雑録

Contents Tourism Planning & Management 2019(017)「コンテクストデザイン」

コンテンツツーリズム論演習の第17回目は「コンテクスト・デザイン」に関する話。
コンテンツツーリズムは「Special Interst Tourism」であり万人受けの商品にすることは難しい。
コンテクスト(文脈)を共有する人にとっては「聖地」でも他の人にとっては単なる場所に過ぎないのだ。
だからこそ旅行業者は万人に共有される強い文脈としての「大きな物語」を作ろうとしている。
果たしてコンテンツツーリズムを商品化することはできるのであろうか。

旅行業者がコンテンツツーリズムを「商品」化することを目論んでいるが、コンテクストをマス化することができるか。

コンテクスト(文脈)の共有 重層性とストーリー化

  • コンテンツツーリズムを商品化しようとする場合
    • コンテンツツーリズムにおいて「たんなる場所」が「聖地」化するのは、「場所」に「文脈」が付与されて価値づけが起こるからである。しかしながらコンテンツツーリズムの場合、「文脈」を共有する人々が特定の限られた階層に限られため、あくまでもSIT(Special Interest Tourism)なのである。それゆえコンテンツツーリズムを引き起こすには、ターゲットにした文脈共有者層を掘り下げるか、文脈共有者自体を拡大する必要がある。コンテンツツーリズムを地域振興に利用する場合は、ターゲット層の掘り下げという方法をメインとしてよく、作品をきっかけに場所を訪れたファンに対して、作品だけでなく地域そのものに興味を持ってもらうという方向にもっていけばよい。しかしながら、コンテンツツーリズムを「商品」にして儲けようとする場合は、限られたターゲット層だけに的を絞るわけにもいかない。そのため「文脈」を「共有」する絶対数を増やそうとするのである。言い換えれば「コンテクスト」を「マス化」しようとし、商品としてのコンテンツツーリズムは成り立たせようとするのである。しかし、そもそも作品のファンは旅行業者にお膳立てしてもらわなくとも自分で主体的に聖地巡礼する。

  • 文脈の共有①「文脈の重層性」
    • 第一に、文脈の共有者を増やすために考えられるのが、「文脈の重層性」である。例えば『宇宙よりも遠い場所』(以下『よりもい』)に影響されて茂林寺に行ったとしよう。ここでは茂林寺そのものがヘリテージ的な価値を持っている。日本遺産「里沼」の資源の一つとなっていたり、上毛かるたで「ぶんぶく茶釜の茂林寺」としてうたわれていたりするのだ。そのため別に『よりもい』を知らない人でも歴史好き、自然好き、タヌキ好き、寺院好き、上毛かるたプレイヤー(群馬県民)は茂林寺を楽しむことができよう。ここでは『よりもい』という文脈以外にも多数の文脈があるので、文脈の共有者が増えるというパターンである。

  • 文脈の共有②「ストーリー化」
    • だが、必ずしもその「場所」に重層的な文脈があるとは限らない。それゆえ、文脈の共有者を増やす二つ目の方法が、ストーリー化である。これは日本遺産でも取り入れられていることだが、観光資源をパッケージ化し「物語」に位置付けることで、個人の個別具体的な特殊事例としてのコンテクストを一般化普遍化しようする方法である。現在旅行業者がコンテンツツーリズムに目を付けて「商品」化を狙っているが、その手法がこの「ストーリー」商法なのである。

  • 「聖地」は育てるもの
    • しかし、ここで問題が発生する。そもそも聖地巡礼・舞台訪問のようなコンテンツツーリズムにはマスツーリズムはそぐわない傾向にある。インターネットとSNSの普及によってコンテンツの「舞台」が即座に特定されるようになり、そこへ「探訪」した先駆者たちのツイートや訪問記によって、いわゆる「聖地」化が起こる。そしてコンテンツのファンたちがその「聖地」を目指して「巡礼」を行うことで、「聖地」が成長していく。勿論、「聖地」化するためには現地住民たちの協力も必須であり、インナーブランディングとして現地住民にコンテンツを好きになって貰うこともまた必要である。すなわち「聖地」とはそこにあるものではなく、育てるものなのである。

  • ストーリー化による「聖地」から「消費の対象」への変化
    • コンテンツツーリズムを「商品」化しようとする旅行業者は、もう既に育った「聖地」にストーリーを付与して、パッケージングして、切り売りしようというのである。既存のコンテンツを利用して地域振興を目指そうとする地域活性化案はまだ、コンテンツや地域のことを考えている。しかし旅行業者の商品になってしまえば、その場所は大きな物語、強い文脈によって価値づけられたに過ぎない単なる消費の対象となってしまうのである。

  • まとめ
    • 以上をまとめると次の通りとなる。コンテンツツーリズムはSITであり、場所に対する文脈は個人によって大きく異なる。コンテンツツーリズムを商品化するためには、文脈を共有させなければならない。その方法には二つあり、「文脈の重層性」と「文脈のストーリー化」である。しかしながらそもそも観光資源となる「聖地」はファンと現地住民が育てることで成立したものであり、既存の「聖地」にストーリーを付与しパッケージ化して切り売りすると「聖地」は単なる「消費の対象」となってしまう。