魅力を存分に引き出しており、茨城県の地質標本館、JAXA宇宙センター、国土地理院が登場する。これらの施設はシナリオ上でも重要な位置を占めており、地質標本館では地元で採集した化石を同定する嬉しさが描かれ、宇宙センターではモンロー先輩の夢が語られ、夢を恥じるなという桜井先輩の言葉に触発された猪瀬さんが国土地理院に行きたいと主張するのである。そして作中では各施設を楽しむ様子が地学部員たちを通して描かれており、読者の興味関心を湧き立てること請け合いである。

②清河寺温泉

 漫画版では舞台設定が出て来ていないが、アニメ版は埼玉県川越市を舞台としている。埼玉県庁の観光課はアニメによる地域振興を目指しているが、ここでまた一つ観光資源が生まれたと言えよう。この文章を書いている2020年1月13日の時点ではアニメ版はまだ第2話までしか放映されていないが、温泉回の舞台となる清河寺温泉にはとても入りたくなる。ここでも地質班の桜井先輩と猪瀬さんがひときわ目立つ存在となっており、敷石や岩を思わず眺めてしまう様子がコミカルに描かれている。そして温泉の成分から温泉源に想いを馳せ、遥か昔に溜まった水が、現在という時間に湧き出ていることを噛みしめる様子が大変よろしく、化石海水について語る桜井先輩の色っぽさについては是非皆様に御覧になって欲しいところである。

3.まとめ

 以上のように、『恋する小惑星』は地学、特にこれまで扱われることが少なかった地質・地形・地図の分野を題材にしながら少女達が成長していく様子が描かれていく。単なる高校生の成長譚ならいくらでも転がっているが、この作品は要所要所で、地学でしか描けない少女たちの心の揺れ動きを描き出すことに成功しているのである。特にアニメ版では埼玉県の文化的・自然的・歴史的景観が綿密に踏まえられており、少女たちの経験や記憶がそれらの場所に染み付きコンテンツと地域資源の重層性を醸し出している。
 

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